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一年生の三学期
第七十話 警察署
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タクシーが中原街道を右折して間もなく、この近辺を管轄する警察署に到着した。開いたドアから、目の前にあった建物の周囲を見て、奈緒が車内へと視線を戻す。
「“ぱとかあ”は、どこ ですか?」
「ここにはないですね。駐車場もないし。裏ではないですか? 裏に回ってみますか?」
「いいえ、ここで結構です」
そう答えた奈緒が、急いで三百円のタクシー券を二枚ちぎって渡す。「おつりは出ませんが」と言う運転手に、「結構です」と返して、急いで外に出た。
おずおずと警察署を見上げる。高くそびえる六階建てのファサードは凹凸がなく、窓だけが並ぶ物静かなデザインで、重々しく鎮座しているといった風体。べつに悪さをしでかしたわけでもないのに、なぜか緊張させるその建ち姿を見て、入るのを躊躇したのか、その場に立ち尽くして左右を見やる。誰もいないことを確認できてほっとした様子を見せると、恐る恐るながらも歩みだして、自動ドアをくぐった。
ロビーに入ると、意外にも威圧感はない。独特の雰囲気を放つ冬服を着た制服警官が勤務していることを除けば、どこかの区役所の風景と変わらないのどかさがある。
左を見ると、コの字型のカウンターテーブルがあったが、誰もいない。
奈緒が、どうしてよいか分からない様子でフロアを見渡すと、室内を分断するカウンターの右のほうに座っていた三十歳前後の警官が、こちらですよと言いたげな視線を送って来たので、導かれるようにその男の元へ歩を進める。総合受付と書かれた案内板が出ていたから、間違いないのだろう。
受付の警官の前まで来ると、奈緒は「こんにちは」と頭を下げてから言った。
「南ちゃんに会いたいです。会わせてください」
「ここにいる方ですか?」
「いいえ、分かりません。で も、図書館の帰り道にいて、いなく なりました」
「なるほど、お連れの方が迷子ですか」
「ちがうちがう。わたしは 一人で した」
「どのようなご用件ですか?」
「分かりません」
警官は言葉を失って、奈緒を見上げる。
この子が身振り手振りを加えて続けた。
「わたしが 図書館で 本を 借りて帰る時に、南ちゃんがやだーって言って、あらあらあらーってうちに、どこかへ こう行っちゃった」
奈緒の一言一言に頷きながら丁寧に聞き取っていた警官が、視線を上げて訊く。
「その方も障がいをお持ちの方ですか?」
「いいえ、元気な方です。元気すぎて、よく暴れま す。なんか 口も悪いみ た い かな、なんて言っちゃって。今のは内緒 で す」
「“ぱとかあ”は、どこ ですか?」
「ここにはないですね。駐車場もないし。裏ではないですか? 裏に回ってみますか?」
「いいえ、ここで結構です」
そう答えた奈緒が、急いで三百円のタクシー券を二枚ちぎって渡す。「おつりは出ませんが」と言う運転手に、「結構です」と返して、急いで外に出た。
おずおずと警察署を見上げる。高くそびえる六階建てのファサードは凹凸がなく、窓だけが並ぶ物静かなデザインで、重々しく鎮座しているといった風体。べつに悪さをしでかしたわけでもないのに、なぜか緊張させるその建ち姿を見て、入るのを躊躇したのか、その場に立ち尽くして左右を見やる。誰もいないことを確認できてほっとした様子を見せると、恐る恐るながらも歩みだして、自動ドアをくぐった。
ロビーに入ると、意外にも威圧感はない。独特の雰囲気を放つ冬服を着た制服警官が勤務していることを除けば、どこかの区役所の風景と変わらないのどかさがある。
左を見ると、コの字型のカウンターテーブルがあったが、誰もいない。
奈緒が、どうしてよいか分からない様子でフロアを見渡すと、室内を分断するカウンターの右のほうに座っていた三十歳前後の警官が、こちらですよと言いたげな視線を送って来たので、導かれるようにその男の元へ歩を進める。総合受付と書かれた案内板が出ていたから、間違いないのだろう。
受付の警官の前まで来ると、奈緒は「こんにちは」と頭を下げてから言った。
「南ちゃんに会いたいです。会わせてください」
「ここにいる方ですか?」
「いいえ、分かりません。で も、図書館の帰り道にいて、いなく なりました」
「なるほど、お連れの方が迷子ですか」
「ちがうちがう。わたしは 一人で した」
「どのようなご用件ですか?」
「分かりません」
警官は言葉を失って、奈緒を見上げる。
この子が身振り手振りを加えて続けた。
「わたしが 図書館で 本を 借りて帰る時に、南ちゃんがやだーって言って、あらあらあらーってうちに、どこかへ こう行っちゃった」
奈緒の一言一言に頷きながら丁寧に聞き取っていた警官が、視線を上げて訊く。
「その方も障がいをお持ちの方ですか?」
「いいえ、元気な方です。元気すぎて、よく暴れま す。なんか 口も悪いみ た い かな、なんて言っちゃって。今のは内緒 で す」
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