FRIENDS

一年生の二学期

🍲

　南の前にもほうじ茶とバナナを一本置いた母親から、奈緒がエプロンを受け取りつつ、
「でも魚が入っているのよ」と強い口調でいがぐりに言葉を突き刺す。
「でも白身魚っぽいよ。奈緒が嫌いなのって青魚だよね」
「白菜はいいの。なんで玉ねぎまで……」
　そうぼやいて、魚をスプーンですくって、ひとくち口に運ぶ。
「うへぇ、あとあげる。鱈だからタラタラって食べて。ほら、つまんないから食べて」
「やめてよ、わたしのお弁当に魚投げ捨てるの。鍋料理だから、わたしのご飯べちゃべちゃじゃん」
「いいの、それで。味…が沁みて 美味しいから」
「奈緒のこういうところに接すると、部長の大変さが目に浮かぶようだよ」
「ありがとう、ぐふふ」この子がほくそ笑む。
「褒めてないって」
　奈緒は、真っ先にバナナに手を伸ばすが、それを察した南が先に取って注意した。
「デザートは最後でしょ。どうせ鱈と玉ねぎ残すんだから、先に食べちゃいなさい。お楽しみは最後にとっておいた方がいいじゃない。そうすれば、頑張って好き嫌いせずに食べられるし」
「えー、そんなのいじわるよ。もういい。ぷんだ。もう食べないから」
　奈緒は、いじけてスプーンをほっぽり出して背を向けると、のそのそとベッドへ向かう。
　その背中に、南が声をかけてきた。
「いいのね、このバナナ。わたしが食べちゃうよ」
「どろぼー」
「じゃあ、事情を説明して、おばさんに返してくるからね」
　彼女は、黙って返答を待つそぶりを見せる。だが、なにも言葉が返ってこないことを察したのか立ち上がって、ドアノブを回す。
「ああ、待って、待って」奈緒がベッドから転げ落ちるようにしてテーブルに戻って叫ぶ。「分かりましたよ、食べますよ。食べれば いいんでしょっ」
　言いながら、濃紺デニムのエプロンを首からかける。そして、すねた様子で要求した。
「ほら、返してください。バナナ、返してください」