FRIENDS

緒方宗谷

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二年生の一学期

🍭

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 急に場の空気が暗くなる中で、おばあちゃんが、静かで微かな笑みを浮かべて言った。
「あの人が荏原中延に引っ越しした日に様子を見に行ったの。その時に、詩織の位牌やなんかは引き取りますよって言ったのだけれど、恭介さんは、いいえ、南が帰ってきた時に、母親がいなかったら悲しみますからって言ったのよ。でもあなたはそんなだし、ちゃんと毎日お仏壇に手を合わせられますかって訊いたら、大丈夫です、花も水もちゃんと換えますからって言っていたわ」
 南が驚く。
「マジで? 毎日水換えてるの、わたしなんですけど。しかも普段造花だし。そもそも児相から帰った頃は、大体ビールや日本酒がお供えしてあった――というか、それ飲んでたから、体[てい]のいい口実にしていた気がする」
 小さなドロップボウルからドレッシングを回しかけた春樹が、想像に浸るような面持ちで言った。
「ああ、なんか、缶詰置いてありそう」
「置いてあったよ」鼻息荒く南が答える。「そして食べてた。大和煮やら貝やら、焼き鳥やら」
 それからあぐらをかいて胸の前で腕を組むと、東京のほうを見やって歯を食いしばり、鋭く睨みつける。
「あの酒おやじ、帰ったら一週間お酒抜きにしてやるんだから」
 みんなは、息巻く尖ったいがぐりをはやし立てる。
「なんだかんだで、いいお父さんじゃない」杏奈が笑って「小沢さん、考えすぎなのかも。わたしたちもお父さんに一度会ったことあるけど、わるい感じの人じゃなかったわよね? 変な人だったけど」。
 務が頷く。
「今考えると、すごく自制心が強い人なのかも。お酒におぼれてしまっているから、なんでもお酒の方向に話を持っていくけど、禁断症状って理性ではどうしようもないはずなのに、飲むために家庭内暴力振るうわけではないでしょ? 盗みをするとかもしないだろうし。問題のある家庭だと、そのために奥さんや子供が暴力を振るわれてひどい目にあったり、家のお金を使いこんだり借金したりして、家族が瓦解して一家離散しまったりするけど、小沢さんがちゃんとコントロールしているというか、言うことは聞いてくれているんでしょ? 実はすごい精神力のお父さんなんじゃないかな?」
 南は、ハッとした様子で固まっている。息もしていないどころか、彼女だけ時間が止まってしまったかのように静止している。
「そうか……そうなんだね」南がしみじみと言った。「相談し合える相手がいるってこういうことなんだね。なんか心の荷がおりた気がする。いっときかもしれないけど、話せるってこんなにも大事なことなんだね」
 その後も楽しい夕食は、一時間以上続いた。





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