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二年生の一学期
第百十七話 高坂の家
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日曜市が行われている改札のあった側とは違い、反対側はのどかな雰囲気だった。駅前には民家や個人商店が並んだ、よくある田舎の街並みだったが、その裏に行くと土の田んぼが広がっていた。
寂れた街並みを見ながら、白みがかった濃い灰色でカジュアルなジャケットのフロントボタンを閉じつつ、務が口を開く。
「誰もいないように思えるのに、それでいてどこからともなく畳の香りが風に乗ってくるのが、人の営みを感じさせるね」
杏奈が頷く。
「こういう牧歌的な情緒ある風景に癒されるのよね。稲穂が風に揺れているような時期に来られれば、なおよかったんじゃないかしら。小沢さんが羨ましいわ。思い立てばいつでもここに来て、学校の喧騒から離れて、のんびり過ごすことが出来るんだものね」
湿った草の生暖かい香りが漂ってくる。まだ耕作されていない農地の土の香りは、果てしない空間を満たすかのような馥郁とした色香のようであった。
突然奈緒が、うきうきした声を上げる。
「あ、なんとかさんとかだ」
指さす方向をみんなが見やるが、土がむき出しとなった無人の田んぼが広がるばかりで何もない。
奈緒が続ける。「ほら、なんとかさん。なんとかさんじゃないけど、虫。虫じゃないけど、クモ」
誰もがそれを見つけられない様子のまま立ち呆ける。返答を返してこないので、奈緒は諦めて正面を向いた。
「ちょっと寒いね」
「ワイシャツに袖なしのボアベストだけだもんね。リボンがついたボトムスも膝丈になってるし。まあ、もうすぐ着くから我慢して」南がこの子のそばに立ち、風よけになる。
「うん。でも我慢できない。ワイシャツ二枚だけだから、さむいさむいっ」
奈緒は、お父さんから借りたというちょっと大きめの黒いリュックから、黒いカジュアルなジャケットを取り出して羽織った。
目の前が叢林と化した突き当りのT字路を左折してしばらくすると、南が口を開く。
「着いた。あの角っこにあるうちがそう――だったはず」
「そう――だったはずって、あいまいだな」春樹がつっこむ。
寂れた街並みを見ながら、白みがかった濃い灰色でカジュアルなジャケットのフロントボタンを閉じつつ、務が口を開く。
「誰もいないように思えるのに、それでいてどこからともなく畳の香りが風に乗ってくるのが、人の営みを感じさせるね」
杏奈が頷く。
「こういう牧歌的な情緒ある風景に癒されるのよね。稲穂が風に揺れているような時期に来られれば、なおよかったんじゃないかしら。小沢さんが羨ましいわ。思い立てばいつでもここに来て、学校の喧騒から離れて、のんびり過ごすことが出来るんだものね」
湿った草の生暖かい香りが漂ってくる。まだ耕作されていない農地の土の香りは、果てしない空間を満たすかのような馥郁とした色香のようであった。
突然奈緒が、うきうきした声を上げる。
「あ、なんとかさんとかだ」
指さす方向をみんなが見やるが、土がむき出しとなった無人の田んぼが広がるばかりで何もない。
奈緒が続ける。「ほら、なんとかさん。なんとかさんじゃないけど、虫。虫じゃないけど、クモ」
誰もがそれを見つけられない様子のまま立ち呆ける。返答を返してこないので、奈緒は諦めて正面を向いた。
「ちょっと寒いね」
「ワイシャツに袖なしのボアベストだけだもんね。リボンがついたボトムスも膝丈になってるし。まあ、もうすぐ着くから我慢して」南がこの子のそばに立ち、風よけになる。
「うん。でも我慢できない。ワイシャツ二枚だけだから、さむいさむいっ」
奈緒は、お父さんから借りたというちょっと大きめの黒いリュックから、黒いカジュアルなジャケットを取り出して羽織った。
目の前が叢林と化した突き当りのT字路を左折してしばらくすると、南が口を開く。
「着いた。あの角っこにあるうちがそう――だったはず」
「そう――だったはずって、あいまいだな」春樹がつっこむ。
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