FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🐿️

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 ーーそんな中で体育祭の時期を迎えたクラスは、太った運動音痴がいるとクラス対抗リレーに勝てないと、その時期だけその生徒に休むように提案したらしい。中学生だった担任もそれがいいと思って見ていたそうだ。その生徒も承諾したみたいだったし、クラスのためにもなるから、誰にも文句はなかったようだった。だが、その生徒が休むようになってしばらくして、教師は彼が登校しなくなった理由を知って、国語の授業をつぶしてホームルームを開いたんだと。その時教師は怒りもせず、どうして彼を休ませたのかみんなに訊いた。たぶん知った上でね。
 みんなは理由を述べた。悪びれる様子もなく。実際悪いと思っていなかっただろうし、クラスのためには仕方がないことだと思っていたのだろうな。いや、そればかりか担任の話では、クラスのためになるよいことだと思っていた節もある。一通り生徒の話を聞いた教師は、そんなに勝ちたいのなら、彼を抜いて練習しようといって、次の日から朝練をすることになった」
「ひどい」誰か女子が呟く。
「ああ、でも教師の真意はそこにはなかった。みんなが朝いつもより早く学校に行くと、教師はなにやら重そうな箱を乗せたリアカーを校庭に運んできた。見ると、中にはスキューバダイビングで使うおもりのついたベルトが何本も入っていた。そしてこれから走る生徒に、お前はこれをつけろ、お前はこれをつけろ、と指示を出した。それぞれ重さが違ったらしい。そして言ったんだ。それをつけて走れ。本番でもな、と。
 なんでこんなこと、とみんな思ってブーイングの嵐だったらしい。でも教師は、みんなの頭をひっぱたいて、次々に走らせていった。当然みんなよたよたとしか走れなかったし、中にはトラック一周走れない者も出た。そして生徒全員走らせ終わって教師はこう言った。
 お前たちが休ませた誰それは、一日中そんなおもりをつけて生活している。それなのに体育だって充分にこなしている。なにも知らない上に、朝ちょっとおもりをつけた程度でつぶれるお前たちに、彼のすごさのなにが分かるのか、と。そのおもりで彼と同じ体重になって彼に走り勝てるというものがおれば、前に出てきなさい、と。誰も出なかったし誰もなにも言えなかった。
 担任は、その指導を受けた当時を振り返って、こう言ったよ。いったいなにが一番大切なんだ。劣った者をからかえば、お前らはいっときは楽しいだろうけど、からかわれたほうは、一生痕が残る深い傷を負うんだぞ――てね。殴る蹴るの暴行があったわけじゃあない。でも言葉は肉体を突き抜けて、直接心に突き刺さる。それは心臓をナイフで刺されたのと変わらない痛みだ、と。
 当時はまさかと思ったけれど、今は心理学でも脳神経学や生理学でも証明されていることだ」
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