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田舎への逃避
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私と義父は、まずハルトの痕跡を消そうと、飾ってあった写真を集めてキッチンで燃え始めた木片に重ねた。本来なら形見の写真だ。みんな躊躇するのが普通だが、誰も躊躇しなかった。この子を守る。その意思でみんな一致団結をしていたからだ。
家にあった大きなトランクに詰められるだけ衣服を詰めた。行く先は田舎の缶詰工場だから、食べ物には困らないだろう。経営する支店に赴くのだから、お金も問題ないはずだ。
義父は、必要そうなものを片っ端に集めて持ってきて言った。
「汽車での長旅になるから、パンを持って行った方が良いだろう。
一昨日買ってきたものだから、カチコチだけどね。
これなら腐らないから、持っていってくれ」
「ありがとうございます、お義父さん」
夕食は、ソーセージの入ったキャベツとじゃが芋のスープと、今日買ったばかりの柔らかいパン。それに2品のおかずが付いた。急いで作ったから豪勢な晩餐とはならなかったが、新しい息子にとっては、十分過ぎるほど有り難かった。
朝ご飯の最中にドイツ兵が押し寄せ、ほとんど食べる間もなかったのだろう。命を削るような恐怖の中逃げ隠れて、夕方になってようやくここまで来られたのだ。
私が実の子を庭に埋葬するまで、泣きじゃくる妻の横で静かに座っていた。それから後も、両親が帰宅して私と長い事言い争っていたから、生きた心地もしなかっただろう。
そうして、ようやく口にできた食事なのだから、この子は一心不乱に頬張り続けた。時折パンをのどに詰まらせて、妻から渡されたミルクを飲み、また口いっぱいにパンを詰め込む。この繰り返しだ。よほどお腹が空いていたのだろう。
暫くすると、この子の頬に血の気が戻ってきた。パンの糖質が血管を巡って、体の隅々まで届き始めたのだ。
妻は、微笑んで言った。
「安心してね、今日から貴方はわたしの子供ですからね。
誰も貴方を捕まえに来たりなんかしないから」
家にあった大きなトランクに詰められるだけ衣服を詰めた。行く先は田舎の缶詰工場だから、食べ物には困らないだろう。経営する支店に赴くのだから、お金も問題ないはずだ。
義父は、必要そうなものを片っ端に集めて持ってきて言った。
「汽車での長旅になるから、パンを持って行った方が良いだろう。
一昨日買ってきたものだから、カチコチだけどね。
これなら腐らないから、持っていってくれ」
「ありがとうございます、お義父さん」
夕食は、ソーセージの入ったキャベツとじゃが芋のスープと、今日買ったばかりの柔らかいパン。それに2品のおかずが付いた。急いで作ったから豪勢な晩餐とはならなかったが、新しい息子にとっては、十分過ぎるほど有り難かった。
朝ご飯の最中にドイツ兵が押し寄せ、ほとんど食べる間もなかったのだろう。命を削るような恐怖の中逃げ隠れて、夕方になってようやくここまで来られたのだ。
私が実の子を庭に埋葬するまで、泣きじゃくる妻の横で静かに座っていた。それから後も、両親が帰宅して私と長い事言い争っていたから、生きた心地もしなかっただろう。
そうして、ようやく口にできた食事なのだから、この子は一心不乱に頬張り続けた。時折パンをのどに詰まらせて、妻から渡されたミルクを飲み、また口いっぱいにパンを詰め込む。この繰り返しだ。よほどお腹が空いていたのだろう。
暫くすると、この子の頬に血の気が戻ってきた。パンの糖質が血管を巡って、体の隅々まで届き始めたのだ。
妻は、微笑んで言った。
「安心してね、今日から貴方はわたしの子供ですからね。
誰も貴方を捕まえに来たりなんかしないから」
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