FRIENDS

一年生の二学期

🏐

「ごめんね」南が奈緒の右の二の腕を掴んで頬に顔を寄せて、小声になるように内側に向かい、（（わたしあれだからさ））と囁き吹く。そして、くすっと笑った。
「わたしがんばるから、見ててね」
　奈緒がそう返すと、南は手を振って、コートから離れていく美憂と恵子の背中を追った。
　これといった合図もなくそれぞれがポジションにつく。奈緒は、なんとなく前衛ライトに収まった。
「ねぇ」ネット越しに魚子が左手を振って奈緒に呼ぶ。「ほんと右目見えてないの？」
「うん。とんとんでとんとんだけど――」と言ったところで、「あだっ」と叫ぶ。ボールが顔面に当たって、しりもちをついた。
「ちょっと相沢、成瀬狙わないでよ」南が外野から叫んだ。
　すると、魚子が無愛想に口を挟む。
「偶然だろ。こいつがよそ見してるから」
　南はブレイズの女子にガンを飛ばしたが、奈緒に「大丈夫だよ」と言われて、しぶしぶ視線を緩めた。
　小声で魚子が続ける。
「それにしても本当、杏奈も災難だよね。あんた、なに杏奈と友達みたいになれなれしくしてるの？　あの子優しいから断れないんだろうけど、実際は困ってると思うよ。ただでさえ委員長で大変なのに、いらない苦労背負わされて。成瀬さぁ、少しは周りの苦労考えてよ、学校に来られたらわたしたちいやなんだけど」
　奈緒の左隣にいた暖乃が引き継ぐ。
「わたしたち、あなたのために楽しいバレーボール演じてあげてるんだからね。あなたがいなければ、本当に楽しいのにさ」
　バケツの水をかけるような言葉を浴びて奈緒がしょんぼりしたところに、またボールが飛んできて胸に当たってしりもちをついた。
　南に「相沢」と叫ばれたかおりは、左手を上げて答え、言葉を遮る。そして放ったサーブは、またも奈緒のほうに飛んできた。
「成瀬、レシーブ！」南が激を飛ばす。
　一人騎馬のようにカッポカッポと構えた奈緒が、左手だけで無様にレシーブをすると、ボールは高々と上がってネットを越え、相手コートに戻った。それをかおりがレシーブすると、前衛センターにいた孫凛が続けてレシーブをして、レフト上空へボールを放つ。
　それを軽いタッチで魚子がつついた。ボールがゆっくりとライトのエリアに落ちてくる。おろおろしながら奈緒は片手でレシーブ。弾いたボールは真横に飛んで場外にいた南がキャッチした。