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雑司ヶ谷 ~再開発の間際にある小さな森~

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 ようやく夏が終わったかと思ったら。急に寒くなって、いつか秋がなくなるのではないかと心配になる日和。
 迷路のような路地から外に出ると、開発中の一角に出た。路面電車の踏切を渡ってわきに入ると、下町といった風情の緑が煌めく町並みが広がる。
 どこかで食事をしようと思って見つけたカフェに決めて覗いてみると、ニット帽みたいなのをかぶった丸顔で気さくな店主が迎えてくれた。どことなく昔好きだった俳優にている。とても優しげな微笑みの相貌だ。
 壁は白く、床は薄い焦げ茶色のフローリング、雰囲気はとてもシンプルでツートンな印象を受ける。テーブル五つと、三席のカウンターからなっていて、一席一席の間はゆったりととられていた。とても居心地が良さそうだ。店内には、7、80年代の緩やかなダンスミュージックが流れていた。
 最初に出してもらったコーヒーは、くびれのある壺のようなカップに淹れられて届いた。
 雪の結晶と鈴なりに色づく赤い実が緑の葉っぱが印象的だ。
 ソーサーも同じ植物模様だったので、雪舞う夜空の星の輝きに照らし出された牧歌的な景色を想像させる。
  しっかりとしたクレマに覆われた液面に立ち上る湯気を嗅ぐと、香りは弱いが、コーヒーらしい甘い匂いが鼻をくぐる。カップの口がくびれているせいか、内側に香りがよくこもっていた。
 苦味はあまり感じられず、まろやかな舌触りの酸味が広がる。それは、強くはないもののしっかりとした味をしている。
 カレーは、青い空と雨を360度のパノラマで見たような丸皿に盛られてやってきた。
 焦げ茶色の茶色いスプーンでひとくち口に運ぶと、甘味が口内に広がり、ほぐされた牛肉が舌を撫でる。辛みはだいぶあとになってからやってきたが、吸い込む息と共に消えるような優しさがあった。
 店内には、犬や猫のポップな絵が飾られている。僕の座ったそばには、コースター程度の大きさの絵がたくさん飾られていた。猫の絵が多いので、ちょっと得した気分度。眺めていると、骸骨も目立つが、どれも微笑んでるようで愛嬌がある。
 よく見ると、下に黒くて小さなプレートがついていて、値段が表記されていた。見渡すと、どの絵も売り物らしい。
 黄色い屋根のオート三輪の置物が印象的だったので値札を探すが、ついていない。非売品かと思ったが、同じ物が別の棚でちゃんと売られていた。
 コンガが二つ置いてあったので訊くと、希に演奏することもある言う。ただ最近は、チューニングもしておらず、あまり使っていないとのこと。
 今は月に一回第二金曜日に、フルートとアコースティックギターのデュオで演奏を披露するらしい。
 端っこのほうの壁には、エレキギターのバッグが立て掛けられている。音楽に思い入れを感じる。
 入り口に近い棚には色々置いてあったので見に行くと、メープルシロップやお茶の他、ハンドタオルなどもある。どれも個性的で欲しくなった。
 店を出てふと振り返る。そして思った。演奏会がある日に、また来ようかな、と。

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