FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
177 / 486
一年生の二学期

第五十六話 個性

しおりを挟む
 奈緒の部屋は小奇麗だった。十畳ある洋室に薄い桜色のカーペットが敷いてあって、左と奥の壁に窓があった。右端にベッド、左端に学習机があるが、シンデレラや不思議の国のアリスのシールが貼ってあって、小学生の家具かと見まがう。
 部屋の真ん中にあるクッションの一つに座ろうとした南が座るのをやめて奈緒に声をかけた。
「かたづけてあげようか」
 そう言って、積みあがった画集や絵に関する本のそばによる。
「いいの、いいの。これは あれだから こうで、こうで、大変だからいいの」
 奈緒は画集を一冊取って、本棚に入れようとする。だが、斜めに倒れた本がつかえてしまえない。
 南は「ふーん」と答えて、足の短いガラス・テーブルに奇麗にたたまれた毛糸の厚手なカーディガンやチェックのボトムスパンツが数着積まれているのを見る。
 それに気が付いた奈緒が、テーブルの隣にあるタンスまで歩いて行って同じことを言いながら、左手で二つある丸いノブの左を引く。
 南はすぐに察しがついた様子で、小刻みに頷いた。
「ああ、開かないのね。それで服は出しっぱなしなのね」
「うん、夏服は しまう。寒いから着るのは 出し ま しょ う」
 南がタンスの上を見た。絵の具の塊がにじんだはがきを手に取る。
「絵手紙、描くんだ。そう言えば中学美術部だったっけ?」
「うん。そうなの。描くの。でもだめ。下手だから。週に一度 絵手紙 教室に 行きます。わたしは先週これを 描 い た」
 そう言って、タンスに手を伸ばす。タンスの一番上の引き出しは半分の幅しかなく、片手でも難なく引けた。そしてクリアファイルを南に差し出して、話を続ける。
「これは、絵手紙[の教室で]であった本を 見て 描いた」
 奈緒が指さす絵には、滲んだ薄い墨字で金文書体の歪んだ文字が書いてある。この子の筆跡だ。
「この昔の中国で使われていそうな文字の横に書いてあるのは――詩かな?」南が訊く。
「そう。そして これは これで描いた」
 奈緒はそう言って、床に置いてあったカバンの前に座った。かばんは、学校で使っている黒のリュックの他に、おにぎりに似た形で小学校中学年に似合いそうなサイズの深緑のリュックと茶色いてさげ。手を伸ばしたのは、茶色いてさげ。全て柄の違う扇が上下違う向きで交互に帯状につながって四段並んでいる。白い縫い糸が目立つ手作り感満載なキルトのてさげだ。この子は、絵手紙入門の本を出して南に渡す。
 彼女はそれをパラパラとめくって、奈緒の描いた詩と見比べた。
「誤字脱字でなんか分かんないけど、うまく書けてる」
「あら、そーお?」と、まんざらでも様子で、菜緒は微笑む。





















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

執事👨一人声劇台本

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。 一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

未冠の大器のやり直し

Jaja
青春
 中学2年の時に受けた死球のせいで、左手の繊細な感覚がなくなってしまった、主人公。  三振を奪った時のゾクゾクする様な征服感が好きで野球をやっていただけに、未練を残しつつも野球を辞めてダラダラと過ごし30代も後半になった頃に交通事故で死んでしまう。  そして死後の世界で出会ったのは…  これは将来を期待されながらも、怪我で選手生命を絶たれてしまった男のやり直し野球道。  ※この作品はカクヨム様にも更新しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...