139 / 376
一年生の二学期
🍭
しおりを挟む
眉を持ち上げて宙に何か見つけたように、杏奈が言った。
「外国には、障がい者だけのクルーもあるの。手がなかったり、足がなかったり。でも、健常者でも太刀打ちできないくらいすごいわ」
「そうなの?」務が感心した。
「うん。日本にだって探せばいると思う。いなかったら、成瀬さんが一番になればいいと思うわ」
「それは 無理 で す」
「せっかく背中押したのに、全否定?」杏奈が吹き出す。
「うん」
欲しいおもちゃに目を奪われている子供が、親に買ってほしいのか、と訊かれて頷いた時に見せる、喜びに膨れた風船のような奈緒の表情を見て、みんなが笑う。
それにつられて、この子も「あはは」と笑った。学校で本当に本気で笑ったのは初めてだった。
思い出したように、杏奈が言った。
「あ、そうだ、小沢さん。ちなみにブレイクダンスが生まれたのはハーレムじゃなくて、サウス・ブロンクスだよ」
「え? ハーレムってスラム街って意味じゃないの?」
「ううん。スラム街は貧困[窟]街。ハーレムはニューヨークのマンハッタンにある地区の名前で、サウス・ブロンクスもその近くにあるの」
「間違えちゃって、かっこうわるい」奈緒が言った。
「せっかくいい話だったのにバカみたい、自分で壊してやんの。全部台無し」
と、暖乃。落ちていた缶を蹴飛ばすように言ってその場を離れると、ウィップスの中で唯一その場に残っていた魚子がポリポリと頭を掻いて、鼻で大きく息を吐く。
「仕方がないね。アイソ教えてあげる。これ出来たら、バウンス格段によくなれるよ。でも手は抜かないから覚悟してね。フィメールラッパーよろしくフロウしたんだからさ」言いながら、首を前後左右に動かして見本を見せた。
「はい。一生懸命頑張り ますので、よ ろ し く お ね が い し ま す」
もったいぶったように言いながら、奈緒は腰の前で右手に左手を添えて、至極丁寧に頭を下げると、南、杏奈、務の三人は、微笑ましい笑顔で拍手を送る。
ウィップスは無言だったし、温かく迎え入れた様子もなかったが、この日ダンスを教えている間、この三人は最後まで奈緒を嘲らなかった。
「外国には、障がい者だけのクルーもあるの。手がなかったり、足がなかったり。でも、健常者でも太刀打ちできないくらいすごいわ」
「そうなの?」務が感心した。
「うん。日本にだって探せばいると思う。いなかったら、成瀬さんが一番になればいいと思うわ」
「それは 無理 で す」
「せっかく背中押したのに、全否定?」杏奈が吹き出す。
「うん」
欲しいおもちゃに目を奪われている子供が、親に買ってほしいのか、と訊かれて頷いた時に見せる、喜びに膨れた風船のような奈緒の表情を見て、みんなが笑う。
それにつられて、この子も「あはは」と笑った。学校で本当に本気で笑ったのは初めてだった。
思い出したように、杏奈が言った。
「あ、そうだ、小沢さん。ちなみにブレイクダンスが生まれたのはハーレムじゃなくて、サウス・ブロンクスだよ」
「え? ハーレムってスラム街って意味じゃないの?」
「ううん。スラム街は貧困[窟]街。ハーレムはニューヨークのマンハッタンにある地区の名前で、サウス・ブロンクスもその近くにあるの」
「間違えちゃって、かっこうわるい」奈緒が言った。
「せっかくいい話だったのにバカみたい、自分で壊してやんの。全部台無し」
と、暖乃。落ちていた缶を蹴飛ばすように言ってその場を離れると、ウィップスの中で唯一その場に残っていた魚子がポリポリと頭を掻いて、鼻で大きく息を吐く。
「仕方がないね。アイソ教えてあげる。これ出来たら、バウンス格段によくなれるよ。でも手は抜かないから覚悟してね。フィメールラッパーよろしくフロウしたんだからさ」言いながら、首を前後左右に動かして見本を見せた。
「はい。一生懸命頑張り ますので、よ ろ し く お ね が い し ま す」
もったいぶったように言いながら、奈緒は腰の前で右手に左手を添えて、至極丁寧に頭を下げると、南、杏奈、務の三人は、微笑ましい笑顔で拍手を送る。
ウィップスは無言だったし、温かく迎え入れた様子もなかったが、この日ダンスを教えている間、この三人は最後まで奈緒を嘲らなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる