FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🖋️

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 間髪入れずに、杏奈が言った。
「落としているんじゃない?」
「いーや、盗られてる。間違いないよ」
「案外、背負いなおすためにちょっと飛び跳ねたりした拍子にコロッて落ちちゃうのかも」と務が分析すると、菜緒と安奈の瞳に納得の色が差す。
「ひどいなぁ。わたしのことなんだと思ってるの?」
 南がぼやくと、務が声を返した。
「でもよくあるよね。ポケットからなにか取り出す時に一緒に落ちること。僕、コートの胸の内側にあるポケットからティッシュ出そうとした時、万年筆が引っかかって持ちあがっちゃって、そのまま線路に転がり落ちて電車に轢かれちゃった。高校入学のお祝いにお父さんからもらった大事なやつだったから、ショックだったよ。謝ったら、お父さんは笑って許してくれたけどね」
 杏奈が驚く。
「それって、お父さんが使っていたって言っていたやつ? あの高そうな」
「そう」
 そのまま押し黙った彼女は、物思いにふけるように宙を見やった。
 南が、睨みつけるように眼輪筋を強張らせる。
「なんにしても最低だよね。ちかんは全面的に男だし、スリだって大抵男だしね」
 それを聞いて、務が俯く。
「男として申し開きも出来ない。情けなさ過ぎて、本当にどう謝っていいのやら……」
 奈緒の顔をちらりと垣間見て言うと、すかさず杏奈が口を開く。
「務君がそこまで思うことないよ。務君は立派だったと思う。あの満員電車の中で成瀬さんを助けたじゃない」
「僕だって勇気なかったよ」思い詰めた様子で答える。
「まあ、この問題はお昼に話そうよ」
 南が、昇降口でスニーカーを脱ぎなから、みんなに言った。奈緒は頷かなかったが、他の二人は頷く。
 二階の保健室に来た奈緒はすぐにベッドに入ると、声をかけてくる三人が出て行くまで黙って潜っていた。





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