Perfume

緒方宗谷

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遊園地に行く

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 みのるは、真一と一緒に東京旅行に来ていた。都内にある大きな遊園地で、屋外屋内アトラクションの他、ミュージアムなども併設されている子供の国だ。久しぶりの遠出、しかもお泊り旅行で、みのるはとてもはしゃいでいた。
 いつもはみのるの発案で遠出の場所は決まるのだが、今回は真一の希望で決まった。大はしゃぎのみのるが園内に入ってまず向かったのは、科学技術をテーマにしたテーマパークだ。
 ここは最近できた施設で、1階は近現代の科学展示、2階は最新のロボットを展示していて、3階は宇宙に関する展示を行っていた。
 1階の展示の殆どは、みのるの生活に無い物であったが、真一の幼い頃は家にあったものや見た事あるものが多い。
 一通り目を通してから螺旋のスロープを上っていくと、みのるよりも真一の方が興奮気味になる。小学生の頃に見ていたアニメを思わせる様なフォルムの人型ロボットや、6個も8個もタイヤのある車が展示してある。遂にそういう時代が来たのだと実感させた。
 360度全天モニターによる太陽系の星々を見せるプラネタリュウムは大迫力で、真一の心はとても揺さぶられる。ちょうど日本の小惑星探査機についての特別展示を行っていて、普段以上に興味を持って見学することが出来た。
 1時間半もあれば見て回れる広さだったが、気がついて時計を見ると3時間経っていた。それでもこの遊園地のほんの端っこを経験しただけだ。それから更に数時間しても、外のアトラクションを回りきれない。
 「すごいな、このジェットコースター」
 「うん、怖かったね、今度はあっちのに乗ってみようよ。
  僕、怖すぎるのより、ちょっとスリルがあって沢山面白い方が良いな」
 アトラクションはとても豊富だ。1/4程度は、もうみのるの年齢では楽しめないものであったが、ジェットコースターや観覧車、お化け屋敷や室内アトラクションは十分楽しめた。
 気持ちを抑えきれないのか、殆どスキップのように歩んでは、真一を遅い遅いと呼びたてる。
 真一は、あの手紙の事をどのように考えているのだろうか。みのるは父親と違って、施設という言葉に目を奪われた。自分は、あの家から追い出されてしまうのではないかと恐れているのを払拭しようと、意識的にはしゃいでいたのだ。
 聖子の存在は常に見え隠れしていたし、時々家に来て祖母と部屋の掃除をしてお茶をするようになった早苗は、家庭支援センターの職員なのだから、真一は自分をどこかにやって、聖子と結婚するのではというストーリーが、どうしても頭を離れない。
 よく、高価なチョコレートなどを真一が持って帰ってくることがある。会社でもらったというが、全て甘ったるい香水の主からだろう。
 みのるもチョコは好きだが、このチョコは食べたくない。気持ちのせいだろうか、甘いと全く感じられないし、美味しいとも感じられない。
 目の前に真一がいなければ、捨ててしまいたいほどだ。スーパーで売っている100円のチョコは美味しいと思えるのに、何故なのかみのるは考えもしなかった。完全に気持ちが拒絶していたのだ。
 この遊園地には温泉付きのホテルが隣接している。散々遊んでもまだ遊び足りないみのるは、買ってもらったクレープを握りしめながら、全力でホテルへ走った。
 「みのる、そんなに走ったら、クレープを落とすぞ」
 「うん、分かった」
 そう答えながらも、全く聞く様子が無い。
 「あの子、絶対クレープ落とすよ」
 みのるとすれ違ったカップルはそう言いながら、真一の横を歩いていく。今がとても危険な事は、誰でも気づくだろう。真一も散々注意していた。みのるは、クレープの一番下のとがった部分を持っていたから、彼を見た皆の視線は、真っ先にそこに集中した。
 走り出したみのるを見た時、一瞥でそれに気が付いて凍りついた。だが、それも後の祭りだ。走る振動で徐々にクレープ生地の耐久度は低下していく。遂には、握った手の人差し指と親指の所にしわが寄って、バタリと倒れてしまった。
 まだ食べ始めて間もない。8割がた残っていたはずのクレープは、無残にもほとんどが失われ、中のクリームを晒して地面に落ちた。
 「ごめん」
 「良いよ、残ったクレープを食べちゃいな、包み紙で、落ちたのを集めよう」
 カバンの中には、運よくティッシュがあったからそれも使ったが、集めきれない。仕方がないので、少し離れたところにいた清掃員を見つけて、掃除してくれるように頼んだ。
 一転してしょんぼりしたみのるを責めず、真一は手をつないでホテルの入り口を探した。ここら辺では一番大きなホテルだ。2人共こんなホテルには、泊まった事は無い。大人ながらに、少し緊張していた。
 チェックインをして少し休憩した真一は、食べ損ねた甘味をみのるに与えるべくカフェに誘った。クレープを失ったのがとてもショックだと見えたからだ。見る影もなくしょぼくれていた様子は吹き飛び、部屋中をかけ始める。
 この時ばかりは、全くの演技はない。みのるは不安を払拭しようと、あえて楽しむ事に没頭していたが、今は努力しなくても嬉しさでいっぱいだ。
 「一番上に行ってみたい。
  ほら、展望ラウンジって書いてあるでしょう?」
 「ここはレストランだな、カフェは無いみたいだけど、見に行ってみるか?」
 「えー?じゃあ行かない。
  カフェは何階?」
 「その下だな」
 「じゃあ、そこにする」
 こんな風に都市を見下ろすのは久しぶりだ。東京タワーやスカイツリーに行った時以来か。あの時も今回も、2人は見えもしない茨城の方角を探す。ここは回廊ではなかったが、カフェは北向きだったから、窓に面した席を選んだ。
 「こんな日がずっと続くと良いなぁ」
 みのるは笑顔で言った。
 「そうだね」
 真一は悲しく笑って、そう答えた。






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