FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の三学期

🚓

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「そうだ。どうしよう。もう 行か な きゃ」
 奈緒が、聞こえるように一人言を繰り返す。そして、警官に背を向けると、ボアコートの下から見えるヘビーウェイトな微起毛の赤いギンガムチェック柄のワイシャツと白字に黒い三連線の格子模様のワイシャツの裾をぱたぱたはためかせながら、今来た道を走って逃げた。
「あ、タクシーだ。ちょっと お願いしまぁす。 乗りまぁす」
 奈緒はそう叫ぶと手を上げて振って車を止め、ボンネットに手をついて、開いたドアへと向かう。そして、動かない右足を持ち上げて中に入れると、体を押し込めてリアシートに座った。
「急いで出してください」
 奈緒はそう頼んだが、障がいがあることを心配した運転手は、優しい口調で丁寧に安全確認を行いながらドアを閉めて、シートベルトの着用を促し、なかなか発進しない。
 うまくシートベルトを扱うことが出来なかった奈緒は、バックルをはめたふりをして、もう一度叫んだ。
「追ってください」
「なにをです?」前を向いた運転手が訊き返す。
 フロントガラスの向こうの景色の中に、もうパトカーは存在しない。
 奈緒が、右を指さして「左に曲がってください。そして追ってください。追って く だ さ い」と繰り返した。
「えーと……どうしましょう」
 困った声を発した運転手は、十字路手前で一時停車して車を出さない。
 奈緒が右を指さして続ける。
「左に 曲がって く だ さ い」
「右ですか?」
 軽快なウインカーの音が鳴り始める。
「あれを 追って ください」奈緒がまた言った。
 指さす正面を運転手が見る。だが目の前には、車どころか人っ子一人歩いていない。
「なにをか言っていただかないと、分からないのですが……」





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