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一年生の三学期
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その声に務が振り返った。
「でも、アプリのルートはこの奥を指し示してるよ。このブロックの中心に行くには、この道しかない」
「うん」春樹が頷く。「そこの民家の後ろに、また別の建物があるようだぞ。見えないけど。更にその奥に、もう一軒ある。あの光、玄関のガラス戸から漏れてる感じだよな。たぶんあれじゃないか? あの一軒家っぽいのが南の家だろ」
「あれ?」杏奈が気づいて首を傾げる。「住所、203号室って言っていなかったっけ? マンションのはずよ」
「ああそうか」
我先にと行こうとした春樹が尻すぼむ。
務が冷静に分析した。
「二世帯住宅とかハイツ系なのかも。一軒家っぽい集合住宅もあるよね。C組の小暮のうちみたいな。確かテラスハウスっぽい賃貸で、部屋番がついていたと思うよ」
「それじゃあ、行ってみますか」
春樹がおっかなびっくり足を一歩踏み入れると、務、杏奈、奈緒が続く。
すぐに杏奈の砂嵐柄の撚り杢スラブのスカートを握って、奈緒が言った。
「杏奈ちゃん、場所変わって」
「なんでよ」
「後ろからお化けが来たら怖い。だから後ろ振り向けない」
「わたしも怖いからいや」
「しょうがない。帰りは春樹君がさい こうび」
春樹が振り向く。
後ろの三人の目に映る彼の顔は影になって、黒いのっぺらぼうのようにしか見えないのだが、めそめそした感じで奈緒を見やったのだろうと、容易に推察できる。俺は部長にならないぞという無言の抵抗を示すように。
誰もが一歩を踏み出すたびに、足元に視線を落とす。だが、墨汁が溶け沈んで沈殿しているかのような暗がりの中にある物の様態を、視覚で全く感知できていないようだ。しかも自分の足すら闇に溶け込んでしまい、膝の中央から下は、その存在を目で捉えることが出来ない。だからみんな、探り探りつま先を出して進む。足先がどこにあって、足元がどうなっているか分からないから恐ろしいのだろう。
「でも、アプリのルートはこの奥を指し示してるよ。このブロックの中心に行くには、この道しかない」
「うん」春樹が頷く。「そこの民家の後ろに、また別の建物があるようだぞ。見えないけど。更にその奥に、もう一軒ある。あの光、玄関のガラス戸から漏れてる感じだよな。たぶんあれじゃないか? あの一軒家っぽいのが南の家だろ」
「あれ?」杏奈が気づいて首を傾げる。「住所、203号室って言っていなかったっけ? マンションのはずよ」
「ああそうか」
我先にと行こうとした春樹が尻すぼむ。
務が冷静に分析した。
「二世帯住宅とかハイツ系なのかも。一軒家っぽい集合住宅もあるよね。C組の小暮のうちみたいな。確かテラスハウスっぽい賃貸で、部屋番がついていたと思うよ」
「それじゃあ、行ってみますか」
春樹がおっかなびっくり足を一歩踏み入れると、務、杏奈、奈緒が続く。
すぐに杏奈の砂嵐柄の撚り杢スラブのスカートを握って、奈緒が言った。
「杏奈ちゃん、場所変わって」
「なんでよ」
「後ろからお化けが来たら怖い。だから後ろ振り向けない」
「わたしも怖いからいや」
「しょうがない。帰りは春樹君がさい こうび」
春樹が振り向く。
後ろの三人の目に映る彼の顔は影になって、黒いのっぺらぼうのようにしか見えないのだが、めそめそした感じで奈緒を見やったのだろうと、容易に推察できる。俺は部長にならないぞという無言の抵抗を示すように。
誰もが一歩を踏み出すたびに、足元に視線を落とす。だが、墨汁が溶け沈んで沈殿しているかのような暗がりの中にある物の様態を、視覚で全く感知できていないようだ。しかも自分の足すら闇に溶け込んでしまい、膝の中央から下は、その存在を目で捉えることが出来ない。だからみんな、探り探りつま先を出して進む。足先がどこにあって、足元がどうなっているか分からないから恐ろしいのだろう。
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