Kaddish

緒方宗谷

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士官に残っていた良心

21ー2

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 「コウスケ、無事だったのだな、コウスケ」
 聞き覚えのある声が聞こえる。懇意にしてくれていた軍の士官トーマスだった。
 「ひどい有様だな、これでは店は再開できそうにないな。
  だが、命があっただけでも良かったではないか」
 「何が良いものですか。妻は死んでしまい、息子は行方知れず、生きているのか死んでいるのかさえも分からないんです」
 「その事だが、コウスケ、その・・・」
 トーマスは言葉に詰まった。
 「あの子は、ハルト君は、君の子ではないのではないかね?」
 「はるとが私の子でない? 何を言うんです! そんな事があるもんですか!!」
 食って掛かる私に、トーマスは同情の眼差しで見つめる。私の態度は、連行されて拷問されてもおかしくないほどだ。
 「妻がね、聞いてしまったのだよ。
  覚えているか? 妻が息子のお古をあげに行った日があっただろう。
  あの日に偶然聞いてしまったらしいのだ」
 古着の記憶は無かったが、トーマスの妻が家にやって来て、えらく緊張した記憶だけが甦ってきた。
 「まさか! まさか! 引き渡したんじゃないだろうな!?」
 私はトーマスの胸ぐらを掴んで、壁に押してぶつけた。
 「この悪魔め!! いったい何人の人間を殺せば気が済むんだ!! 私の息子を返せ! 今すぐ返してくれ!!」
 「・・・・私が・・・私が知った時には、既に手遅れだったんだよ、分かってくれ。
  妻は、私に知らせる前に親衛隊に知らせたんだ。
  爆撃が無ければ、あの翌日には警察が君の所に行って、ハルト君を連行する予定だったんだ」
 「爆撃があったんだ! 来なかったじゃないか!」
 「爆撃の翌日朝に、婦人会のクラウゼ夫人がハルト君を見つけて、私の妻の所に連れて行ったんだ。
  君の家は略奪にあっている最中だったから、放ってはおけなかったんだ。
  だが、妻は・・・、ハルト君を親衛隊に引き渡してしまったんだ」
 私は、大声をあげて泣き崩れた。
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