Kaddish

開放

２５ー２

　１９３９年にポーランドに侵攻して以降、瞬く間に欧州をその支配下に組み入れて行ったナチスドイツは、一時期において敵国の反攻を全く許さないほどの強さであった。陸軍の圧倒的な機動力を持って戦力を集中し、一瞬の内に敵を包囲殲滅し占領する。いわゆる電撃作戦である。
　しかし、ドイツ本国から離れ戦線が伸びていくにつれて、戦力を１つの作戦に集中する事はかなわず、更にタイフーン作戦において、ソビエト連邦の首都モスクワを陥落せしめることに失敗してから、東部戦線は守勢一方となった。
　開戦当時にフランスの北半分を占領したドイツは、オランダなどの亡命政府を受け入れる西欧最強の敵、大英帝国を討つべく、海峡を渡る。
　日本、ドイツ、アメリカの台頭で、既に斜陽の老大国と化したイギリスであったが、世界にまだ多くの植民地を有し、強大な力を誇っていた。
　イギリスへ渡ったポーランドなどの飛行兵と共に迎え撃つイギリス空軍は、ナチスの予想に反して、大きな抵抗を示した。洋上で行われた海戦と空戦で、ドイツ空軍は終始連合国側を打ち破る事が出来ず、最後の最後までその侵攻を阻まれ続けたのだ。
　ドイツ軍は、強力な陸軍力を機動的に動かし、一点に集中投下する事によって、圧倒的な力を示してきた。３０ｋｍ程度しかない大陸と大ブリテン島との間に横たわるドーバー海峡を前にして、独海軍は陸軍を渡らせる事が出来なかったのだ。
　欧州の戦争にアメリカが参戦すると、兵站が伸びきったドイツ軍は各地で連戦連敗を繰り返すようになる。都市防衛に対しては対空砲火であたるとしていたから、瞬く間に本国上空の制空権を奪取されてしまう。
　戦争後半は戦闘機による防衛を強化したものの、幸助が住んでいた田舎町などまで、その効果が波及する事は無かった。爆撃は数回しか行われなかったが、飛来する敵爆撃機に対して、殆ど無抵抗のまま空爆に晒されたのだ。　
　そして、運命のノルマンディー上陸作戦が決行される。虐殺に怯える人々は歓喜に沸いたが、解放は遅々として進まない。そればかりか、摘発と連行は激化していく。
　一進一退を繰り返しながら、徐々に支配領域を失っていったドイツであったが、それとは反比例して、収容所内における大虐殺は激しさを増していったのだ。
　４月３０日にあの忌まわしきアドルフ・ヒトラーが自殺し、そのすぐ直後の５月２日にベルリンはソ連に降伏した。
　そうなると、著しく低下していた各地のドイツ軍の戦意はさらに低下して、地に落ちていく。
　５月７日にドイツ西部が降伏して、５月８日に連合国側が勝利宣言をすると、翌９日に東部が無条件降伏をして、欧州における主要な戦闘は終結した。
　長く悪夢のような戦争は、遂に終わりを告げたのだ。