330 / 378
二年生の一学期
🐿️
しおりを挟む
階段を上がって千束八幡神社にお参りを済ませると、階段を下まで下りてから奈緒がはしゃぐ。
「おもしろ橋から行く」
そう言って、赤い三連太鼓橋へと進んで行って真ん中の橋の中央で立ち止まった。そこから大きな池を見渡して、対岸の桜を眺める。
佇立する瑠衣が、なだらかな口調で訊いた。
「二度目でしょ? なんでそんなに楽しそうなの? 雨降ってるのに」
「始めて来た時は、一周 回らなかったから。瑠衣ちゃんと会ったベンチで 絵を描いて帰ったから、こっちのほうに 来てないの」
公道が見えてくると奈緒が、喜びを吸い込んで口いっぱいにため込んだように唇をつぐんで、ボート乗り場のほうを見る。
「駅前にクレープさんの車があったから、まだやっているかなぁ。もう一度食べて帰ろう」そして嬉しそうにまどろんだ笑顔で、「バナナの食べたから、いちごにしよう」と頷く。そして、横断歩道を渡って鉄紺色のキッチンカーに歩み寄ると、すぐさま店員の女性に声をかける。
「すいませーん。いちごのクレープくださぁい」
「はい、どれにします?」
首を傾げてメニューを見た奈緒が即答した。
「??? 普通の」そしてしどろもどろと一生懸命な口ぶりで「あさと お な じ で、い ちご の や つ。 ください」と伝えた。
続けて瑠衣が注文する。
「じゃあわたしは、ピスタチオとベリーのクリーム」
作り始めるのを見届けた瑠衣が、上半身を倒して立て看板を見やる。
「よく見かけるけど、食べたことなかった。米粉の生地だって。ふんわりして柔らかそう」
二人は、駅の改札の前で並んで道路の向こうに見える池を眺めながら、クレープを食べ始める。
しばらく空を見上げていた奈緒が、おもむろに口を開いた。
「今日は残念だったね、雨降っちゃって。まだお昼くらいだと思うけど……」
「二時前だよ」
奈緒が、きょろきょろと辺りを見渡して続ける。
「もしお天気よかったら、“あし あらい”を 案内して“もろって”、一緒にランチして、おやつにケーキ食べながら、コーヒー飲みたかったね」
「せんぞく」瑠衣が、奈緒の言葉を遮る。
「あ、間違えた。“あしおろい”。なんていった? わたし」
「あしあらい。そして今は、あしおろい」
「あし…あし…あーん、だめぇ。なんだっけ?」
「せんぞく」
「ちがうよ、うちが千束[せんぞく]だよ、北千束。漢字で“あし あらい”。なんて読むか分からないよ」
「あしあらいってかいて、せんぞくね」
「足洗なんて書くから、分からないよ」
「おもしろ橋から行く」
そう言って、赤い三連太鼓橋へと進んで行って真ん中の橋の中央で立ち止まった。そこから大きな池を見渡して、対岸の桜を眺める。
佇立する瑠衣が、なだらかな口調で訊いた。
「二度目でしょ? なんでそんなに楽しそうなの? 雨降ってるのに」
「始めて来た時は、一周 回らなかったから。瑠衣ちゃんと会ったベンチで 絵を描いて帰ったから、こっちのほうに 来てないの」
公道が見えてくると奈緒が、喜びを吸い込んで口いっぱいにため込んだように唇をつぐんで、ボート乗り場のほうを見る。
「駅前にクレープさんの車があったから、まだやっているかなぁ。もう一度食べて帰ろう」そして嬉しそうにまどろんだ笑顔で、「バナナの食べたから、いちごにしよう」と頷く。そして、横断歩道を渡って鉄紺色のキッチンカーに歩み寄ると、すぐさま店員の女性に声をかける。
「すいませーん。いちごのクレープくださぁい」
「はい、どれにします?」
首を傾げてメニューを見た奈緒が即答した。
「??? 普通の」そしてしどろもどろと一生懸命な口ぶりで「あさと お な じ で、い ちご の や つ。 ください」と伝えた。
続けて瑠衣が注文する。
「じゃあわたしは、ピスタチオとベリーのクリーム」
作り始めるのを見届けた瑠衣が、上半身を倒して立て看板を見やる。
「よく見かけるけど、食べたことなかった。米粉の生地だって。ふんわりして柔らかそう」
二人は、駅の改札の前で並んで道路の向こうに見える池を眺めながら、クレープを食べ始める。
しばらく空を見上げていた奈緒が、おもむろに口を開いた。
「今日は残念だったね、雨降っちゃって。まだお昼くらいだと思うけど……」
「二時前だよ」
奈緒が、きょろきょろと辺りを見渡して続ける。
「もしお天気よかったら、“あし あらい”を 案内して“もろって”、一緒にランチして、おやつにケーキ食べながら、コーヒー飲みたかったね」
「せんぞく」瑠衣が、奈緒の言葉を遮る。
「あ、間違えた。“あしおろい”。なんていった? わたし」
「あしあらい。そして今は、あしおろい」
「あし…あし…あーん、だめぇ。なんだっけ?」
「せんぞく」
「ちがうよ、うちが千束[せんぞく]だよ、北千束。漢字で“あし あらい”。なんて読むか分からないよ」
「あしあらいってかいて、せんぞくね」
「足洗なんて書くから、分からないよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる