16 / 19
北与野 ~不思議の国の館~
しおりを挟む
なんの変哲もない道路が延びる。静かな団地の一角で、小さなウサギ(?)の木製サインに気を取られて視線をあげると、無垢なコットン色の生地に透ける薄明かりを見つけた。
扉も窓も、ガラス面が内側から布で隠されていて、店内の擁すはうかがい知れない。Openという文字を見つけて中をのぞく。夜の帳が下りたかのような星影に浮かび上がるのは、どことなく中世的で欧風な木の趣。
眩しさの中にあった双眸では、奥まで見渡せないが、かろうじて見えたカウンターの向こうの女店主に、会釈をする。案内されたのは、大食堂の隣に作られたような小部屋で、二畳程度だろうか。
三十センチほどの奥行きがあるL字のカウンターがついていて、肘掛けのある椅子が二脚あった。
大食堂にはドライフラワーなどと、いくつかの写真立てが飾られている。他に目立った装飾品はなく、家具のデザインが際立つ。
席についてからコーヒーが出てくるまでに、何曲かBGMが変わったが、一貫してピアノソロでジャズが奏でられている。
しばらくして出てきたコーヒーは、お店オリジナルのブレンドで、小さな額縁のメニューを見る限り、ネルドリップのようだ。
香りは仄か。いい意味で、香水のようなダーティーさが鼻腔を乱す。
舌触りは淡白で、先頭を切って味蕾を刺激した酸味もすぐに消え去る。追って、さらりとした水に包まれた苦味が舌の上に解放されると、それは柔らかく、それでいて強く口内に広がる。
時折、布を透かす人影が通りすぎてゆく。眼前に広がる景色は、よくある町並みだけれど、薄い布一枚を隔てたけで、どこか夢幻の中にいる心地だ。
冷めて味に落ち着きが出てくると、優しく清々しい酸味が広がるようになって、それと共にダークチョコレートににた苦味の余韻が、微かに感じられるようになる。
帰り際にトイレを借りたが、二重扉になっていて、ステンドグラスが嵌め込まれていた。そして個室の窓もステンドグラス。ノブはダイヤモンド型のガラス製。何気に見たペーパーホルダーは真鍮色で、舌状花のような模様があって、レトロなセンスの良さを感じる。
外に出ると、天高くから降り注ぐ太陽の光は、既に肌を蒸し焼くように熱い。桜が咲いて間もないというのに、先が思いやられると思いながらも、どこからともなく聞こえてくる和太鼓の軽快で重厚な音色に励まされて、歩を進めることにした。
扉も窓も、ガラス面が内側から布で隠されていて、店内の擁すはうかがい知れない。Openという文字を見つけて中をのぞく。夜の帳が下りたかのような星影に浮かび上がるのは、どことなく中世的で欧風な木の趣。
眩しさの中にあった双眸では、奥まで見渡せないが、かろうじて見えたカウンターの向こうの女店主に、会釈をする。案内されたのは、大食堂の隣に作られたような小部屋で、二畳程度だろうか。
三十センチほどの奥行きがあるL字のカウンターがついていて、肘掛けのある椅子が二脚あった。
大食堂にはドライフラワーなどと、いくつかの写真立てが飾られている。他に目立った装飾品はなく、家具のデザインが際立つ。
席についてからコーヒーが出てくるまでに、何曲かBGMが変わったが、一貫してピアノソロでジャズが奏でられている。
しばらくして出てきたコーヒーは、お店オリジナルのブレンドで、小さな額縁のメニューを見る限り、ネルドリップのようだ。
香りは仄か。いい意味で、香水のようなダーティーさが鼻腔を乱す。
舌触りは淡白で、先頭を切って味蕾を刺激した酸味もすぐに消え去る。追って、さらりとした水に包まれた苦味が舌の上に解放されると、それは柔らかく、それでいて強く口内に広がる。
時折、布を透かす人影が通りすぎてゆく。眼前に広がる景色は、よくある町並みだけれど、薄い布一枚を隔てたけで、どこか夢幻の中にいる心地だ。
冷めて味に落ち着きが出てくると、優しく清々しい酸味が広がるようになって、それと共にダークチョコレートににた苦味の余韻が、微かに感じられるようになる。
帰り際にトイレを借りたが、二重扉になっていて、ステンドグラスが嵌め込まれていた。そして個室の窓もステンドグラス。ノブはダイヤモンド型のガラス製。何気に見たペーパーホルダーは真鍮色で、舌状花のような模様があって、レトロなセンスの良さを感じる。
外に出ると、天高くから降り注ぐ太陽の光は、既に肌を蒸し焼くように熱い。桜が咲いて間もないというのに、先が思いやられると思いながらも、どこからともなく聞こえてくる和太鼓の軽快で重厚な音色に励まされて、歩を進めることにした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
天涯孤独のアーティスト
あまゆり
エッセイ・ノンフィクション
はじめに…
自分自身の波瀾万丈の人生を書いてます。 こんな生き方も参考にしてください。
学もない私が書いていきますので読みづらい、伝わりづらい表現などあるかもしれませんが広い心でお付き合い頂ければと思います。
平成や令和の方などには逆に新鮮に思えるような昭和な出来事などもありますので不適切な表現があるかもせれませんが楽しんでもらえたらと思います。
両親が幼い頃にいなくなった私
施設に行ったり、非行に走ったり
鑑別所や、少年院に入ったり
音楽を始めたり、住む家がなくフラフラして生きて、いつの間にか会社を経営して結婚して子どもが生まれたり、女装を始めたり
こんな生き方でも今生きている自分がいるってことを伝えたいと思います。
過去を振り返ることで今の自分が怠けずに生きられているのか、自分を見つめ直すことができるので頑張って書いていこうと思います。
この物語に出てくる登場人物は本人を除いて一部の人は仮名で表現しております。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
フリー朗読台本
𝐒𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀
エッセイ・ノンフィクション
これは、私の心に留まる言葉たち。
この言葉たちを、どうかあなたの声で生かしてあげて。
「誰かの心に残る朗読台本を。」
あなたの朗読が、たくさんの人の心に届きますように☽・:*
この台本は、フリー朗読台本となっております。
商用等、ご自由にお使いください。
Twitter : history_kokolo
アイコン : 牛様
※こちらは有償依頼となります。
無断転載禁止です。
依存性薬物乱用人生転落砂風奇譚~二次元を胸に抱きながら幽体離脱に励む男が薬物に手を出し依存に陥り断薬を決意するに至るまで~
砂風
エッセイ・ノンフィクション
未だに咳止め薬を手放せない、薬物依存症人間である私ーー砂風(すなかぜ)は、いったいどのような理由で薬物乱用を始めるに至ったのか、どういう経緯でイリーガルドラッグに足を踏み入れたのか、そして、なにがあって断薬を決意し、病院に通うと決めたのか。
その流れを小説のように綴った体験談である。
とはいえ、エッセイの側面も強く、少々癖の強いものとなっているため読みにくいかもしれない。どうか許してほしい。
少しでも多くの方に薬物の真の怖さが伝わるよう祈っている。
※事前知識として、あるていど単語の説明をする章を挟みます。また、書いた期間が空いているため、小説内表記や自称がぶれています。ご容赦いただけると助かります(例/ルナ→瑠奈、僕→私など)。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる