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一年生の二学期
第四十話 ブレイキンの聖地
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月が極まると、魚子の指導は急に厳しさを増した。
「もう本番まで二週間切っているんだよ。そんなバウンズで舞台立つ気でいるわけ? 今までなにしてたの」
彼女は、「1エン2エン……」と口ずさみながら、前髪に触れる距離で裏拳を放ったり、「膝、ちゃんと曲げて」と足の甲で小突いたりした。
開始から一時間が過ぎた頃、堪らず奈緒が魚子から離れると、顔をしかめて口を開く。
「杏奈ちゃん、見て。わたし、こうこうされて、練習できないから、助けてください」
「なにもしてないよ」魚子が淡々と言う。
後ろで雑誌を読んでいた杏奈は、椅子から立ち上がってそばによると、振り返って助けを求める奈緒の髪を撫でてにっこりと微笑む。
「十八日までもう日数がないから、厳しくなるのは当たり前じゃないかな。部活だってそうでしょ。試合前とか厳しくなるじゃない。わたしだって中高バレー部だけれど、やっぱり厳しい指導を受けるよ。何時間もつま先立ちの前傾姿勢で、先輩からレシーブする練習させられたりしたんだから。激しいスパイク受けたり、遠くに投げた球を全力で拾いに行ったり。太腿がけいれんしても休ませてくれなくって大変だったな。それと比べたら、ナナの教え方は天国だよ。それに、今はつらく思っても、あとになって振り返ると、厳しくされてよかったって思える。わたしがそうだったんだから、きっと成瀬さんもそうだよ」
「でも叩かれる」奈緒は顔をしかめた。
「それは誰にも言っちゃだめだよ、誤解されるから。リズムを取りやすくしてくれているだけ。ポンポンって叩くのと成瀬さんがバウンズするのとがずれると、違和感がはっきりと分かるでしょ。よかれと思ってしてくれているの」
突き放されたこの子が、涙目で訴えた。
「三人は、よってたかってわたしを叩く」
「それは、上手くリズムとれないからでしょ」
間髪入れずに言い返された奈緒は言葉に詰まるが、なんとか声を出した。
「でも、杏奈ちゃん、上手になったって 言って くれた」
「うん。でもまだまだだよ。健常者だってちゃんとバウンズ出来ない人多いし、すぐに出来るようにならないんだから。一朝一夕でマスターできるほど簡単じゃないの。それに――」
「もう本番まで二週間切っているんだよ。そんなバウンズで舞台立つ気でいるわけ? 今までなにしてたの」
彼女は、「1エン2エン……」と口ずさみながら、前髪に触れる距離で裏拳を放ったり、「膝、ちゃんと曲げて」と足の甲で小突いたりした。
開始から一時間が過ぎた頃、堪らず奈緒が魚子から離れると、顔をしかめて口を開く。
「杏奈ちゃん、見て。わたし、こうこうされて、練習できないから、助けてください」
「なにもしてないよ」魚子が淡々と言う。
後ろで雑誌を読んでいた杏奈は、椅子から立ち上がってそばによると、振り返って助けを求める奈緒の髪を撫でてにっこりと微笑む。
「十八日までもう日数がないから、厳しくなるのは当たり前じゃないかな。部活だってそうでしょ。試合前とか厳しくなるじゃない。わたしだって中高バレー部だけれど、やっぱり厳しい指導を受けるよ。何時間もつま先立ちの前傾姿勢で、先輩からレシーブする練習させられたりしたんだから。激しいスパイク受けたり、遠くに投げた球を全力で拾いに行ったり。太腿がけいれんしても休ませてくれなくって大変だったな。それと比べたら、ナナの教え方は天国だよ。それに、今はつらく思っても、あとになって振り返ると、厳しくされてよかったって思える。わたしがそうだったんだから、きっと成瀬さんもそうだよ」
「でも叩かれる」奈緒は顔をしかめた。
「それは誰にも言っちゃだめだよ、誤解されるから。リズムを取りやすくしてくれているだけ。ポンポンって叩くのと成瀬さんがバウンズするのとがずれると、違和感がはっきりと分かるでしょ。よかれと思ってしてくれているの」
突き放されたこの子が、涙目で訴えた。
「三人は、よってたかってわたしを叩く」
「それは、上手くリズムとれないからでしょ」
間髪入れずに言い返された奈緒は言葉に詰まるが、なんとか声を出した。
「でも、杏奈ちゃん、上手になったって 言って くれた」
「うん。でもまだまだだよ。健常者だってちゃんとバウンズ出来ない人多いし、すぐに出来るようにならないんだから。一朝一夕でマスターできるほど簡単じゃないの。それに――」
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