254 / 489
一年生の三学期
第八十二話 アルコール中毒の患者
しおりを挟む春樹が、少し冷めた雰囲気の色を声に溶かして発した。
「このままじゃ、身を滅ぼしますよ。脳だっておかしくなっちゃうだろうし、肝臓もボロボロになっちゃうだろうし」
「うん」と杏奈が頷く。「アルコール自体もすごい毒性だけれど、それを代謝する過程でできる成分には、もっとすごい毒性があるんだって。その手の震えも中毒症状じゃないかしら」
「とりあえず、缶詰食べよう。おなか一杯になったら治るかも」と奈緒もアドバイス。
神妙な面持ちの務が口を開く。
「南さんのことが解決したら、一度病院に行ったほうがいいですよ。南さんだってとても心配しているだろうし、早く立ち直って、立派な父親の姿を見せていやってください」
四人から、寄って集って散々同情の念を注がれた父親は、みじめさを感じたのか顔を歪めると、動悸が全身に及んでいるのかと思わんばかりに全身が震えだした。そして、いつまでたっても収まらない息切れの合間に大きく息を吸うと、突然怒りだした。
「なんだよ、お前らがそんなに言うから、飲みたくなっちまったじゃんかよう。責任取れよ、取ってビール買って来いよ」
泣きべそをかくように崩れ落ちる。
「だから、これ以上のまないほうがいいですから」務が答えた。
「なんでだよ。これ以上って、まだ一滴も飲んでねぇよ。酒臭くねぇだろよ」
そう言って、務に呼気を吐きかける。
「……お酒のにおいしますけど」
「昨日のだよ。さっき起きてからは飲んでねぇって」
「だめ です」奈緒が叫んだ。「わたしだって、南ちゃんに甘いものだめですって言われて、我慢して いますから、 お父さんも我慢 な さ い」
一音一音の間に妙な間があって、母親が子供を諭すように見える。
突然叱られてびっくりした様子のアル中男が、眉間に眉を寄せて頭をそらした。
「酒なんて、誰でも飲んでんだろうよ、南だって、ヤニ吸いながらビール飲んでたしよ。そのくせ、俺には酒飲むななんて言いやがって。あいつは俺のことが嫌いなんだ。だから、せっかく買った酒も奪って隠しちまうんだ。もしかしたら、あいつが隠れて全部飲んじまったのかもしれねぇ」
「そんな……」杏奈が言葉に詰まる。
「どうせ、お前らだって俺見て、ダメ人間だって思ってんだろ。傷つくんだよ、そんな目で見られるとさぁ。こんなにつらい目に遭ったら、もう飲まないわけにいかないじゃんか」
いじけた様子で唇を突き出す大の大人を目の当たりにして、四人はどうしていいか分からず、途方に暮れた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。


大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる