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一年生の二学期
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そう答えながら門を開けて玄関へと進んでいくと、後ろをついてきた南が口を開く。
「うわ、今冬だよ。十二月なのに、奈緒の家、お花畑じゃん」
「うん、お母さんの趣味。と言っても、お花屋さんから黒いポット買ってきて植えるだけ。雑草はお父さんと二人でとるけど、夏は時々お庭屋さんに頼むから 楽ちんしてる」
「でも、庭いじりしようって思うだけすごい。レンガも敷いて道になってて、ヨーロッパのガーデニングみたい。わたしだったら、トマトとかきゅうりとかしか思い浮かばないし、浮かんでもしないよ。ちょうど家のベランダがすんごい日当たりいいから、今度やってみようかな」
「うちのお花あげましょうか?」
「ううん、食べられるやつにする。しかも簡単に育つやつ」
「くいしんぼ。そして、“ぐうたらり”」
「返す言葉もないよ」
南は押し殺すように笑う。そして続けた。
「お母さん、なにしてるの?」
「家庭教師。前は 塾の先生だったけど、家庭教師。わたしが倒れてから、お仕事を辞めて、お世話してくれたんだけれ ど も、今は うちのリビングで 家庭教師してる」
「私塾じゃなくて? 家庭教師は、人のうちに行って勉強教える人のことだよ」
「うん?」首を傾げてから「時々家庭教師しに行く――かな?」
要領を得ない様子の南は、言葉を返さない。
「でもいいよね。なにしてるか分からないけど、家庭教師してるから」奈緒が笑う。
「そうだね、いいよ。とりあえず勉強を教える仕事なんでしょ」適当に答えて、微笑を返してきた。
「うん」
玄関を開けて、元気に「ただいまー帰りましたー」と叫ぶと、中から母親が出てきたので、奈緒はお互いを紹介する。
南が母親に問う。
「家庭教師をなさっているんですか?」
「え? ううん。ここで英語の塾を開いて教えているだけだけれど……」
そう言う母親に視線を向けられて、奈緒が逡巡するように言った。
「ん? あれ? リビングでやってるの、家庭教師。家庭教師って言うのも変だけれど、家庭教師」
「家庭教師じゃなくて、塾の先生ね」母親が淡々と訂正。
「うん。でもいいよね。とりあえず分からないけど、まあいいよね」
奈緒は「あはは」と笑って、母親はそれに頷きながら、「そうね、みんなで頑張っていきましょうね」と答えた。
「うわ、今冬だよ。十二月なのに、奈緒の家、お花畑じゃん」
「うん、お母さんの趣味。と言っても、お花屋さんから黒いポット買ってきて植えるだけ。雑草はお父さんと二人でとるけど、夏は時々お庭屋さんに頼むから 楽ちんしてる」
「でも、庭いじりしようって思うだけすごい。レンガも敷いて道になってて、ヨーロッパのガーデニングみたい。わたしだったら、トマトとかきゅうりとかしか思い浮かばないし、浮かんでもしないよ。ちょうど家のベランダがすんごい日当たりいいから、今度やってみようかな」
「うちのお花あげましょうか?」
「ううん、食べられるやつにする。しかも簡単に育つやつ」
「くいしんぼ。そして、“ぐうたらり”」
「返す言葉もないよ」
南は押し殺すように笑う。そして続けた。
「お母さん、なにしてるの?」
「家庭教師。前は 塾の先生だったけど、家庭教師。わたしが倒れてから、お仕事を辞めて、お世話してくれたんだけれ ど も、今は うちのリビングで 家庭教師してる」
「私塾じゃなくて? 家庭教師は、人のうちに行って勉強教える人のことだよ」
「うん?」首を傾げてから「時々家庭教師しに行く――かな?」
要領を得ない様子の南は、言葉を返さない。
「でもいいよね。なにしてるか分からないけど、家庭教師してるから」奈緒が笑う。
「そうだね、いいよ。とりあえず勉強を教える仕事なんでしょ」適当に答えて、微笑を返してきた。
「うん」
玄関を開けて、元気に「ただいまー帰りましたー」と叫ぶと、中から母親が出てきたので、奈緒はお互いを紹介する。
南が母親に問う。
「家庭教師をなさっているんですか?」
「え? ううん。ここで英語の塾を開いて教えているだけだけれど……」
そう言う母親に視線を向けられて、奈緒が逡巡するように言った。
「ん? あれ? リビングでやってるの、家庭教師。家庭教師って言うのも変だけれど、家庭教師」
「家庭教師じゃなくて、塾の先生ね」母親が淡々と訂正。
「うん。でもいいよね。とりあえず分からないけど、まあいいよね」
奈緒は「あはは」と笑って、母親はそれに頷きながら、「そうね、みんなで頑張っていきましょうね」と答えた。
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