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二年生の一学期
第百二十三話 トートバッグ
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「さあさ、お風呂が沸きましたよ」
おばあちゃんが、エプロンで手を拭きながら、テレビのある居間にやって来て言った。
「奈緒か杏奈か先に入っていいよ」
南がそう伝えると、杏奈が遠慮がちに返す。
「小沢さんが先に入らないの? 自分の田舎なのに」
「わたし、このテレビ見たいから。それにお客さんファースト」
「それじゃあ、成瀬さん、先に入るといいよ。わたしもこの番組、いつも見てるんだよね」
奈緒が二人を見やる。双方から頷かれると、それに頷きを返して言った。
「それでは わたしが お風呂を いただき ます」言い終わって、テーブルや壁を頼りに「よっこらしょ、どっこらしょぅ」と立ち上がる。
そして、すぐにするするとしゃがんで、表情を砕けて散らした。
「あーあ、もうだめだぁ、わたしー」
「どうしたの?」杏奈が訊く。
「着替え忘れた」
「えっ、うそ、そのリュックは?」
「あ、あった」
そう言った奈緒は、何事もなかったようにリュックを抱えて、また「よっ、よっ、よっこらしょ、よっこらしょしょしょっ」と立ち上がる。「そ れ で は、行ってぇきます」と深々とお辞儀をしてから、おばあちゃんに連れられて、お風呂場へと向かう。
「あるんだよね? 下着」南が見送る。
「んー、たぶん……」
杏奈も見送るしかなかった。
「あっ!」南がねじ切れるほど首を回して、春樹に言葉の矢を撃ち放つ。
「男子二人はお風呂覗かないでよ」
「覗かないって。そもそも奈緒のお風呂覗いたら、なんか犯罪チックじゃんか」
「なによそれー。わたしたちのだったらいいっていうの?」杏奈が吼える。
「いや、そんなんじゃないけど――なあ?」
春樹に視線を送られた務が慌てふためいた。
「はぁ! なんで僕に振るの?」
杏奈が不振のまなざしを向ける。
「務君までなに考えているの? 耳まで真っ赤にして」
「ご、誤解だって」
「その慌てっぷりが怪しい」南が眉間にしわを寄せて、穴が開くほどの眼差しを務に向ける。
「お互いちゃんと見張りあおうね」杏奈が真剣に提案すると、「うん、そうだね」と南が頷く。
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「奈緒か杏奈か先に入っていいよ」
南がそう伝えると、杏奈が遠慮がちに返す。
「小沢さんが先に入らないの? 自分の田舎なのに」
「わたし、このテレビ見たいから。それにお客さんファースト」
「それじゃあ、成瀬さん、先に入るといいよ。わたしもこの番組、いつも見てるんだよね」
奈緒が二人を見やる。双方から頷かれると、それに頷きを返して言った。
「それでは わたしが お風呂を いただき ます」言い終わって、テーブルや壁を頼りに「よっこらしょ、どっこらしょぅ」と立ち上がる。
そして、すぐにするするとしゃがんで、表情を砕けて散らした。
「あーあ、もうだめだぁ、わたしー」
「どうしたの?」杏奈が訊く。
「着替え忘れた」
「えっ、うそ、そのリュックは?」
「あ、あった」
そう言った奈緒は、何事もなかったようにリュックを抱えて、また「よっ、よっ、よっこらしょ、よっこらしょしょしょっ」と立ち上がる。「そ れ で は、行ってぇきます」と深々とお辞儀をしてから、おばあちゃんに連れられて、お風呂場へと向かう。
「あるんだよね? 下着」南が見送る。
「んー、たぶん……」
杏奈も見送るしかなかった。
「あっ!」南がねじ切れるほど首を回して、春樹に言葉の矢を撃ち放つ。
「男子二人はお風呂覗かないでよ」
「覗かないって。そもそも奈緒のお風呂覗いたら、なんか犯罪チックじゃんか」
「なによそれー。わたしたちのだったらいいっていうの?」杏奈が吼える。
「いや、そんなんじゃないけど――なあ?」
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「はぁ! なんで僕に振るの?」
杏奈が不振のまなざしを向ける。
「務君までなに考えているの? 耳まで真っ赤にして」
「ご、誤解だって」
「その慌てっぷりが怪しい」南が眉間にしわを寄せて、穴が開くほどの眼差しを務に向ける。
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