Kaddish

緒方宗谷

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婦人会

15ー1

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 「メラさん、貴方も生粋のアーリア人なのですから、総統閣下のために働かなければいけませんよ。
  貴方が私どもの会に迎え入れられる事は、とても名誉な事です。
  ご主人も立派な日本の方なのですから、女性としての責務を果たす事を望んでいるでしょう?」
 中年で自信に満ちた目で妻を口説く婦人が来ていて、もう30分近くも婦人会の活動を説明し、それに参加する事がいかに大切かを力説している。
 「はい、その通りです、マライさん。
  ですが、息子のハルトはとても病弱で、ここに引っ越して来たのも静養の為なんです。
  ここ最近ずっと体調がすぐれなくて、まだ旅の疲れが癒えていないんです」
 「まだですか? もう何カ月も前の事なのに? 男の子でしょうに、もう少し強くなれないのですか?」
 夫人は呆れた様子で、ため息をついた。
 「もともと肺が悪かったのですが、その影響か内臓が弱ってきている様子なんです。
  日本にいた時の主治医から言われていたのですが、いつかはこうなると覚悟しておきなさいとの事なんです。
  そのいつかが今の様なのです」
 初耳だ。医者からそんな話は聞いたことが無い。日本での出来事など確かめようもないのだから、ある事ない事好き放題に言っている。悲しげに眉を寄せている表情などを見ると、女優にでもなれるのではないかと思う。
 「そうなんですね、子供がいても頑張っている党員は沢山いますけれども、病気があっては無理も出来ないでしょうが・・・」
 まだ妻をナチス党員に引き込みたい夫人に、妻が一言付け加えた。
 「日本でもベルリンでも先生は、成長するにつれて病状も軽くなるでしょうって、おっしゃってくださっていますから、息子の調子の良い時は、何か協力できないか考えてみますわ。
 党員として働けなくても、何かできる事があるかもしれませんもの」
 ナチス政権下の女性は、公に差別をされていた。大所帯の女性団体ですらナチス化を受け入れて、自分達を二流の性と位置付けている。日本にいた時、欧州はレディーファーストの国だと、こちら出身の友人に聞いていたから、意外な光景だ。
 ナチスの女性に対する政策上なのか、女性の正式な党員はいないはずだが、ベルリンでもここでも結構な規模で党員を名乗る人達がいた。





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