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一年生の三学期
第六十八話 試合後
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急に観覧席の数か所から人の塊が引いていく。見ると、そのほとんどがひだまり高校の生徒だ。もともとひんやりしていた空気が、より一層冷たくなる。
立ち上がった奈緒たちが、手すりに寄りかかって見下ろすアリーナでは、バスケットボールを椅子にして、膝の上に置いた手に頭をのせてうなだれる春樹の姿がある。
奈緒が言った。
「負けちゃったね。あんなに頑張ってたのに」
手すりに左肘をかけて、右にいる奈緒のほうに体を向けた南が答える。
「ああ、だけどよくやったよ。わたしもよく分かんないんだけど、旭日って強豪なんでしょ? 中学の時、よく噂耳したし。横断幕とか垂れたやつに、なんとか部 都大会優勝とか、全国大会出場とかって書いてあるのが校舎に掲げられてるの見たことある。うちのバスケ部弱小だったのに、高木が入って急に強くなったらしいよ。それまで一回戦敗退が常だったのに、16まで残れるようになってたんでしょ、三年のチーム。それだけでもすごい」
「大健闘だったのに、みんな薄情だよ」
心愛がぽつりと呟き、そして続ける。
「試合が終わったとたん、すぐに帰っちゃうなんて、ほんとの応援じゃない。そんなの勝ちに乗じて騒ぎたかっただけだと思う。もし関東や全国まで行けば自慢になるし。そんなにわかファンなんて、試合で頑張った選手に失礼だよね。どうせ、今までバスケになんて全然興味なかったんだよ、きっと」
その声は、小さくありながらも力がこもっていた。
彼女の話をまばたきもせず見つめて聞いていた南が、アリーナに視線を戻す。
「仕方がないんだよ、きっと。実力主義の世界だから、日和見な生徒が負けた途端離れるなんていうのはさ」
奈緒が潤んだ瞳を強張らせる。
「でもなんか悲しい気がする。急に寒くなってきた」
一瞬三人は押し黙ったが、急に顔を上げた心愛が、出入り口へと駆けて行く。
「どうしたの? いきなり」南が声をかける。
「高木君、絶対傷ついてるよ。行って慰めてあげないと」
そう叫んで、一階へと下りる階段へと走って行った。
「行こう」
奈緒が駆け出したのを見て、南が続く。
立ち上がった奈緒たちが、手すりに寄りかかって見下ろすアリーナでは、バスケットボールを椅子にして、膝の上に置いた手に頭をのせてうなだれる春樹の姿がある。
奈緒が言った。
「負けちゃったね。あんなに頑張ってたのに」
手すりに左肘をかけて、右にいる奈緒のほうに体を向けた南が答える。
「ああ、だけどよくやったよ。わたしもよく分かんないんだけど、旭日って強豪なんでしょ? 中学の時、よく噂耳したし。横断幕とか垂れたやつに、なんとか部 都大会優勝とか、全国大会出場とかって書いてあるのが校舎に掲げられてるの見たことある。うちのバスケ部弱小だったのに、高木が入って急に強くなったらしいよ。それまで一回戦敗退が常だったのに、16まで残れるようになってたんでしょ、三年のチーム。それだけでもすごい」
「大健闘だったのに、みんな薄情だよ」
心愛がぽつりと呟き、そして続ける。
「試合が終わったとたん、すぐに帰っちゃうなんて、ほんとの応援じゃない。そんなの勝ちに乗じて騒ぎたかっただけだと思う。もし関東や全国まで行けば自慢になるし。そんなにわかファンなんて、試合で頑張った選手に失礼だよね。どうせ、今までバスケになんて全然興味なかったんだよ、きっと」
その声は、小さくありながらも力がこもっていた。
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「仕方がないんだよ、きっと。実力主義の世界だから、日和見な生徒が負けた途端離れるなんていうのはさ」
奈緒が潤んだ瞳を強張らせる。
「でもなんか悲しい気がする。急に寒くなってきた」
一瞬三人は押し黙ったが、急に顔を上げた心愛が、出入り口へと駆けて行く。
「どうしたの? いきなり」南が声をかける。
「高木君、絶対傷ついてるよ。行って慰めてあげないと」
そう叫んで、一階へと下りる階段へと走って行った。
「行こう」
奈緒が駆け出したのを見て、南が続く。
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