504 / 835
二年生の一学期
🐿️
しおりを挟む
ワイワイガヤガヤと会話が盛り上がる中で、務は一人唖然とした様子で奈緒と春樹のやり取りを傍観している。その姿は、恒星を中心として回る天体集団から外れて、徐々に離れていくことを余儀なくされた惑星のようでもあり、少し孤立感の漂う立ち姿だった。
「わっ、まだすごい温かい」奈緒が、袋の中から取り出した一つに向かって驚く。
「ああ、昼休みに急いで戸越銀座に帰って買ってきたからな」
そう答えた春樹に南が訊く。
「ごはん食べたの?」
「うん、電車の中でサンドウィッチ」
「てか、なんで誕生日プレゼントにたい焼き? 他に選べるものあったろうに」
「おめでたいっていうだろ? 実際、今奈緒が手にしてるたい焼き、おめでたい焼きっていって、この店で人気の変わり種商品になってんの」
たい焼きを掲げて裏表を観察していた奈緒が、何かに気がついてぴょこりと反応した。
「このたい焼きは奥さんだ。にっこり微笑んでるのが優しそうですてき。なんか、大昔に流行ったたい焼きソングの逃げた鯛に 奥さんがいたらこんな感じ? って思わせる 肝っ玉新妻風たい焼き」
弓なりに細めた瞼と唇に好印象を覚えた様子で見やりながら、おなかの文字に視線を映して首を傾げる。読もうとしても読めないようだ。
南がのぞき込んだ。
「『福招き』って書いてあるんだよ」
「あら~、可愛すぎて もったいなくて 食べれないなぁ」
とか言いながら、「あーん」と声が聞こえてきそうなほど大きく口を開けて、あっさりと口内にたい焼きの顔を収めると、もぐもぐごっくんしてしまった。そして二口めを胃へと飲み落とすと突然、顔を萎めて春樹に叫ぶ。
「あんが入ってないっ」
「わっ、まだすごい温かい」奈緒が、袋の中から取り出した一つに向かって驚く。
「ああ、昼休みに急いで戸越銀座に帰って買ってきたからな」
そう答えた春樹に南が訊く。
「ごはん食べたの?」
「うん、電車の中でサンドウィッチ」
「てか、なんで誕生日プレゼントにたい焼き? 他に選べるものあったろうに」
「おめでたいっていうだろ? 実際、今奈緒が手にしてるたい焼き、おめでたい焼きっていって、この店で人気の変わり種商品になってんの」
たい焼きを掲げて裏表を観察していた奈緒が、何かに気がついてぴょこりと反応した。
「このたい焼きは奥さんだ。にっこり微笑んでるのが優しそうですてき。なんか、大昔に流行ったたい焼きソングの逃げた鯛に 奥さんがいたらこんな感じ? って思わせる 肝っ玉新妻風たい焼き」
弓なりに細めた瞼と唇に好印象を覚えた様子で見やりながら、おなかの文字に視線を映して首を傾げる。読もうとしても読めないようだ。
南がのぞき込んだ。
「『福招き』って書いてあるんだよ」
「あら~、可愛すぎて もったいなくて 食べれないなぁ」
とか言いながら、「あーん」と声が聞こえてきそうなほど大きく口を開けて、あっさりと口内にたい焼きの顔を収めると、もぐもぐごっくんしてしまった。そして二口めを胃へと飲み落とすと突然、顔を萎めて春樹に叫ぶ。
「あんが入ってないっ」
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる