93 / 465
一年生の二学期
🖋️
しおりを挟む
間髪入れずに、杏奈が言った。
「落としているんじゃない?」
「いーや、盗られてる。間違いないよ」
「案外、背負いなおすためにちょっと飛び跳ねたりした拍子にコロッて落ちちゃうのかも」と務が分析すると、菜緒と安奈の瞳に納得の色が差す。
「ひどいなぁ。わたしのことなんだと思ってるの?」
南がぼやくと、務が声を返した。
「でもよくあるよね。ポケットからなにか取り出す時に一緒に落ちること。僕、コートの胸の内側にあるポケットからティッシュ出そうとした時、万年筆が引っかかって持ちあがっちゃって、そのまま線路に転がり落ちて電車に轢かれちゃった。高校入学のお祝いにお父さんからもらった大事なやつだったから、ショックだったよ。謝ったら、お父さんは笑って許してくれたけどね」
杏奈が驚く。
「それって、お父さんが使っていたって言っていたやつ? あの高そうな」
「そう」
そのまま押し黙った彼女は、物思いにふけるように宙を見やった。
南が、睨みつけるように眼輪筋を強張らせる。
「なんにしても最低だよね。ちかんは全面的に男だし、スリだって大抵男だしね」
それを聞いて、務が俯く。
「男として申し開きも出来ない。情けなさ過ぎて、本当にどう謝っていいのやら……」
奈緒の顔をちらりと垣間見て言うと、すかさず杏奈が口を開く。
「務君がそこまで思うことないよ。務君は立派だったと思う。あの満員電車の中で成瀬さんを助けたじゃない」
「僕だって勇気なかったよ」思い詰めた様子で答える。
「まあ、この問題はお昼に話そうよ」
南が、昇降口でスニーカーを脱ぎなから、みんなに言った。奈緒は頷かなかったが、他の二人は頷く。
二階の保健室に来た奈緒はすぐにベッドに入ると、声をかけてくる三人が出て行くまで黙って潜っていた。
「落としているんじゃない?」
「いーや、盗られてる。間違いないよ」
「案外、背負いなおすためにちょっと飛び跳ねたりした拍子にコロッて落ちちゃうのかも」と務が分析すると、菜緒と安奈の瞳に納得の色が差す。
「ひどいなぁ。わたしのことなんだと思ってるの?」
南がぼやくと、務が声を返した。
「でもよくあるよね。ポケットからなにか取り出す時に一緒に落ちること。僕、コートの胸の内側にあるポケットからティッシュ出そうとした時、万年筆が引っかかって持ちあがっちゃって、そのまま線路に転がり落ちて電車に轢かれちゃった。高校入学のお祝いにお父さんからもらった大事なやつだったから、ショックだったよ。謝ったら、お父さんは笑って許してくれたけどね」
杏奈が驚く。
「それって、お父さんが使っていたって言っていたやつ? あの高そうな」
「そう」
そのまま押し黙った彼女は、物思いにふけるように宙を見やった。
南が、睨みつけるように眼輪筋を強張らせる。
「なんにしても最低だよね。ちかんは全面的に男だし、スリだって大抵男だしね」
それを聞いて、務が俯く。
「男として申し開きも出来ない。情けなさ過ぎて、本当にどう謝っていいのやら……」
奈緒の顔をちらりと垣間見て言うと、すかさず杏奈が口を開く。
「務君がそこまで思うことないよ。務君は立派だったと思う。あの満員電車の中で成瀬さんを助けたじゃない」
「僕だって勇気なかったよ」思い詰めた様子で答える。
「まあ、この問題はお昼に話そうよ」
南が、昇降口でスニーカーを脱ぎなから、みんなに言った。奈緒は頷かなかったが、他の二人は頷く。
二階の保健室に来た奈緒はすぐにベッドに入ると、声をかけてくる三人が出て行くまで黙って潜っていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ
椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。
クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。
桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。
だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。
料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
ユキ・almighty
綾羽 ミカ
青春
新宿区の高校に通う益田ユキは、どこから見てもただの優等生だった。
黒髪を綺麗にまとめ、制服の襟元を正し、図書館ではいつも詩集や古典文学を読んでいる。
クラスメートからは「おしとやかで物静かな子」と評され、教師たちからも模範的な生徒として目をかけられていた。
しかし、それは彼女の一面でしかない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる