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一年生の二学期
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「日頃って、なにしてもらってる? 学割がある店は別として、なんにもねーじゃん」
粂川が言うと、毛塚が後ろから言葉をかぶせる。
「もらってるの、バレー部と茶道部だけじゃない?」
「お茶だけじゃん。部活OBがお茶屋だからだもんな、柔道部の俺には関係なし」
二人の会話を杏奈が止めた。
「もしかしたら、変わるかもしれないじゃない。それに美術部が、どこかのお店のシャッターに絵を描かせてもらったって話も聞いたことあるし」
「どこかってどこ?」
恵子に訊かれて、杏奈が言葉を失う。
「昔のことだから分からないけど……」
なんとか絞り出した言葉を最後に沈黙が続き、教室が暗澹たる空気に淀み始めた時、空き家に放置された家具を覆う埃まみれの布を引きはがすように、筒井道子が声を上げた。そして、窓際最前列から身を乗り出して、数人の生徒越しに魚子を呼ぶ。
「ウィップス踊れば?」
魚子が杏奈を一瞥して、「いいよ、あたしたちぜひ踊るよ」とニカッと笑う。
「あ、いい案」
杏奈の顔が一転して華やぐ。渡りに船とばかりに言葉を継いだ。
「ダンスっていいと思う。みんな授業でダンスやっているし、子供たちも将来やることになるし、興味ない人いないと思う。ウィップス格好良いし、みんな魅了されちゃうよね」
「杏奈もやろうよ」暖乃がぴょんと肩を弾ませて誘う。
「ええっ、わたし?」
「久しぶりに全員集合ー」
杏奈がおろおろしていると、黒板の横にある席に座っていた岡野先生が手を叩いて注目を集めて言った。
「とりあえず、ダンスで決定な。今回うちのクラスは、成瀬と羽鳥、深谷、相沢の四人で歌って踊ろうと思う」
「はぁ⁉」魚子が真っ先に声を上げた。「なんであたしらが成瀬なんかと踊らなきゃならないんですか?」
「成瀬は入学してきたばかりだし、障がいもあってまだうまくなじめてないだろう。だから主役になれる舞台に立たせて、ちゃんと思い出も作ってやってだな、友達も作ってやろうって寸法だ」
「それ、わたしたちじゃなくてもいいですよね。みんなだって授業でダンスしているんだから、やりたい人がやれば?」暖乃がうろたえる子犬のようにキャンキャン吠えた。
🥋粂川勝🥋
✏️廣飯安奈🏐
作画:緒方宗谷
粂川が言うと、毛塚が後ろから言葉をかぶせる。
「もらってるの、バレー部と茶道部だけじゃない?」
「お茶だけじゃん。部活OBがお茶屋だからだもんな、柔道部の俺には関係なし」
二人の会話を杏奈が止めた。
「もしかしたら、変わるかもしれないじゃない。それに美術部が、どこかのお店のシャッターに絵を描かせてもらったって話も聞いたことあるし」
「どこかってどこ?」
恵子に訊かれて、杏奈が言葉を失う。
「昔のことだから分からないけど……」
なんとか絞り出した言葉を最後に沈黙が続き、教室が暗澹たる空気に淀み始めた時、空き家に放置された家具を覆う埃まみれの布を引きはがすように、筒井道子が声を上げた。そして、窓際最前列から身を乗り出して、数人の生徒越しに魚子を呼ぶ。
「ウィップス踊れば?」
魚子が杏奈を一瞥して、「いいよ、あたしたちぜひ踊るよ」とニカッと笑う。
「あ、いい案」
杏奈の顔が一転して華やぐ。渡りに船とばかりに言葉を継いだ。
「ダンスっていいと思う。みんな授業でダンスやっているし、子供たちも将来やることになるし、興味ない人いないと思う。ウィップス格好良いし、みんな魅了されちゃうよね」
「杏奈もやろうよ」暖乃がぴょんと肩を弾ませて誘う。
「ええっ、わたし?」
「久しぶりに全員集合ー」
杏奈がおろおろしていると、黒板の横にある席に座っていた岡野先生が手を叩いて注目を集めて言った。
「とりあえず、ダンスで決定な。今回うちのクラスは、成瀬と羽鳥、深谷、相沢の四人で歌って踊ろうと思う」
「はぁ⁉」魚子が真っ先に声を上げた。「なんであたしらが成瀬なんかと踊らなきゃならないんですか?」
「成瀬は入学してきたばかりだし、障がいもあってまだうまくなじめてないだろう。だから主役になれる舞台に立たせて、ちゃんと思い出も作ってやってだな、友達も作ってやろうって寸法だ」
「それ、わたしたちじゃなくてもいいですよね。みんなだって授業でダンスしているんだから、やりたい人がやれば?」暖乃がうろたえる子犬のようにキャンキャン吠えた。
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