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春人編 収容所
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一瞬にして辺りが眩しくきらめく。春人は天から差し込む希望の光に歓喜した。聞きなれたあの優しい幸助声が聞こえたからだ。
残された気力と体力を振り絞って駆け寄った春人の全身は、温かい幸助の腕に抱きしめられた。懐かしい香り。お父さんの香りだ。
ようやく、ようやくこの地獄から出ることが出来る、と春人は思った。絶望のどん底にいた春人は、奇跡のような幸助との再会に胸を震わせて咽び泣いた。もう2度と離れたくない。永遠にお父さんと一緒にいたい、永遠に一緒にいたい、と春人は願った。
生まれてきてこの様な喜びは味わったことがない。本来なら、この様な喜びを毎日味わっていて良いはずの、悲しみから最も遠い存在であるはずだ。何の罪もない子供なのだから。愛されていて当たり前のはずだ。
春人は、魂が揺さぶられるほどの感動から涙を流し続けた。だが、その喜びは一瞬の内に消し飛ばされてしまった。
数名の親衛隊によって幸助から引きはがされた春人は、圧死してしまうのではないか、と言う力で取り押さえられた。字彫り出すような声で幸助を呼んだ。
突然の銃声が鳴り響いて幸助が蹲ると、ハルトの思考はピタリと止まった。地面に血が広がっていく。
一瞬何も聞こえなくなった。全ての意識が幸助に集中した。不意に喧騒が聞こえてきて我に返った春人は、必死に幸助を呼び続けた。
春人は、言葉ではなく全身を使って気持ちで天に叫んだ。
「神様、なぜ神様は僕にこんな酷い仕打ちをするのですか? こんな目に遭わせるのなら、どうして僕を産んだのですか? 僕はお父さんと会えてとても嬉しかったのに、どうしてまた引き離すのですか?こんな事なら、初めからもう一度会わせないでほしかった」
春人は天を仰いで神を呼び続けた。だが、神は何もお答えにならなかった。
倒れた2人の親衛隊が介抱される中、幸助だけが捨て置かれている。春人は、自分だけでも幸助に駆け寄ってやりたかった。凍てつく風に晒された幸助が冷たい地面に横たわっている。なんとかしてそばに行って、自分の体温を分けてあげたい。
春人は、心の叫びを全身から発し続けた。
「神様、どうかお願いします神様!!お父さんと一緒にいさせてください。
もうこんな、こんな悲しい思いをするなんて嫌なんです。本当のお父さんとお母さんも死んでしまいました。弟達ももう生きていないんでしょう? それなのになんでもう一度お母さんを奪われないといけないんです?
お母さんはドイツ人だったけれど、罪なんて何もありません。だって僕を助けてくれたんですから。神様、お母さんは祝福されて天使に守られても良いほどの人でしたのに。何で殺したんですか!?
そしてまたお父さんを殺そうとしている。こんな悲劇ってありますか!? 僕はただ家族と一緒にいたいって願っているだけなのに!!
教えてください神様、ねえ神様。どんな理由があって僕はこんな目に遭うのです。何のためにこんなつらい目に遭うんです?」
春人は心底その問いへの答えを求め懇願し続けた。だが天は、地上の惨劇が嘘であるかのように静まり返っていた。
残された気力と体力を振り絞って駆け寄った春人の全身は、温かい幸助の腕に抱きしめられた。懐かしい香り。お父さんの香りだ。
ようやく、ようやくこの地獄から出ることが出来る、と春人は思った。絶望のどん底にいた春人は、奇跡のような幸助との再会に胸を震わせて咽び泣いた。もう2度と離れたくない。永遠にお父さんと一緒にいたい、永遠に一緒にいたい、と春人は願った。
生まれてきてこの様な喜びは味わったことがない。本来なら、この様な喜びを毎日味わっていて良いはずの、悲しみから最も遠い存在であるはずだ。何の罪もない子供なのだから。愛されていて当たり前のはずだ。
春人は、魂が揺さぶられるほどの感動から涙を流し続けた。だが、その喜びは一瞬の内に消し飛ばされてしまった。
数名の親衛隊によって幸助から引きはがされた春人は、圧死してしまうのではないか、と言う力で取り押さえられた。字彫り出すような声で幸助を呼んだ。
突然の銃声が鳴り響いて幸助が蹲ると、ハルトの思考はピタリと止まった。地面に血が広がっていく。
一瞬何も聞こえなくなった。全ての意識が幸助に集中した。不意に喧騒が聞こえてきて我に返った春人は、必死に幸助を呼び続けた。
春人は、言葉ではなく全身を使って気持ちで天に叫んだ。
「神様、なぜ神様は僕にこんな酷い仕打ちをするのですか? こんな目に遭わせるのなら、どうして僕を産んだのですか? 僕はお父さんと会えてとても嬉しかったのに、どうしてまた引き離すのですか?こんな事なら、初めからもう一度会わせないでほしかった」
春人は天を仰いで神を呼び続けた。だが、神は何もお答えにならなかった。
倒れた2人の親衛隊が介抱される中、幸助だけが捨て置かれている。春人は、自分だけでも幸助に駆け寄ってやりたかった。凍てつく風に晒された幸助が冷たい地面に横たわっている。なんとかしてそばに行って、自分の体温を分けてあげたい。
春人は、心の叫びを全身から発し続けた。
「神様、どうかお願いします神様!!お父さんと一緒にいさせてください。
もうこんな、こんな悲しい思いをするなんて嫌なんです。本当のお父さんとお母さんも死んでしまいました。弟達ももう生きていないんでしょう? それなのになんでもう一度お母さんを奪われないといけないんです?
お母さんはドイツ人だったけれど、罪なんて何もありません。だって僕を助けてくれたんですから。神様、お母さんは祝福されて天使に守られても良いほどの人でしたのに。何で殺したんですか!?
そしてまたお父さんを殺そうとしている。こんな悲劇ってありますか!? 僕はただ家族と一緒にいたいって願っているだけなのに!!
教えてください神様、ねえ神様。どんな理由があって僕はこんな目に遭うのです。何のためにこんなつらい目に遭うんです?」
春人は心底その問いへの答えを求め懇願し続けた。だが天は、地上の惨劇が嘘であるかのように静まり返っていた。
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