368 / 446
二年生の一学期
👖
しおりを挟む
賑やかな食事が終わって、食器を片して戻ってきた南におばあちゃんが、苦言めいた口調で注意を促す。
「これ、南。なんですかその膝は。破れているじゃないの。お金あげるから、あとで西朋[大手スーパーの名前]で買ってらっしゃいな」
「いいよ、これはファッションなんだから。今ちまたではやってるの。学校のみんなだって、こういうの穿いてるから、気にしないで」
おばあちゃんがみんなの膝を見やる。務のベージュチノ、春樹の青色デニム、奈緒の水色デニムの膝、どれもきれいでほつれすらない。
「誰も破れていないけれどね」
「いいの、いいの。系統が違うから」
南は、紺のダメージデニムからのぞく膝を掻きながら笑う。
おばあちゃんはため息をついて、話題を変えた。
「そうだ、さっき、ピザの話が出たけど、いい機会だから、帰るまでに食べてらっしゃいな。美味しいから」
「おばあちゃん食べたんだ。ずいぶんとハイカラだね」
そう言った孫娘に続いて、杏奈もおばあちゃんに答える。
「わたしたち、パン屋さんの隣のカフェには寄ったんです」
「あそこもいいねぇ。ホットサンドやなんかがあって、コーヒーも美味しいし。おトイレは入った?」
みんなが首を横に振るのを見てから続けて、
「おトイレに枯れ葉のかたつむりの置物があって、それがとてもきれいだわ。あれは見なきゃだめ。一日中見ていられるほど、うっとりしちゃうから」
奈緒が慌ててみんなに叫びかける。
「行くよね、帰りに行くよね? ぜったいよ、ね?」
お昼を食べたばかりだというのに食欲のスイッチが入ったくいしんぼを笑うみんなの声がおさまると、おばあちゃんが南に訊いた。
「このあと、どうするの?」
「今日はのんびりして――じゃない。この間のお礼に来たの。東京みやげの雷おこし渡して、ちょっと部屋のお掃除とか手伝おうかなって。でも日々の掃除も必要なさそうなくらいきれいだね」
「お姑に仕込まれたからね。骨の髄までしみ込んでいるから、一人になった今もちゃんとこなすわよ。だから気にしなくていいわ、ゆっくりしておいき」
「わたしたち、畑の“草むりり”手伝い ます」奈緒が手を上げる。
「これ、南。なんですかその膝は。破れているじゃないの。お金あげるから、あとで西朋[大手スーパーの名前]で買ってらっしゃいな」
「いいよ、これはファッションなんだから。今ちまたではやってるの。学校のみんなだって、こういうの穿いてるから、気にしないで」
おばあちゃんがみんなの膝を見やる。務のベージュチノ、春樹の青色デニム、奈緒の水色デニムの膝、どれもきれいでほつれすらない。
「誰も破れていないけれどね」
「いいの、いいの。系統が違うから」
南は、紺のダメージデニムからのぞく膝を掻きながら笑う。
おばあちゃんはため息をついて、話題を変えた。
「そうだ、さっき、ピザの話が出たけど、いい機会だから、帰るまでに食べてらっしゃいな。美味しいから」
「おばあちゃん食べたんだ。ずいぶんとハイカラだね」
そう言った孫娘に続いて、杏奈もおばあちゃんに答える。
「わたしたち、パン屋さんの隣のカフェには寄ったんです」
「あそこもいいねぇ。ホットサンドやなんかがあって、コーヒーも美味しいし。おトイレは入った?」
みんなが首を横に振るのを見てから続けて、
「おトイレに枯れ葉のかたつむりの置物があって、それがとてもきれいだわ。あれは見なきゃだめ。一日中見ていられるほど、うっとりしちゃうから」
奈緒が慌ててみんなに叫びかける。
「行くよね、帰りに行くよね? ぜったいよ、ね?」
お昼を食べたばかりだというのに食欲のスイッチが入ったくいしんぼを笑うみんなの声がおさまると、おばあちゃんが南に訊いた。
「このあと、どうするの?」
「今日はのんびりして――じゃない。この間のお礼に来たの。東京みやげの雷おこし渡して、ちょっと部屋のお掃除とか手伝おうかなって。でも日々の掃除も必要なさそうなくらいきれいだね」
「お姑に仕込まれたからね。骨の髄までしみ込んでいるから、一人になった今もちゃんとこなすわよ。だから気にしなくていいわ、ゆっくりしておいき」
「わたしたち、畑の“草むりり”手伝い ます」奈緒が手を上げる。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
俺の高校生活がラブコメ的な状況になっている件
ながしょー
青春
高校入学を前に両親は長期海外出張。
一人暮らしになるかと思いきや、出発当日の朝、父からとんでもないことを言われた。
それは……
同い年の子と同居?!しかも女の子!
ただえさえ、俺は中学の頃はぼっちで人と話す事も苦手なのだが。
とにかく、同居することになった子はとてつもなく美少女だった。
これから俺はどうなる?この先の生活は?ラブコメ的な展開とかあるのか?!
「俺の家には学校一の美少女がいる!」の改稿版です。
主人公の名前やもしかしたら今後いろんなところが変わってくるかもしれません。
話もだいぶ変わると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる