225 / 419
一年生の三学期
🍭
しおりを挟む
務が、言葉の出ない奈緒に代わって会話を続けた。
「本人はしていないって言っていたらしいんです。事情を知ることができれば、もしかしたら僕たちでアリバイを証明できるかもしれないし」
「それは、少年課の担当者がすることですから。それより、補導された方がしでかしたことで、なにか知っていることがあれば、お話を伺いたいんですが」
「なにも知りません。小沢さんは悪いことをする人では決してないですし、僕たちもしたことありませんから」
務は食い下がったが、淡々と受け答えをする警官の周りに、別の警官が集まってきた。いつの間にやら、カウンターの外にも三人の警官がやって来ており、奈緒たちは囲まれていた。
それに気がついた杏奈がぎょっとして、務の肘を引っ張る。
「一旦帰りましょう。たぶん今頃、小沢さんのご家族にも連絡がいっていて、状況は把握しているだろうし、そっちに訊きにいったほうが早いと思う」
制帽をかぶって防弾チョッキをつけた警官たちは、だれもかれもガタイがよく、明らかに柔道をしているであろう筋肉質で厚みのある躯体をしている。
早くから囲まれたことに気がついていた春樹は、全く声を発せず俯きっぱなしであったし、勇ましかったもう一人も何も言えなくなって黙ってしまった。
安奈が両手で務の体を押して、ナッジをかける。
「すいません。お騒がせしました」
ここにきて主導権を握った彼女が受付の警官に会釈をして、取り囲む警官の壁の合間を縫って務を引っ張り出した。
続けて移動させようとする春樹が、菜緒の肩に手を添えた。ここから出るように促されたこの子は、無抵抗に従って歩み始める。誰もが諦めた様子でうな垂れていた。当然、みんなを集めた当人も例外ではなかった。
「あ、かばん」と警官の声。
「あら、忘れました。ごめんなさい」奈緒が振り返る。
受付の警官に呼び止められて、カウンターに置きっぱなしにした紺のエコバックを取って、待っていた春樹のもとに足早に駆け寄る。自分を待っていた瞳を一瞥して、ふと右を向いた。するとそこには、上の階へと続く階段があった。
奈緒は階段を一段一段上るように見上げていく。光明が差し込んだ瞳で見つめ、そして唾を飲んだ。
「本人はしていないって言っていたらしいんです。事情を知ることができれば、もしかしたら僕たちでアリバイを証明できるかもしれないし」
「それは、少年課の担当者がすることですから。それより、補導された方がしでかしたことで、なにか知っていることがあれば、お話を伺いたいんですが」
「なにも知りません。小沢さんは悪いことをする人では決してないですし、僕たちもしたことありませんから」
務は食い下がったが、淡々と受け答えをする警官の周りに、別の警官が集まってきた。いつの間にやら、カウンターの外にも三人の警官がやって来ており、奈緒たちは囲まれていた。
それに気がついた杏奈がぎょっとして、務の肘を引っ張る。
「一旦帰りましょう。たぶん今頃、小沢さんのご家族にも連絡がいっていて、状況は把握しているだろうし、そっちに訊きにいったほうが早いと思う」
制帽をかぶって防弾チョッキをつけた警官たちは、だれもかれもガタイがよく、明らかに柔道をしているであろう筋肉質で厚みのある躯体をしている。
早くから囲まれたことに気がついていた春樹は、全く声を発せず俯きっぱなしであったし、勇ましかったもう一人も何も言えなくなって黙ってしまった。
安奈が両手で務の体を押して、ナッジをかける。
「すいません。お騒がせしました」
ここにきて主導権を握った彼女が受付の警官に会釈をして、取り囲む警官の壁の合間を縫って務を引っ張り出した。
続けて移動させようとする春樹が、菜緒の肩に手を添えた。ここから出るように促されたこの子は、無抵抗に従って歩み始める。誰もが諦めた様子でうな垂れていた。当然、みんなを集めた当人も例外ではなかった。
「あ、かばん」と警官の声。
「あら、忘れました。ごめんなさい」奈緒が振り返る。
受付の警官に呼び止められて、カウンターに置きっぱなしにした紺のエコバックを取って、待っていた春樹のもとに足早に駆け寄る。自分を待っていた瞳を一瞥して、ふと右を向いた。するとそこには、上の階へと続く階段があった。
奈緒は階段を一段一段上るように見上げていく。光明が差し込んだ瞳で見つめ、そして唾を飲んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる