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緒方宗谷

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一年生の二学期

🐿️

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 北千束駅の改札を出て少し行った時に、「あ、そうだ」とつぶやいて振り返った奈緒は、よく行くコンビニのナチュラルハイソンに入った。何を買うわけでもなく一周して買うものがなかったかのように装い、出る時ごみ箱にノートを捨てた。その時、カッターで切られたような鋭利な直角三角形の切れ端がはらりと落ちるが、気がつかずにそのまま店を出る。そして、店先で大きなため息をついて、左右の肩を数回揺らしてから家へと向かう。
 家に帰りつくと、静かに玄関に入って扉を閉め寄りかかり、鼻と口を痙攣させながら大きく息を吸う。しばし天井に向いて下唇の内側を噛んで瞳を閉じる。その時、涙がぽろりぽろり、と頬を伝って転がり落ちる。
 それをワイシャツの袖でぬぐって、奥にいる母親に気がつかれていないか様子を見ながら、背を向けて靴を脱ぐ。外気にさらされた白い靴下は、指先が泥水で汚れていた。
 大きく深呼吸をして「ただいまぁー」と言うと、すぐさまトイレに行って、水道で靴下を洗う。片手で握りつぶして絞ると左のポケットに入れ、右のポケットにトイレットペーパー二巻きを二回取って入れた。
 お風呂の脱衣所にあるドラム式洗濯機に靴下を入れると、玄関に脱ぎ捨てた靴にトイレットペーパーをつめて、二階にある自室へと階段を上がっていく。
 帰宅後の奈緒の日課は、これだけではない。モモタとマリーちゃんとマイちゃんのぬいぐるみが揺れるリュックを開けると、中にはしわくちゃに丸めた紙がいくつも入っている。それを広げて、『死ね』と書かれた文字を一瞥して、また丸めてリュックに戻す。明日登校する時、お昼のサンドウィッチを買う際にコンビニのごみ箱に捨てるためだ。
 教科書やノートを取り出すと、まず教科書をパラパラとめくった。何かが書いてあって数ページ戻ると、『来るな』『汚い』などの落書きがあった。消しゴムをかけるが、油性マジックで書かれていて、全く消えない。強くこすりすぎて教科書が悲鳴を上げて破れた。消しゴムを持つ奈緒の手が小刻みに震える。きゅっと唇を結んで堪えるも涙がぼたぼたと落ちた。
 感情を瞼の裏に押し込めると、今度はノートを開く。すぐに落書きを見つけると、躊躇せず綴じ代ぎりぎりからカッターで切り落とす。くねくねとした切り口ばかりが目立つノートは、すでに半分の薄さになっていた。
 それから、ジップペンケースから芯の折れた鉛筆を三本取り出して、中身を確認する。時々ほこりが詰められているからだ。何も入っていないことを確認すると、小さな鉛筆削りで芯を削り出そうと、ジップペンケースの中を探す。もともと入っていた鉛筆削りはなくなっていたので、予備に買っておいたものを開けた。十月に入ってもう三つ目だ。



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