94 / 107
地獄の入り口
2
しおりを挟む
堕天使やアンデットの攻撃をかわすために、本体は海岸線の森の中を進軍した。
普通、見晴らしの悪い森の中はアンデットに襲われやすいのだが、この森にはトロルやオーガなどの邪霊獣が生息している。平時であれば、人間と仲が悪い彼らだが、天使や悪魔との戦争になると、同じ人間界の住人として共闘してくれる。
実際森の中には、叩き潰されて絶命したアンデットが散見された。
「森の人たちも外で戦ってくれるって言ってますよ」
精霊を介してトロルたちの意思を確認したサラは、ミリィに言った。
「頼もしい限りだけど、どこまで役に立つかしらね。中央亜大陸にいる邪霊獣って、強いのはオーガくらいでしょ?」
「いなよりはマシですよ」
「まぁ、そうだけど」
森の外では、前線部隊による戦闘が開始されているようだ。
ミリィたちが属する第八騎士団が小高い丘に攻め上がると、ついに魔力の黒い塊と化したルーゲイルの姿が視界に入った。
「ようやくね」
そうつぶやいたミリィが丘の下を見やると、あの邪教団が連合軍と闘っていた。
「パーピー!?」
「ミリィさんあれ!!」サラが叫ぶ。「あの魔獣、頭が3つあるやつがいますよ」
地獄の門番といわれるケルベロスだ。
「スフィンクスとか、グリフォンまでいるぞ。もはや人間界じゃないな」
ウォーロックですら動揺を隠せない。その横でミリィがたじろいだ。
「すっごく大きくてライオンみたいな人獣みたいな魔獣がいるけど、ドッキリじゃないわよね」
頬をヒクヒク強張らせるミリィに、ウォーロックが言った。
「マンティコラとキマイラ(魔獣、人工的に合成されたキメラとは違う)だな。
コウモリの羽が生えた方もいるぞ、完全に伝説上の魔物じゃないか」
「先頭の兵士たちが苦戦するのも無理が無いわね。て言うか、何でこんな辺境の邪教団に、こんな強力な魔獣を召喚できるのよ。
ずるいわ! 辺境のやつらは、大抵やられ役なはずよ!!」
すごい偏見だ。
「ルーゲイルの加護があるからだろうな」
「最悪」
さらっと答えるウォーロックを見やったミリィは、ため息をついた。
海を背にしたルーゲイルを囲むように左右に回った連合軍は、徐々に綺麗な隊列を形成していく。鶴翼の陣を何とか組み上げた連合軍は、徐々にその包囲を狭めていった。
凄まじい光景だ。天空には高位の精霊たち、地上には10万を超える軍勢が、巨大な魔獣たちと戦いを繰り広げていた。
火炎や電撃が飛び交い、屍とかした敵味方の死体が地面を覆い尽くしている。
「もう覚悟を決めないとね」
ミリィが言った。それを聞いたラングが口を開く。
「すまないなミリィ、外国人の君をこんな戦いに巻き込んでしまって」
「本当よ、この戦いが終わったら、ちょっとやそっとのお礼じゃ済まないわね」
「ミリィさん、逃げるなら今ですよ。海峡を渡ればすぐに東の亜大陸ですし、もしかしたらあちらの軍隊も出てるかもしれません。
今逃げれば、なんとかサンシャインブルーまで行って、サイコラークに帰ることが出来るかもしれませんよ」
ミリィは、心配そうにそう言うサラの頭をポンポンと叩いて言った。
「いまさら何言ってるのよ。この期に及んで逃げたりなんかしたら、お父様に張り倒されちゃうわよ。
それに、本当に勝てなさそうだったら一目散に逃げるから、今のサラの言葉忘れないでよ、敵前逃亡の事前許可なんだから。
みんなも良いわね? 忘れないでよ」
ラングとウォーロックは笑って頷く。
そうこうする内に、一番の厄介者であったケルベロスの始末がようやくついたようだ。低く唸ったケルベロスは、一度天を仰いで地面にとっぷす。
それと同時に、突撃準備を知らせる太鼓をたたくよう、総大将が指示を下した。
普通、見晴らしの悪い森の中はアンデットに襲われやすいのだが、この森にはトロルやオーガなどの邪霊獣が生息している。平時であれば、人間と仲が悪い彼らだが、天使や悪魔との戦争になると、同じ人間界の住人として共闘してくれる。
実際森の中には、叩き潰されて絶命したアンデットが散見された。
「森の人たちも外で戦ってくれるって言ってますよ」
精霊を介してトロルたちの意思を確認したサラは、ミリィに言った。
「頼もしい限りだけど、どこまで役に立つかしらね。中央亜大陸にいる邪霊獣って、強いのはオーガくらいでしょ?」
「いなよりはマシですよ」
「まぁ、そうだけど」
森の外では、前線部隊による戦闘が開始されているようだ。
ミリィたちが属する第八騎士団が小高い丘に攻め上がると、ついに魔力の黒い塊と化したルーゲイルの姿が視界に入った。
「ようやくね」
そうつぶやいたミリィが丘の下を見やると、あの邪教団が連合軍と闘っていた。
「パーピー!?」
「ミリィさんあれ!!」サラが叫ぶ。「あの魔獣、頭が3つあるやつがいますよ」
地獄の門番といわれるケルベロスだ。
「スフィンクスとか、グリフォンまでいるぞ。もはや人間界じゃないな」
ウォーロックですら動揺を隠せない。その横でミリィがたじろいだ。
「すっごく大きくてライオンみたいな人獣みたいな魔獣がいるけど、ドッキリじゃないわよね」
頬をヒクヒク強張らせるミリィに、ウォーロックが言った。
「マンティコラとキマイラ(魔獣、人工的に合成されたキメラとは違う)だな。
コウモリの羽が生えた方もいるぞ、完全に伝説上の魔物じゃないか」
「先頭の兵士たちが苦戦するのも無理が無いわね。て言うか、何でこんな辺境の邪教団に、こんな強力な魔獣を召喚できるのよ。
ずるいわ! 辺境のやつらは、大抵やられ役なはずよ!!」
すごい偏見だ。
「ルーゲイルの加護があるからだろうな」
「最悪」
さらっと答えるウォーロックを見やったミリィは、ため息をついた。
海を背にしたルーゲイルを囲むように左右に回った連合軍は、徐々に綺麗な隊列を形成していく。鶴翼の陣を何とか組み上げた連合軍は、徐々にその包囲を狭めていった。
凄まじい光景だ。天空には高位の精霊たち、地上には10万を超える軍勢が、巨大な魔獣たちと戦いを繰り広げていた。
火炎や電撃が飛び交い、屍とかした敵味方の死体が地面を覆い尽くしている。
「もう覚悟を決めないとね」
ミリィが言った。それを聞いたラングが口を開く。
「すまないなミリィ、外国人の君をこんな戦いに巻き込んでしまって」
「本当よ、この戦いが終わったら、ちょっとやそっとのお礼じゃ済まないわね」
「ミリィさん、逃げるなら今ですよ。海峡を渡ればすぐに東の亜大陸ですし、もしかしたらあちらの軍隊も出てるかもしれません。
今逃げれば、なんとかサンシャインブルーまで行って、サイコラークに帰ることが出来るかもしれませんよ」
ミリィは、心配そうにそう言うサラの頭をポンポンと叩いて言った。
「いまさら何言ってるのよ。この期に及んで逃げたりなんかしたら、お父様に張り倒されちゃうわよ。
それに、本当に勝てなさそうだったら一目散に逃げるから、今のサラの言葉忘れないでよ、敵前逃亡の事前許可なんだから。
みんなも良いわね? 忘れないでよ」
ラングとウォーロックは笑って頷く。
そうこうする内に、一番の厄介者であったケルベロスの始末がようやくついたようだ。低く唸ったケルベロスは、一度天を仰いで地面にとっぷす。
それと同時に、突撃準備を知らせる太鼓をたたくよう、総大将が指示を下した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる