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二年生の一学期
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こよみが視線を向ける先には、高知県の木で作って、美術部のコーナーで自ら絵の具で絵付けした木んメダルが置かれていた。
接客を終えてトイレに立った奈緒を見上げて彩音が答える。
((さあ、分かんない))
髭の生えた三つの黒い塊と、『ありこりんこ』と書かれた文字が、さっき左足に上ってきた黒アリをリアルタイムで描いたものだということは、誰も知らない。
奈緒は、おトイレから戻ってくる道すがら、紺の袖なしベストを着た男の人がTVカメラを構えていることに気がついた。そのまま眼球を固定すると歩行をやめずに凝視し続け、首がねじ切れる寸前に正面を見やって、みんなの位置を確認する。そしてそばに駆け寄ると、熱い吐息に言葉をのせて興奮気味に吐いた。
「あら、背中に品荏ケーブルテレビだって。テレビに映るかも」慌てて髪をいじり「スカウトされたりして、アイドル」と、顔をしわくちゃにして笑む。
「そういう願望あるんですか?」
こよみが訊くと奈緒は、「ないけど――分かんないよ」とまんざらでもなさそうに答えた。
しばらくカメラマンを遠望していた奈緒が、椅子に座って絵の指導をしていた心愛のラウンドネックの内側の影に視線を忍ばせる。
「あ、そういえば、陽菜ちゃん来てない」
心愛が彼女の視線を遡上して大きな双眸を見やる。
「さっき来たよ。絵だけ描いてそそくさと帰っていった。乾くまで預かっておいてだって。わたしが今度の月曜日に学校で渡そっか?」
奈緒は「うん」と答えつつ首を傾げる。その視界の端には、一年の二人が陽菜子の心理に寄り添うような不安げな表情を浮かべて見つめあっているのが映った。
「まっいっか。カフェラテ飲も、カフェラテ」
そう言って、またしばらく四人目のお客さんを待つためにベンチへと腰を下ろす。
二時半くらいに雨がしとしとと降り始めたもののあまり強くならずすぐにおさまり、十五時三十分までつつがなく続いたエコみらフェスティバルは、大喝采のもと無事に閉幕した。
奈緒は、部外者なのになぜか自ら音頭を取ってみんなと万歳三唱をしたのち、美術部の片づけを手伝ってから家へと帰った。
接客を終えてトイレに立った奈緒を見上げて彩音が答える。
((さあ、分かんない))
髭の生えた三つの黒い塊と、『ありこりんこ』と書かれた文字が、さっき左足に上ってきた黒アリをリアルタイムで描いたものだということは、誰も知らない。
奈緒は、おトイレから戻ってくる道すがら、紺の袖なしベストを着た男の人がTVカメラを構えていることに気がついた。そのまま眼球を固定すると歩行をやめずに凝視し続け、首がねじ切れる寸前に正面を見やって、みんなの位置を確認する。そしてそばに駆け寄ると、熱い吐息に言葉をのせて興奮気味に吐いた。
「あら、背中に品荏ケーブルテレビだって。テレビに映るかも」慌てて髪をいじり「スカウトされたりして、アイドル」と、顔をしわくちゃにして笑む。
「そういう願望あるんですか?」
こよみが訊くと奈緒は、「ないけど――分かんないよ」とまんざらでもなさそうに答えた。
しばらくカメラマンを遠望していた奈緒が、椅子に座って絵の指導をしていた心愛のラウンドネックの内側の影に視線を忍ばせる。
「あ、そういえば、陽菜ちゃん来てない」
心愛が彼女の視線を遡上して大きな双眸を見やる。
「さっき来たよ。絵だけ描いてそそくさと帰っていった。乾くまで預かっておいてだって。わたしが今度の月曜日に学校で渡そっか?」
奈緒は「うん」と答えつつ首を傾げる。その視界の端には、一年の二人が陽菜子の心理に寄り添うような不安げな表情を浮かべて見つめあっているのが映った。
「まっいっか。カフェラテ飲も、カフェラテ」
そう言って、またしばらく四人目のお客さんを待つためにベンチへと腰を下ろす。
二時半くらいに雨がしとしとと降り始めたもののあまり強くならずすぐにおさまり、十五時三十分までつつがなく続いたエコみらフェスティバルは、大喝采のもと無事に閉幕した。
奈緒は、部外者なのになぜか自ら音頭を取ってみんなと万歳三唱をしたのち、美術部の片づけを手伝ってから家へと帰った。
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