Kaddish

緒方宗谷

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死別

1ー2

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 息子は病弱でいつも床に臥せっていたから、ドイツまでの長旅は心配でならなかった。1914年から‘18年まで続いた第一次世界大戦が終わって大分経つとはいえ、あの戦争からすでに立ち直っているとは思えない。
 仮に立ち直った国があったとしても、世界恐慌の影響で経済への打撃は計り知れないはずだ。そもそも、前の大戦でほとんど無傷の勝利を収めた日本が、今の不景気に喘いでいるのだから、戦乱の中心地となった欧州においては、景気の悪さは日本の比ではないのではないか、と思っていた。
 「メラ、本当にドイツに帰りたいのかい?」
 「ええ、帰りたいわ、あなた。
  ドイツは良い所よ、確かに戦争で大変な事になってしまったかもしれないけれど、緑の山々や草原は変わらないはずよ。
  ハルトだって、向こうで静養すればよくなるはず。
  これは神様のお導きなのよ、考えてみて、あなたはこの会社の跡取りなんだから、普通は外国になんか出さないわ、でもお義父さんは、出してくださるの。
  ありえないでしょう?これは、神様がドイツに行けとおっしゃっているんだわ、きっと」
 妻は、私に何か悩み事があると、決まって神のお導きである、と言ってためらう事を忘れさせる。優柔不断な性格の私にとって、彼女の何でも肯定的に捉えて前進しようとする性格は、とても励みになる。
 元来の性格もあるが、気弱になりがちな息子を毎日励ましていたから、日本語で励ますことがとても得意になった。
 長く少しウェーブのかかった肩にかかる髪は、黄金色をしていて眩しい。日本人の3倍はあろうかという目はクッキリとした二重で、吸い込まれるような青い瞳をしている。本当に真っ白な頬に浮くそばかすがチャームポイントだ。
 出会いは、梅雨まっただ中の銀座。家族旅行で訪れた日本の町を観光中に、雨が降ってしまって動けなくなっていた時、私達は出会った。傘を貸してあげた事で仲良くなって、東京観光中はずっと私が案内してあげていた。
 その時はそれで終わったのだが、ドイツに帰った彼女は度々私に手紙を書いてくれて、それを機に文通が始まったのだ。私も彼女もお互いに相手を忘れることが出来ずに、会えない環境が好きという気持ちを育んでいった。
 常に前向きな彼女であったから、親の反対を押し切って1928年に再来日をして、真っ先に私のもとに来て抱きしめてくれた。
 翌年には世界恐慌が始まってしまったので、帰れなくなったメラはそのまま私と結婚して、翌‘30年に春人を出産して今に至る。
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