FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

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 最後の授業が終わって、魚子の指示で鍵を取りに行った奈緒が、三階の職員室を出てエレベーターを待っていると、すぐ後ろにある男子トイレの前で話す男二人のうんざりする会話が聞こえてくる。クラスで聞き覚えのある声だ。
 小島和馬が言った。
「しかし、ウィップスもババ引かされたのな。結局成瀬の指導させられて、ダンス部の指導もだろ。メリットあんのかな」
 答えたのは、笹原航だ。
「しんねー。だけど、小沢と羽鳥の覇権争い見ものじゃね? やっぱ女の子パンチとか繰り出すのかな?」
「あの二人なら、普通にこぶしだろ」
「でもやるか? 実際」
「分かんねぇよ。小沢あとないし、一発逆転ならシメるしかねーんじゃねぇの?」
「いや、高木と土屋がいんじゃん。孤立はしねーよ」
「お前だったらどっちつく?」
「鳥羽」
「だよな」
「なんで?」
「深谷。あいつ軽そうじゃん。付き合ってくんねぇかな」小島がふしだらに笑う。
「不純野郎。俺もだけど。けど小沢も胸でけぇじゃん」
「だよな。C? Dくらいある?」
「サイズ感分かんねぇ」
「俺も」
「「寂しいなぁ、俺ら」」二人してため息をつく。
 すぐに小島が言った。
「それにしても成瀬もいい気なもんだよな。病気だったらなんでも許されるって思ってんだろ。謝ってるのだってフリだろーし。謝るだけでやるべきこと全部こっちに押し付けてくる。やんなきゃこっちが悪者みたくなるからせざるを得ないし、あいつもそれ分かってんだよな」
「テンポわりぃから、なんかイラつくし。クラスの不協和音の原因のくせして、素知らぬ顔しやがってなぁ」
「交流会の準備っていったら、文化祭と並ぶ彼女作るチャンスだったんだぜ。それが俺ら、始まる前におはらい箱。衣装もセットも屋台もなんの準備もないんじゃ、出会えねぇじゃん、半分女子なのにさ。あいつ、どう落とし前つけてくれんだろうな。ただでさえうちのクラスだけ男子五人も少なくて条件いいのに、全部チャラ。それどころかマイナス」
「体で払ってもらえば? あいつもでかいよ。Cあんだろ」
「ふざけろ。なに持ってっか分かんねぇだろ」
 結構大きな声だったので、エレベータに乗り込んで扉が閉まっても、まだ微かに聞き取れる。奈緒は、顔の皮膚の下で虫が走るように表情を歪めた。そして七階につくと、その声を振り切るかの如く、飛び跳ねるように小走りで書道教室へと向かう。
 人を変え相手を変えて、潮の満ち引きのように誹り嘲りは繰り返されていた。その中で最も多くの心無い言葉を浴びせられる奈緒は、クラスの平穏を保つためにささげられる持衰のようだ。結局のところは相変わらず、クラスメイトは奈緒に厳しかった。






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