193 / 468
一年生の二学期
🖼️
しおりを挟む
「マジ? 萌音に理沙じゃん。信じらんない。ほんと、久しぶりしゃん」
南も声を上げると、スクーターにまたがっていた新しい十円玉色した髪の女の子が振り向いて、びっくりした様子で青いスカジャンに包まれた左腕を大きく振る。
「やだ、なに、南? 久しぶりー! てか、なんかハゲてるー」
「ハゲってゆーなよ。ベリーショートだよ」
「えー? そんでなにやってんの? 今」
「女子高生」
「まじー? 入ったんだ高校、制服似合うー」
「遅ればせながら、だけどね。それより変わんないね、背中の闘魚かっこいいじゃん」
「うん。このベタ、気に入っちゃって、今でも着てんの」
自慢げににんまりすると、顎にかかる昔ながらのソバージュを揺らしながら、背中に施された美しく揺らめくひれを広げて襲い掛からんとする青いベタの刺繍を見せる。続けて、
「南はどうしたの、ダッフルなんて来ちゃって。昇り龍の黒いスカジャンは?」
「うん、とってあるよ。うちにしまってる」
「ふーん、真面目してる」理沙は、少し寂しそうに言った。
南が、バージンベージュの車体に差し込まれたキーを見やる。そこには、赤いカナダの国旗がプリントされた透明で四角いキーホルダーと、フェルトの塊みたいな小さな緑の怪獣のぬいぐるみがついていた。
視線を戻すと同時に、ソバージュ少女に語り掛ける。
「それにしても理沙、髪やばいよ。脱色しすぎでしょ。すごい細いよ、乾燥しきっちゃってるし、クモの糸みたいに細いのもあんじゃん。しかも表面ばっかり」
「うるさいなぁ、これがいいんじゃん。いい加減学んでよ。ていうか、南金髪じゃないじゃん、そっちこそどうしたの、その頭」
理沙が、オン眉ショートバングを持ち上げるように黒目を上げて指摘した。
「ん、ああ、更生した。わたし今まっとうなの」
「ほんと、見た目はまっとうだね。はじめ分からなかったよ。声聞いてもしやって思えた」
もう一人がそう言って、瞼にかかるフルバング越しに南を品定めするように上から下までなめるように見る。
そんな彼女の髪に手を伸ばして指の甲で撫でた南が、懐かしさと親しみの混じった微笑を浮かべた。
「それに比べて、萌音のこの髪、本当感動的だよね。なにこのしっとり感。もはや女神じゃん。この艶やかさ、男じゃなくても惚れちゃうよ」
「ほんと」理沙も褒める。「いつもお手入れ余念がないもん」
キャッキャ、キャッキャ、と飛び跳ねるように騒ぐ三人は、まるで小学生のようだ。南の会話によると、茶髪でソバージュのほうが理沙。しっとり黒髪セミロングのほうが萌音という名前らしい。
奈緒が恐る恐る見ると、二人とも暗濃紺のセーラー服を着ている。南との仲の良さを考えると、中学の時の同級生で、今は高校生なのだろう。
🛵伊奈波理沙🦋
🪡柏木萌音🦋
作画:緒方宗谷
南も声を上げると、スクーターにまたがっていた新しい十円玉色した髪の女の子が振り向いて、びっくりした様子で青いスカジャンに包まれた左腕を大きく振る。
「やだ、なに、南? 久しぶりー! てか、なんかハゲてるー」
「ハゲってゆーなよ。ベリーショートだよ」
「えー? そんでなにやってんの? 今」
「女子高生」
「まじー? 入ったんだ高校、制服似合うー」
「遅ればせながら、だけどね。それより変わんないね、背中の闘魚かっこいいじゃん」
「うん。このベタ、気に入っちゃって、今でも着てんの」
自慢げににんまりすると、顎にかかる昔ながらのソバージュを揺らしながら、背中に施された美しく揺らめくひれを広げて襲い掛からんとする青いベタの刺繍を見せる。続けて、
「南はどうしたの、ダッフルなんて来ちゃって。昇り龍の黒いスカジャンは?」
「うん、とってあるよ。うちにしまってる」
「ふーん、真面目してる」理沙は、少し寂しそうに言った。
南が、バージンベージュの車体に差し込まれたキーを見やる。そこには、赤いカナダの国旗がプリントされた透明で四角いキーホルダーと、フェルトの塊みたいな小さな緑の怪獣のぬいぐるみがついていた。
視線を戻すと同時に、ソバージュ少女に語り掛ける。
「それにしても理沙、髪やばいよ。脱色しすぎでしょ。すごい細いよ、乾燥しきっちゃってるし、クモの糸みたいに細いのもあんじゃん。しかも表面ばっかり」
「うるさいなぁ、これがいいんじゃん。いい加減学んでよ。ていうか、南金髪じゃないじゃん、そっちこそどうしたの、その頭」
理沙が、オン眉ショートバングを持ち上げるように黒目を上げて指摘した。
「ん、ああ、更生した。わたし今まっとうなの」
「ほんと、見た目はまっとうだね。はじめ分からなかったよ。声聞いてもしやって思えた」
もう一人がそう言って、瞼にかかるフルバング越しに南を品定めするように上から下までなめるように見る。
そんな彼女の髪に手を伸ばして指の甲で撫でた南が、懐かしさと親しみの混じった微笑を浮かべた。
「それに比べて、萌音のこの髪、本当感動的だよね。なにこのしっとり感。もはや女神じゃん。この艶やかさ、男じゃなくても惚れちゃうよ」
「ほんと」理沙も褒める。「いつもお手入れ余念がないもん」
キャッキャ、キャッキャ、と飛び跳ねるように騒ぐ三人は、まるで小学生のようだ。南の会話によると、茶髪でソバージュのほうが理沙。しっとり黒髪セミロングのほうが萌音という名前らしい。
奈緒が恐る恐る見ると、二人とも暗濃紺のセーラー服を着ている。南との仲の良さを考えると、中学の時の同級生で、今は高校生なのだろう。
🛵伊奈波理沙🦋
🪡柏木萌音🦋
作画:緒方宗谷
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
足を踏み出して
示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。
一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。
そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。
それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる