45 / 376
一年生の二学期
第十五話 表情の裏側
しおりを挟む
おいも談議に花を咲かせた同じ日、奈緒は一人で通学路の戸越公園駅近くにある商店街を歩いていた。授業が終わって杏奈の席に向かったが、今日は塾が早くにあるからと一緒に帰ることができず、南の席を見やるもバイトがあると言って教室を出て行き、すでに席にいなかったからだ。
こういう時、いつもこの子には、同じような出来事が降りかかっていた。
一人で帰ろうとすると、後ろのロッカーに奈緒のリュックはない。杏奈の席を通り過ぎるさいにロッカーを一瞬見やるとすぐに、窓際にある掃除用具入れに直行して、わきに置いてあるごみ箱をのぞく。そこからリュックを引っ張り出すと、後ろから「くすくす」笑う声と、((きたなーい))と囁く女子の声が聞こえる。
奈緒は、「うんしょ、うんしょ」と不器用にリュックを背負う。何度も振り子のように上半身を揺らして担ぐと、逃げるように教室を後にする。
「挨拶もなし?」
「わたしたちとなかよくしたくないんじゃない?」
教室に残る女子たちは、決まって同じ言葉を口にした、
「あれじゃあ、だめだよね、友達できないよ」
「作る気ないんじゃない?」
そんな声が廊下まで響くのだ。
エレベーターホールへと続く短い距離の間には幾人もの生徒がいたが、誰もが奈緒をさけた。中には楽しそうにおしゃべりしていたのをやめ、穴が開くほど見つめてくる者もいる。そして通り過ぎると、何事もなかったようにまたおしゃべりに興じる。
「成瀬さんだっけ、あの子。可哀想。右手とか動かないんだって。よく学校来れるよね、わたしだったら無理、もう生きていけない」
「確かに。死んだほうがまし」
「いや、それはない」
「ワロタ」
「でも死んだも同然だよ。もう一生彼氏できないじゃん、人生終わりだよ。テニスできなくなるのもいやだし」
「青春ないじゃん。学校来る意味なんにもなし」
何気ない会話が、奈緒の背中に刺さるように飛んできた。
居たたまれずにエレベーターを待つことをあきらめて、階段を一段一段慎重に下りて三階の昇降口まで行くと、半開きになっていた自分のシューズロッカーの前で辺りを見渡す。周辺をさまよってトイレのごみ箱や、ジュースの自動販売機のわきや、ロッカー室も覗くが、外履き用のスニーカーは見当たらない。外に出て一階へと続く階段の中心を縦に走る植え込みを見やった時に、ようやく四葉のクローバーがワンポイントのスニーカーを見つけて、それを持って玄関に戻る。外履きに足を潜り込ませると、微かにくちゅりという水っぽい音がして、顔を歪めた。一瞬固まったが、すぐに気を取り直してそのまま履いた。
こういう時、いつもこの子には、同じような出来事が降りかかっていた。
一人で帰ろうとすると、後ろのロッカーに奈緒のリュックはない。杏奈の席を通り過ぎるさいにロッカーを一瞬見やるとすぐに、窓際にある掃除用具入れに直行して、わきに置いてあるごみ箱をのぞく。そこからリュックを引っ張り出すと、後ろから「くすくす」笑う声と、((きたなーい))と囁く女子の声が聞こえる。
奈緒は、「うんしょ、うんしょ」と不器用にリュックを背負う。何度も振り子のように上半身を揺らして担ぐと、逃げるように教室を後にする。
「挨拶もなし?」
「わたしたちとなかよくしたくないんじゃない?」
教室に残る女子たちは、決まって同じ言葉を口にした、
「あれじゃあ、だめだよね、友達できないよ」
「作る気ないんじゃない?」
そんな声が廊下まで響くのだ。
エレベーターホールへと続く短い距離の間には幾人もの生徒がいたが、誰もが奈緒をさけた。中には楽しそうにおしゃべりしていたのをやめ、穴が開くほど見つめてくる者もいる。そして通り過ぎると、何事もなかったようにまたおしゃべりに興じる。
「成瀬さんだっけ、あの子。可哀想。右手とか動かないんだって。よく学校来れるよね、わたしだったら無理、もう生きていけない」
「確かに。死んだほうがまし」
「いや、それはない」
「ワロタ」
「でも死んだも同然だよ。もう一生彼氏できないじゃん、人生終わりだよ。テニスできなくなるのもいやだし」
「青春ないじゃん。学校来る意味なんにもなし」
何気ない会話が、奈緒の背中に刺さるように飛んできた。
居たたまれずにエレベーターを待つことをあきらめて、階段を一段一段慎重に下りて三階の昇降口まで行くと、半開きになっていた自分のシューズロッカーの前で辺りを見渡す。周辺をさまよってトイレのごみ箱や、ジュースの自動販売機のわきや、ロッカー室も覗くが、外履き用のスニーカーは見当たらない。外に出て一階へと続く階段の中心を縦に走る植え込みを見やった時に、ようやく四葉のクローバーがワンポイントのスニーカーを見つけて、それを持って玄関に戻る。外履きに足を潜り込ませると、微かにくちゅりという水っぽい音がして、顔を歪めた。一瞬固まったが、すぐに気を取り直してそのまま履いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
DEVIL FANGS
緒方宗谷
ファンタジー
下ネタ変態ファンタジー(こども向け)です。
主人公以外変態しか出てきません。
変態まみれのちん道中。
㊗️いつの間にか、キャラ文芸からファンタジーにジャンル変更されてたみたい。ーーてことは、キャラの濃さより内容が勝ったってこと?
ローゼ万歳、エミリアがっくし。
でも、自信をもって下ネタ変態小説を名乗ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる