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一年生の三学期
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「そういえば……」と杏奈が口を開く。「成瀬さんって、文房具に詳しいでしょ? 万年筆の選び方、教えてくれないかな」
奈緒が首を傾げる。
「万年筆? わたし使ったことないから、お役に立てませんけど。それに字は苦手」
「そうなの? 利き手じゃないのに、たまにすごいきれいな字を書くから、ペン習字とか習っているのかと思った」
褒められてこの子が照れる。
「全然だった。リハビリするまで 字なんて習った“した”ことなかった。小 学 校の時、つらつらつらららってたくさん書いた のと、習字の授業でしたくらい」
「へぇ、信じらんない。苦手なのは倒れる前から?」
奈緒は、ペンギンのようによちよち足踏みしながら、おもむろに歩き始めて答える。
「うん。でもどうして、万年筆なんか?」
「え……、いや、ちょっと、ああいうの憧れるでしょ。持っていると大人の女性になれた気がするし、いつかはそういうのが似合うようになりたいし。生徒会長とかも持っているんだけど、威厳や風格を感じさせるのよね。それで興味持っちゃって」
「ゆくゆくは生徒会長だもんね」奈緒が茶化した。
「まさか。わたしなんかじゃ無理よ」
まんざらでもない様子の杏奈が続けて言った。
「そういえば、成瀬さんの筆記用具っていろいろ凝ったのが多いから、相談していろいろアドバイスしてもらおうかなって」
手に取った三つ入りのヨーグルトをレジにおいて、奈緒が杏奈に振り向く。
「ごめんね、わたし詳しくなくて。でも、いい文房具屋さん知っているよ。いつも画材を買いに行くとこ。自由ヶ丘にあるの。わたしはいつも そこで筆記用具も選ぶから、凝ったものになるんだと 思う。今度行く時一緒に行こう」
「ううん。いいの、忘れて。字の下手なわたしが万年筆だなんて、十年早いよね。この話ないしょだよ。恥ずかしいから誰にも言わないでね。お願いだから」
必死に訴える杏奈に、目をぱちくりとさせる奈緒が「うん」と頷く。
彼女が会話をするりと入れ替えて、南が戻ってくるまでたわいもないお喋りが続いた。
そして三人が揃うと、奈緒が最後に言った。
「ヨーグルト買ったから、二人にも分けてあげるね」と。
🐿️成瀬菜緒🍭
作画:緒方宗谷&AIイラスト
奈緒が首を傾げる。
「万年筆? わたし使ったことないから、お役に立てませんけど。それに字は苦手」
「そうなの? 利き手じゃないのに、たまにすごいきれいな字を書くから、ペン習字とか習っているのかと思った」
褒められてこの子が照れる。
「全然だった。リハビリするまで 字なんて習った“した”ことなかった。小 学 校の時、つらつらつらららってたくさん書いた のと、習字の授業でしたくらい」
「へぇ、信じらんない。苦手なのは倒れる前から?」
奈緒は、ペンギンのようによちよち足踏みしながら、おもむろに歩き始めて答える。
「うん。でもどうして、万年筆なんか?」
「え……、いや、ちょっと、ああいうの憧れるでしょ。持っていると大人の女性になれた気がするし、いつかはそういうのが似合うようになりたいし。生徒会長とかも持っているんだけど、威厳や風格を感じさせるのよね。それで興味持っちゃって」
「ゆくゆくは生徒会長だもんね」奈緒が茶化した。
「まさか。わたしなんかじゃ無理よ」
まんざらでもない様子の杏奈が続けて言った。
「そういえば、成瀬さんの筆記用具っていろいろ凝ったのが多いから、相談していろいろアドバイスしてもらおうかなって」
手に取った三つ入りのヨーグルトをレジにおいて、奈緒が杏奈に振り向く。
「ごめんね、わたし詳しくなくて。でも、いい文房具屋さん知っているよ。いつも画材を買いに行くとこ。自由ヶ丘にあるの。わたしはいつも そこで筆記用具も選ぶから、凝ったものになるんだと 思う。今度行く時一緒に行こう」
「ううん。いいの、忘れて。字の下手なわたしが万年筆だなんて、十年早いよね。この話ないしょだよ。恥ずかしいから誰にも言わないでね。お願いだから」
必死に訴える杏奈に、目をぱちくりとさせる奈緒が「うん」と頷く。
彼女が会話をするりと入れ替えて、南が戻ってくるまでたわいもないお喋りが続いた。
そして三人が揃うと、奈緒が最後に言った。
「ヨーグルト買ったから、二人にも分けてあげるね」と。
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