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緒方宗谷

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一年生の二学期

第五十四話 金箔の煌めき

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 しばらくすると、コーヒー豆を挽く電動ミルの作動音がして、白いカップが二つ運ばれてきた。
 テーブルに置かれたそれらを見て、南が感動のこもった声を発する。
「おしゃれ、普通のカップじゃないね。普通、形はみんな同じようで、えがかれた模様が違うとかだけど、この形とてもきれい。コーヒーに垂らしたクリームが渦巻くようにくびれているのが、ちょっとスタイリッシュ。それに凝ってるよね、このソーサー。大きくて四角くて波打ってる。ミルクピッチャーとお砂糖が乗っていて、なんか見惚れちゃう。今時、スティックシュガーじゃないんだ、角砂糖。白だけじゃなくて、茶色いのがあるのがアクセントになってるよね、それに葉っぱ型のココットに乗ってるのもいい感じ。でも、お店の雰囲気のおかげで硬くならなくてちょうどいい。よく調和していると思う。ワイルドな感じと、おとぎチックな感じと、スタイリッシュな食器」
 南の前にチョコレートミントトッフルを置いた店員さんが、初来店の彼女に言った。
「こちらは、ルイボス、ミント、カカオをブレンドしたお茶です。お好みでお砂糖を入れてお飲みください」
 続けて奈緒のほう見ずに、そのまま説明を続ける。
「当店のコーヒーは、ホンジェラスにある農園の豆だけを使っています」
 あたかも自分が淹れたかのように「はいっ」と答えた奈緒は、店員さんが去るのを待って、小声を赤い唇から漏らす。
「ほんじぇらすだって、ウケる」
 南は、ホンジェラスに対してというよりも、奈緒の言い方にウケた様子で笑う。
 同じ形状のカップを持ち上げて一口すすった奈緒が棒読みで言った。
「味は、苦いのも酸っぱいのも弱いけど、おみかんみたいなかおり。“ふるーちー”で口当たり。舌触りはさらりと している。学校で登った山の きれいな小川の海苔。ちがう。トイレ。トイレットペーパー。違う、ティッシュ。ティッシュだ。ティッシュの……」
 突然吹き出して、奈緒がげらげら笑う。「ちがう、ちがう」そして続ける。
「喉越し。透き通って美味しい喉越し」
 南は考えて、解読を試みる。
「渓流の苔むした表面を流れる透き通った清水のような喉越し――」
「そうそれ」
「コーヒー通なんだね」
「うえー苦い。お砂糖入れよう」
「前言撤回」



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