FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🚋

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 静寂が戻った瞬間、杏奈がゆっくりと身を反らしてこの子から上半身を離し、改札のほうを見る。
「……一度帰ろうか。無理して行くのもよくないと思うし」
 奈緒が、捨てられた子犬のように、杏奈を見上げる。
「だめだよ」
 否定する男子の声に奈緒が視線を向けると、発言者は言葉を詰まらせる。
 見かねた様子の杏奈が、務の説得にかかった。
「わたしが送っていくよ、そのまま成瀬さんのうちで今日の勉強教えてあげる。つらい思いを押して学校に行ったんじゃ、本当に学校が嫌いになっちゃうし、なによりトラウマになるかもしれないから」
 答えない務に、話を続ける。
「女の子のわたしが寄り添うから、務君は先に行って。そして先生に話しておいて。ね」
 彼の返事を待たずに再びこの子に身を寄せて、二人の間に腕で割って入ると、奈緒の肩に手を添える。
 だが、務は取り合わない。
「じゃあ、ここにいよう。気が晴れるまで」
 そして、隣のベンチに座る。
「わたし行かないよ」奈緒がぽつりと答える。
「うん」
 その会話を聞いて腕を引っ込めた杏奈は、二人を交互に見やってから、無言を打破することができないもどかしさを抱えたような表情になり、震える山のように強張ったのちに、観念した様子を見せて務の隣に座った。
 しばらく無言が続いてから、務が言った。
「これからは、一緒に登校しよう。DMでその日乗る電車の時間教えあって調整しようよ」
「わたし、スマホ持ってないもん」奈緒が答える。「落っことしたら、あっ あっ、てなって、がたーってなって、あららーて、だから むり。もういい」
「そうなの? じゃあ、家からメールか電話くれればいいよ。北千束の駅で待ってるから」
 奈緒が顔を上げた。その顔は、もうぐちゃぐちゃだった。涙と鼻水が混じっていて、肌は制御不能の状態で微震していた。
 またも泣きそうになるこの子に、務が言葉を送る。
「僕たちが守っていくよ」
 その正面に、取り残されてた一人の女子が、まばたきもせず佇立していた。
「……」
 すうっと杏奈の肌からぬくもりが引いていく。それでも表情を崩さずに声を紡ぐ。
「そうだよ。わたしたちが付いているから」
 務が頷くと、それを見た彼女が遅れて頷く。
 ほどなくして奈緒の視線に微かな光明が差して、「うん」力なくもはっきりと頷きを返す。そして間もなくして、ホームに滑り込んできたカラフルなアルファベットがプリントされた電車を見据えて、怖々と立ち上がった。

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