FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
49 / 419
一年生の二学期

🐿️

しおりを挟む
 母親が続ける。
「でも、今の言葉もままならないのに、古典なんて大丈夫?」
「むり」一瞬の間も置かずに答える。
「問題集解いたら? 設問が短いし、繰り返しがいいんじゃないかしら」
「そ れ は む り で す。そういうのは 分からないから。気がつくと遊んじゃうから。
 センターは四 十歳や六 十歳の人たちがいて、やることは 違う け れ ど も、でも しやすい し、鴨志田さんが 教えてくれるか ら、楽。荏原中延の図書館も好き だけれど、うるさいと言われる から、失敗するので、本を 借りる だけにして、我慢する」
「学校では大丈夫なの?」
「大丈夫。みんななれたから」
「そう……」一瞬押し黙って続ける。「入学したばかりの時は、いじめられた、続かないかもしれないって泣いていたから、心配していたのよ」
「うん。でもいじめじゃなかったよ。よだれだったから。みんなびっくりだったから。だいじょうぶ だったよ。今はやさしい。それに わ た し は こんなだから、出来なくても仕方がない じゃない。だから先生も 周りも 怒 られ ないから よくやったと 思う。違う?」
 奈緒は考えながら話した。
「わ た し は、生きているだけでも よかったって思わなきゃ。本当は 死んで いた かもしれない 病気 だったから、運が よかった。だから、早く、いろいろできるようになるって 頑張ら ないと 罰があたっちゃう から、少しでも 頑張るの」
 この子の頭を撫でた母親が、優しくふんわりと声を奏でる。
「お母さんたちがお金貯めておくから、将来の心配はしなくて大丈夫なのよ。はたちになったら障がい者年金だってもらえるんだから」
「うん。だからはたちまで頑張る。そうしたら 遊んで 暮らす。それから 寝て過ごすの。絵手紙行って、あそこのカフェに行って、センターでいつも おしゃべりして、帰って来て団らんして、楽しく 過ごす」
 二人は、くすくす秘密めいた笑いをこぼしあい、混ぜて溶かす。
 奈緒がしみじみ続ける。
「でも、日本に生まれて 本当 よかったねぇ。たり ない ことは あるけれど、国が支援してくれるから、いろいろと助 かる。こうやってやってくれて いるから、ならいいわよねって。不幸だって思ったら不幸 だけれど、幸せだって思ったら しあ わせ。だってうらやんだら、上には上がいてきりがないし、下には下がいて きりがないから、不幸だって思わずに いたい。今が一番 幸せ。大変だけれど、それでもいいよね」
「本当にそうよねぇ。あなたが倒れた時は、もうどうしようって絶望して、死んでしまいたくなったけれどね」





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

処理中です...