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出産
19ー1
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ベルリン周辺の状況は、風雲急を告げていた。連日の空爆に各地が襲われ、大都市は瓦礫と化してしまったらしい。ここまで来るとさすがに噂を抑えきれない。この町の住人達もドイツが敗北するのでは、と思い始めているようだ。
「知っているか? 実は、陸軍はソ連でやられていたんだと。
もう何年も前に、モスクワからも撤退していたらしいぞ。
ボロボロになってドイツに戻ってきたところを見たってやつがいるんだ」
「本当なのか? それじゃあ、ここまでソビエトが来るんじゃないか」
「ああ、そうなるだろうな、だがどうしようもないぞ。もうベルリンだって壊滅してるって噂だ」
取締りの数が日に日に増していくが、町の不安を抑えきることが出来ず、噂が噂を呼び、そこいら中を飛び交う。
幸い、この町は6月に空爆されて以降、2度目の空爆は免れていた。それでも私達は、いつでも逃げ出せるように、とリュックに服と缶詰を詰めて、ドアの傍に置いていた。
週に1度は怒鳴り声がと友に、逃げる足音を複数の足音が追う音が聞こえる。それは、決まって日が暮れてからだ。夜は外出が禁止であったから、捕り物の音がとても良く響いていた。
噂によると、ドイツ系のベルギー人やオランダ人が紛れ込んでいるらしい。ドイツ国内のレジスタンスも活発化しているようだ。異民族に向かっていたゲシュタポの人間狩りが、同族へと向かっていた。
配給も滞り始めて久しい。工場も稼働しない日が珍しくなくなってきていたが、なんとか私達は日々を生活していた。
ベルリンからの手紙は一向に来ない。そればかりか、支店に届く荷物から本社の物まで無くなってしまった。いよいよベルリン壊滅の噂が信憑性を増してきている。
その様な環境でも、妻のお腹は構わず日増しに大きくなっていて、遂に内側から蹴飛ばすようになっていた。
「春人、良く聞いてね、貴方はもうすぐお兄ちゃんになるのよ。
赤ちゃんは、わたし達家族がお世話をしてあげないと生きていけないし、いろいろ教えてあげないと、成長できないのよ。
わたしは、この赤ちゃんに、とても優しい良い子になってほしいの。
頭なんて良くなくても良いから、こんな時代の中でも、悪い心に染まらない良い子になってほしいの」
「必ず良い子になるよ、だってお母さんの子供だもの。
2人の血を引いているんだから、良い子にならないはずないよ」
「あら、貴方の弟よ、血の繋がりなんて関係ないわ」
妻は、はるとに顔を近づけて瞳を見つめ、続けた。
「春人は、わたし達の事をお父さんとお母さんとして、大好きでいてくれるでしょう?わたし達も貴方の事を大好きなのよ。
戦争が終わっても変わらないわ、戦争が終わって、貴方が元の名前で呼ばれる事を望んでも、生んでくれた両親と再会しても、私達のもとを離れる事になったとしても、わたし達が貴方を愛する気持ちは変わらないわ。
わたし達の貴方への愛は、本物ですよ」
はるとは、安らいだ表情で妻のお腹に抱き付いて、新しい命の鼓動に耳を傾けた。
「知っているか? 実は、陸軍はソ連でやられていたんだと。
もう何年も前に、モスクワからも撤退していたらしいぞ。
ボロボロになってドイツに戻ってきたところを見たってやつがいるんだ」
「本当なのか? それじゃあ、ここまでソビエトが来るんじゃないか」
「ああ、そうなるだろうな、だがどうしようもないぞ。もうベルリンだって壊滅してるって噂だ」
取締りの数が日に日に増していくが、町の不安を抑えきることが出来ず、噂が噂を呼び、そこいら中を飛び交う。
幸い、この町は6月に空爆されて以降、2度目の空爆は免れていた。それでも私達は、いつでも逃げ出せるように、とリュックに服と缶詰を詰めて、ドアの傍に置いていた。
週に1度は怒鳴り声がと友に、逃げる足音を複数の足音が追う音が聞こえる。それは、決まって日が暮れてからだ。夜は外出が禁止であったから、捕り物の音がとても良く響いていた。
噂によると、ドイツ系のベルギー人やオランダ人が紛れ込んでいるらしい。ドイツ国内のレジスタンスも活発化しているようだ。異民族に向かっていたゲシュタポの人間狩りが、同族へと向かっていた。
配給も滞り始めて久しい。工場も稼働しない日が珍しくなくなってきていたが、なんとか私達は日々を生活していた。
ベルリンからの手紙は一向に来ない。そればかりか、支店に届く荷物から本社の物まで無くなってしまった。いよいよベルリン壊滅の噂が信憑性を増してきている。
その様な環境でも、妻のお腹は構わず日増しに大きくなっていて、遂に内側から蹴飛ばすようになっていた。
「春人、良く聞いてね、貴方はもうすぐお兄ちゃんになるのよ。
赤ちゃんは、わたし達家族がお世話をしてあげないと生きていけないし、いろいろ教えてあげないと、成長できないのよ。
わたしは、この赤ちゃんに、とても優しい良い子になってほしいの。
頭なんて良くなくても良いから、こんな時代の中でも、悪い心に染まらない良い子になってほしいの」
「必ず良い子になるよ、だってお母さんの子供だもの。
2人の血を引いているんだから、良い子にならないはずないよ」
「あら、貴方の弟よ、血の繋がりなんて関係ないわ」
妻は、はるとに顔を近づけて瞳を見つめ、続けた。
「春人は、わたし達の事をお父さんとお母さんとして、大好きでいてくれるでしょう?わたし達も貴方の事を大好きなのよ。
戦争が終わっても変わらないわ、戦争が終わって、貴方が元の名前で呼ばれる事を望んでも、生んでくれた両親と再会しても、私達のもとを離れる事になったとしても、わたし達が貴方を愛する気持ちは変わらないわ。
わたし達の貴方への愛は、本物ですよ」
はるとは、安らいだ表情で妻のお腹に抱き付いて、新しい命の鼓動に耳を傾けた。
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