FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
27 / 189
一年生の二学期

🐿️

しおりを挟む
 奈緒が顎を下げて宙を見やると、魚子が「そっち右」とつっこむ。
「こっちが“ひどり”」
「ひだり」
「ひだり」奈緒が慌てて言い直し、「なんですかそれは」と、怪訝な顔をしながらすごい目力で真剣に訊く。
 魚子は無視して続けた。
「もっと少人数制で教えてくれるところで手取り足取りしてもらったほうが、将来のためだと思うよ。それに、今度の期末テストどうするの。ひらがなだってろくに書けないんじゃ、点の取りようないじゃない。せっかく入ったのに、落第点だなんて時間の無駄だと思うよ」
 あからさまにいやな顔をして、奈緒が叫ぶ。
「あらやだ。テスト どうしましょう」
「だーかーらー、卒業できるレベルに下げなさいってこと」暖乃がゆっくりとした口調で教える。
「うーん」と悩み込んだ奈緒が訊いた。
「でも、どうすれば よいですか?」
 暖乃は答えず、この子を刺すように見つめる魚子の目を見る。そしてその言葉を待った。
「まず、先生に言いな。いや――杏奈に言いな」
 考えながらそう言った魚子が続ける。
「あたしらが伝えてあげる。勉強についていけないから、転校してやり直したいって。それを先生に伝えてもらおう」
 奈緒は、不信のまなざしを送る。
 それを払拭させようと、魚子がへらりと薄笑う唇から言葉を溢す。
「成瀬だって、卒業できないのは困るでしょ、ただでさえ年上なのに、これ以上年上になったらおばさんになっちゃうじゃん。いつまでたっても卒業できないんだから。やり直しは早いほうがいいよ。考えてみてよ、高校三年間って、短いようでとても大切な時間だよ。それをわけわかんないまま留年繰り返して退学になるより、転校して楽しく過ごした方がいいじゃん。そうじゃなきゃ、この先ずっと補習の毎日で、そのまま卒業できずに終わっちゃうよ」
「それはいや」奈緒が眉をひそめる。
「でしょ。この学校バカばっかだけど、今進学校への転換図ってる真っ最中なんだよね。今はまだ在学認めてくれているけど、来年再来年は分からないよ」
 不安をあおられて、奈緒は蒼くなった。
「え~? それなら、来年、再来年、卒業し ま す」
「だから無理だって」魚子と暖乃が口をそろえる。
「それは 分からない でしょう。わたしだって頑張るん だ か ら、そお したら、あれやってこれやって、教えてもらえば、なんとかなるから、お願い します」




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,069pt お気に入り:4,641

青春

青春 / 連載中 24h.ポイント:568pt お気に入り:0

令和の令子ちゃん

経済・企業 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

Merry Christmas.

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

happy dead end

BL / 完結 24h.ポイント:617pt お気に入り:5

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:60,438pt お気に入り:53,982

ボーダーライン

BL / 完結 24h.ポイント:1,036pt お気に入り:16

転生者ジンの異世界冒険譚(旧作品名:七天冒険譚 異世界冒険者 ジン!)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:5,501

勇者の曾孫の迷走録

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:384pt お気に入り:32

処理中です...