Kaddish

緒方宗谷

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新しい息子

6ー2

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 「よく聞くんだ、君はハルトだ。 
  良いね、良く聞くんだ、君は私の息子のハルトなんだ。
  日本人のお父さんと、ドイツ人のお母さんの間に生まれた子供だ。
  良いね、君はとても病弱で、1日の殆どをベッドで過ごしているんだ」
 「そうよ、貴方はわたしの可愛い子供なのよ。
  大丈夫よ、安心して、貴方の事を助けてあげるわ。
  だからもう怯えないで!!」
 妻は、震える体を拭き終わる間もなく抱きしめて、彼を慰める。
 段々と犬の鳴き声は近づいてきた。私の胸は、キュッと締め付けられる。
 「ああ、どうしよう、もしかしたら、あの犬どもに嗅ぎ付かれたのかもしれないよ」
 「ええ、そうかもしれないわね。
  でも私は、この子を引き渡さないわ。あなたもそう思っているのでしょう?」
 「当り前さ、ナチスなんて糞食らえだ。
  私は、有色人種として礼を言うよ。君の心に色を差別する心は、微塵もなかったんだから」
 そう言いながら妻を強く抱きしめて、急いでキスをした私は、この子供が着ていた服を全て薪ストーブにくべて火をつけた。その足で庭に戻ってスコップを手にすると、義母が花壇にするために耕して花の種を蒔いた所を掘り返す。必死に何度も何度も、息もせずに掘っていった。
 迫りくる何匹もの犬の鳴き声は、家の塀のすぐ向こうを駆け抜けていく。幸いこの家には気が付かなかった様子だ。私は、あの子供と同じくらいの大きさの穴を掘り終えて、呆然と見下ろしていた。
 妻は、あの子を連れて息子の部屋に行くと、すぐに下着を穿かせ、上等なシャツとズボンで包んでやった。それから私のもとにやって来て、その穴を見て突然泣き崩れる。私に、穴を掘った理由を尋ねるまでもなく、その理由を察したのだ。
 妻は、出てきたあの子を抱えて部屋へと走って行ったが、そのすすり泣く声は、開け放たれたままの扉の奥から私のもとまで届いた。
 私の息子は黒髪である。身長もほぼ同じだ。肌の色は多少差があるものの似ていたし、幸いどちらも二重であった。
 そうなのだ。私達夫婦は、殺されるはずだったこの子供を、死んだ我が子として匿おうというのだ。私達が行える抵抗と言えば、この程度の事しかない。それでもこの子1人だけでも救えるのだ。
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