FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🍭

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 眉を持ち上げて宙に何か見つけたように、杏奈が言った。
「外国には、障がい者だけのクルーもあるの。手がなかったり、足がなかったり。でも、健常者でも太刀打ちできないくらいすごいわ」
「そうなの?」務が感心した。
「うん。日本にだって探せばいると思う。いなかったら、成瀬さんが一番になればいいと思うわ」
「それは 無理 で す」
「せっかく背中押したのに、全否定?」杏奈が吹き出す。
「うん」
 欲しいおもちゃに目を奪われている子供が、親に買ってほしいのか、と訊かれて頷いた時に見せる、喜びに膨れた風船のような奈緒の表情を見て、みんなが笑う。
 それにつられて、この子も「あはは」と笑った。学校で本当に本気で笑ったのは初めてだった。
 思い出したように、杏奈が言った。
「あ、そうだ、小沢さん。ちなみにブレイクダンスが生まれたのはハーレムじゃなくて、サウス・ブロンクスだよ」
「え? ハーレムってスラム街って意味じゃないの?」
「ううん。スラム街は貧困[窟]街。ハーレムはニューヨークのマンハッタンにある地区の名前で、サウス・ブロンクスもその近くにあるの」
「間違えちゃって、かっこうわるい」奈緒が言った。
「せっかくいい話だったのにバカみたい、自分で壊してやんの。全部台無し」
 と、暖乃。落ちていた缶を蹴飛ばすように言ってその場を離れると、ウィップスの中で唯一その場に残っていた魚子がポリポリと頭を掻いて、鼻で大きく息を吐く。
「仕方がないね。アイソ教えてあげる。これ出来たら、バウンス格段によくなれるよ。でも手は抜かないから覚悟してね。フィメールラッパーよろしくフロウしたんだからさ」言いながら、首を前後左右に動かして見本を見せた。
「はい。一生懸命頑張り ますので、よ ろ し く お ね が い し ま す」
 もったいぶったように言いながら、奈緒は腰の前で右手に左手を添えて、至極丁寧に頭を下げると、南、杏奈、務の三人は、微笑ましい笑顔で拍手を送る。
 ウィップスは無言だったし、温かく迎え入れた様子もなかったが、この日ダンスを教えている間、この三人は最後まで奈緒を嘲らなかった。




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