248 / 378
一年生の三学期
第八十話 203号室
しおりを挟む
そこに屹立していたのは、二階建てのアパートだった。共用部分を照らす照明は切れているのかついておらず、その容態は、異様なほど恐ろしげに見える。壁には、ドクダミらしき枯れた蔓が毛細血管のように縦横無尽に張り巡らされていて、寄生され体液をすすられる動物のようにも見えた。
ガラス戸の内側が煌々と輝く奥の家の様子を伺いに行っていた春樹が戻ってきて、後ろを振り返る。
「奥のは一軒家みたいだな。表札は別人のだ。その奥は行き止まり。あそこより奥の家は、たぶん反対側の道から入るんじゃないかな」
聞き終わって、務が再度見上げる。
「となると、このアパートの部屋のどれかか……」
「じょうだんでしょ」杏奈が悲鳴めいた小声を上げた。「アパートの後ろにマンション見えてるじゃない。そっちじゃないの? いくらなんでも、こんな昭和の中ごろみたいな建物なんかに住んでいるはずないわよ。現に部屋の明かりひとつもついていないじゃない。もう空き家になっていて、建て直すのを待っているんじゃないかしら?」
務が、地図アプリに目を落として、指し示す。
「裏のマンションなら、こっちの四角いのでしょ。目的地は、その隣の空白部分をさしているよ。だから、ここで間違いないよ」
大ヒットアニメに出てくる顔の無い妖怪みたいな影の塊と化した春樹が、辺りを見渡す。
「これは気づかないよな。公道から十メートル、二十メートル奥ばってるし、四方を民家に囲われていて陰になってるし。外界との繋がりは、人がやっと一人通れるこの細い私道だけじゃん。しかも雑草に覆われていて、暗いと全く見えないし。地図アプリがあっても一生たどり着けないような絶海の孤島みたいじゃん。たどり着けたのは奇跡だな。でもさすがにここに住んでるとは思えないよ、築七、八十年ってところか? まるっきりゴーストハウスじゃん。玄関ドアもプレハブ小屋のみたいだし、昔から住んでるおじいちゃんとかは別にして、令和の若い家族がここ借りたりはしないだろ」
「そうよ、きっと。探せばこんなふうに入り口が奥にあるマンション、まだあるんじゃないかしら」杏奈が務に撤退を促す。
「でも、一部屋一部屋表札を確認していこうよ。203号室を見つけさえすれば、それでいいわけだし」
「うへぇ、ここ入るの? ポストは? それ見れば済むことだよ」奈緒が縮こまる。
務が各部屋を見渡す。
「ポストは……一部屋ごとについているみたいだよ。ほら」
指さす方向を三人が見やると、縦長のポストらしき影が見える。近寄ると、かろうじて銀色であることが分かる。
ガラス戸の内側が煌々と輝く奥の家の様子を伺いに行っていた春樹が戻ってきて、後ろを振り返る。
「奥のは一軒家みたいだな。表札は別人のだ。その奥は行き止まり。あそこより奥の家は、たぶん反対側の道から入るんじゃないかな」
聞き終わって、務が再度見上げる。
「となると、このアパートの部屋のどれかか……」
「じょうだんでしょ」杏奈が悲鳴めいた小声を上げた。「アパートの後ろにマンション見えてるじゃない。そっちじゃないの? いくらなんでも、こんな昭和の中ごろみたいな建物なんかに住んでいるはずないわよ。現に部屋の明かりひとつもついていないじゃない。もう空き家になっていて、建て直すのを待っているんじゃないかしら?」
務が、地図アプリに目を落として、指し示す。
「裏のマンションなら、こっちの四角いのでしょ。目的地は、その隣の空白部分をさしているよ。だから、ここで間違いないよ」
大ヒットアニメに出てくる顔の無い妖怪みたいな影の塊と化した春樹が、辺りを見渡す。
「これは気づかないよな。公道から十メートル、二十メートル奥ばってるし、四方を民家に囲われていて陰になってるし。外界との繋がりは、人がやっと一人通れるこの細い私道だけじゃん。しかも雑草に覆われていて、暗いと全く見えないし。地図アプリがあっても一生たどり着けないような絶海の孤島みたいじゃん。たどり着けたのは奇跡だな。でもさすがにここに住んでるとは思えないよ、築七、八十年ってところか? まるっきりゴーストハウスじゃん。玄関ドアもプレハブ小屋のみたいだし、昔から住んでるおじいちゃんとかは別にして、令和の若い家族がここ借りたりはしないだろ」
「そうよ、きっと。探せばこんなふうに入り口が奥にあるマンション、まだあるんじゃないかしら」杏奈が務に撤退を促す。
「でも、一部屋一部屋表札を確認していこうよ。203号室を見つけさえすれば、それでいいわけだし」
「うへぇ、ここ入るの? ポストは? それ見れば済むことだよ」奈緒が縮こまる。
務が各部屋を見渡す。
「ポストは……一部屋ごとについているみたいだよ。ほら」
指さす方向を三人が見やると、縦長のポストらしき影が見える。近寄ると、かろうじて銀色であることが分かる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ネットの友達に会いに行ったら、間違ってべつの美少女と仲良くなった俺のラブコメ
扇 多門丸
青春
謳歌高校に通う高校2年生の天宮時雨は、高校1年生の3学期、学校をサボり続けたせいで留年しかけた生徒だった。
そんな彼の唯一無二の友人が、ネットの友達のブルームーン。ある日、いつも一緒にゲームをするけれど、顔の知らない友達だったブルームーンから「ちかくの喫茶店にいる」とチャットが来る。会いたいなら、喫茶店にいる人の中から自分を当てたら会ってやる。その提案に乗り、喫茶店へと走り、きれいな黒髪ストレートの美少女か?と聞いた。しかし、ブルームーンからは「違う」と否定され、すれ違ってしまった。
ブルームーンが黒髪の美少女だという推測を捨てきれずに過ごしていたとき、学校の使われていない音楽室でピアノを弾いている、そいつの姿を見つけた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる