エスパー&ソーサラー

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
98 / 107
大魔王ルーゲイル

しおりを挟む
 上手く動かそうとしても動かせない。ミリィは、自らの身体に重なる光を扱おうと、意識を集中させていた。自分を守るラングたちの声や金属音、発動する魔法の音も聞こえないほどだ。
 (そうだ・・・、現人神になっていた時の感覚、記憶は無いけれど、もっと、こう・・・、一歩踏み出せる・・・)
 そう思った瞬間、何かの感覚を掴んだ。自らの肉体を離れた淡く光る何かは、その全容を現した。
 「わたし?」
 白く光るアストラスボディのような自分が、目の前にいた。
 「ミリィさん! 危ない!!」サラが叫んだ。
 雄たけびを上げて、ケルベロスが迫ってくる。3つある頭の内2つは死んでいたが、右端の1つだけ辛うじて生きていたようだ。
 逃げようと手を引くラングを制止し、ミリィは自分から分離した光る体を動かしてみた。
 「いける! 動かせる!」
 ミリィは、もう1人の自分を勢いよく飛ばした。その右手に発したソニックブレードのような光る剣は、ミリィの何倍もある大きさだ。一瞬にしてケルベロスの首を右前足ごと斬り落とした。
 息も絶え絶えの体で何とか生還したウォーロックを回収して戻ってきた光る体は、よく見ると完全な魂魄体のようだ。
 その様子を注視していたルーゲイルがつぶやく。
 「現人神か? 似ているが非なるものか?」
 まだ希望が残っていた。ミリィは、ルーゲイルとの一騎打ちに臨むべく歩み出た。
 ミリィに対峙したルーゲイルが言う。
 「もうあきらめて、私の生贄になったらどうだ、ミリィ・グランディアよ」
 「お断りよ、あんたこそ、さっさと後ろにある魔界の門から帰ったら?」
 「減らず口を」
 「言っておくけど、今のわたし、超強いかもしれないわよ」
 ルーゲイルの目の前に、高濃度の魔力が漂い始める。ミリィは身構えると、どす黒い津波が押し寄せる前に叫んだ。
 「行け~!! ミリィちゃん2号!!!」
 拳を振るった瞬間、霊気の爆風を残してミリィちゃん2号が突っ込む。蹴り上げる前足を掻い潜って、右わき腹にサイコキャノンを打ち込んだミリィちゃん2号は、間髪入れずに左手を刃に換えて、切り上げた。
 「ぐぎゃぁ!!」
 確実に効いている。低いうなり声を上げるルーゲイルは、苦痛に顔を歪ませながら背を向けて、後ろ足でミリィちゃん2号を蹴りあげる。
 ミリィちゃん2号はバック転でそれを交わして、3体のダークエンジェルを切り伏せ、もう一度ルーゲイルに突っ込んだ。咄嗟に張られた結界に阻まれたが、瞬時にそれを切り裂いて内側に侵入して、眼前にあった右腕を切り落とす。
 「ぐぉ! バカな!? 現人神でもないのに!? いったいなんなのだ!!」
 明らかに狼狽えている。切り落とされた右腕から噴き出た魔力は、ルーゲイル本体と交わり、再び一つとなった。


しおりを挟む

処理中です...