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自分を貫け
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実は、あの時、バラは後悔していたのです。良いことをしたのに、なぜ後悔していたのでしょうか。バラは、姫に語ることはしたくありませんでした。恥ずかしい過去だと思っていたからです。ですが、勇気を出して語りました。それは、このような過去でした。
あの日の夕方、ようやく戻った居場所の前で、バラは呆然として佇んでいました。バラが植わっていた場所は、硬く踏み固められていたからです。ガキ大将達が、再びバラが住み着けないように、みんなで硬く硬く踏み固めてしまっていたのです。
幼いバラと草のガキ大将の力の差は大きかったので、バラがどんなに掘り耕そうとしても無理でした。それに、後ろの方で声が聞こえます。
「ふふふふふ、掘ろうとしてるよ、可笑しいの。
もう、どっか行っちゃえば良いのに」
そんな言葉が、幾度もバラの背中に刺さりました。バラを痛めつける言葉は、何度も行ったり来たりしています。遂に心が折れてしまったバラは、土を耕すのをあきらめてしまいました。あと少しで柔らかくなりそうだったのに。
バラは居た堪れなくなって、その場を立ち去りました。後ろから声だけがついてきます。
「どこに行く気なんだろう」
「どこにも行く当てなんてないんじゃない?」
クスクスと笑い声が聞こえてきます。行ったり来たりする言葉は、行く場所は岩地しかないんじゃないか、と言いました。あそこなら誰もいないから、いさせてもらえるかもしれない、とバラは思いました。
それとなく岩地に行くべきだと誘導されてしまったのです。それに気が付かずに、バラは自ら進んで岩地へと行きました。聞くように仕向けられたのです。
草原を半分くらい来た頃には、ついて回っていた言葉は聞こえなくなっていましたが、バラは疑うことなく岩地を目指しました。そこだけが自分の居場所だと思い込まされていたのです。
後になってバラは後悔しました。イジメられていても、みんなのいるところに帰りたい、と嘆きました。1人でいても良いんだと気が付くまで、大分時間がかかりました。
どうしてバラが岩地に追いやられたか、姫は知りません。あの時のことを覚えている精は、森には1人もいませんでした。ガキ大将ですら覚えていませんでした。
バラの話は続いていました。
「僕は、あの時、みんなに行くなと言われたけれど、赤ちゃんの泣き声が耳から離れませんでした。僕が助けなきゃ、この子が死んじゃうって。僕はとても怖かったけれど、何も考えないようにして、エイってしたんです。
赤ちゃんを助けられてホッとしたけど、戻ってきたら居場所が無くて・・・。それから忘れるまで長い間、助けなければ良かったのかな、って思っていたんです。ごめんなさい」
泣き出しそうに告白するバラに、姫は頭を撫でてあげて言いました。
「本当に正義があると思った事をしようした時に、邪魔をする者は多いのですね。
でも、本当に正義があると思ったのなら、誰が何と言おうと貫き通すのが、本当の勇気ですよ。
安心してバラちゃん、あなたは正しいことをしたのですから」
人の用意した道は進むべき道でないというわけではありませんが、間違っていることも多々あります。ガキ大将は何か理由があって行くな、と言っていたわけではありませんでした。ただ、バラの言動を遮って、自分の言う通りにしたかっただけでした。
ミントの精霊が言いました。
「バラの坊や、わたし達に謝る必要なんてありません。
沢山の精が色々なことを言う中で、自分を曲げてしまったりするのが普通です。
わたし達も、坊やが悪く言われているのを風のうわさで聞いていて、それが嘘だとみんなに言いませんでした。
わたし達はみんな強くありませんから」
ミントのおじさんが続けて言います。
「あの日、うちは大変だったんだよ。妻が泣いていてね、娘がいないって叫びながら、家中を探していたんだ。
私もビックリして、探し回ったんだよ。そしたらね、ポケットの中から泣き声がするのさ、おぎゃ~、おぎゃ~、てね」
おじさんが、慌ててポケットから種を取り出すと、元気な双葉が泣いているではありませんか。
「ああ、わたしの赤ちゃん、どうしてこんなところに!!」
妻は泣いて喜びました。2人は、娘を助けてくれた幼い精に感謝しました。
実は、朝おじさんが家を出るとき、三女はもう生まれていたのです。揺り籠のそばを通った時に羽織った上着の起こした風で舞い上がった種は、おじさんのズボンのポケットに入ったのでした。
ポケットの中は暖かくて、父親の神気も満ちていたので、娘は死ぬことはありませんでした。そればかりか心地よく眠っていたのです。
「すごく遠い道のりだっただろうに、本当に強い子だね」と、おじさんは最後に言いました。
バラは同世代の精と比べて、体も小さく神気も弱いものでした。不毛の大地にいたのですから、成長できていなくて当たり前です。でもバラも男の子です。強いと言われて嬉しくないはずがありません。
バラが三女を見やると、あの時の小さな小さな双葉の赤ちゃんが、こんなに大きくなれたのだと実感が湧いてきます。もしかしたら、死んでいたかもしれない女の子だと思うと、あの時感じた感情やとった行動が誇らしく思えてきました。姫の言った正義を成すことが出来たのです。
蜜蜂が歩み出てきて膝をつき、バラの肩に手をおいて言いました。
「坊や、君は勇者だよ。大衆に迎合することなく、たった1人で赤ちゃんに降りかかった厄災と戦ったんだから」
格好良い蜜蜂に褒められて、バラはとても嬉しく思いました。この蜜蜂は兵士ではないけれど、幼いバラから見れば、働き蜂はとても強い存在です。ずっと働いていますから、筋肉モリモリです。
同じ精でも、バラは下位の精で、この蜜蜂は上位の精です。下位の精の中でも成長していない方なので、下の下。バラにとっては憧れのヒーローの様に、強い存在でした。
「こんな立派なことをした幼児に会ったことはないよ」
蜜蜂の精はそう言いながら、蜂蜜を1瓶くれました。瓶の口まで蜜がなみなみ入っていて、コルクのふたで閉じてあります。1人ではなめ切れないプレゼントに、バラは満面の笑みを湛えて、大きな口を開けて喜びました。姫にも見せびらかせました。
もし、あの時、言われた通り見捨てていたら、後で見捨てたと非難されていたことでしょう。今でもバラは、イジメられて小さく縮こまって、1人寂しく生活していたかもしれません。
岩地で寂しく過ごした時期は長かったですが、こんなに喜ばしい日が来るのなら、耐えてきたかいがあるというものです。その時、良いことはないと諦めてしまうことは簡単です。今日の幸せがあるなんて、想像もできないでしょう。ですが、自分を貫き通した道の先には、とても大切なものが眠っているのです。
時には、わざと間違った道を勧めてくる者もいます。自分が進もうとする正義の道に偽りの道を重ねて、そこを歩んで行くように唆すものいます。
もし、自分の進むべき道がはっきりとしていないとしたら、どこにも辿りつけない迷路の中に迷ってしまうでしょう。もしかしたら、地獄行きかもしれません。
さらに、自分が正義の道を行くのを利用して、手に入れた物を後ろからくすねてしまう者もいます。そういう者は、後ろから応援しながら、足を引っ張っているのです。
ですが、それでも進んでいかねばならないときもあります。ガキ大将達に悪意はありませんでしたが、結果として、バラを出口のない迷宮に誘う言葉を吐き出していました。まさか、本当にバラが果ての岩地に行ってしまうなんて思わなかったし、帰ってこないとも思いませんでした。
頭の上に蜜を掲げて笑うバラに、姫が言いました。
「バラちゃんは、困っている人を見ると、助けずにはいられない性分なのですね。
なんせ、アケビに、竹に、菜の花に、ミントまで助けているんですもの。
そんなバラちゃんが、わたしは大好きですよ」
とても可愛い姫に好きですなんて言われて、まっかっかになるバラでした。ほっぺの赤さといったら、底の無い真紅の海に吸い込まれる様に感じさせるほどの赤さでした。バラは、いつまでも正義でいたい、と思いました。だって、姫が褒めてくれるから。
あの日の夕方、ようやく戻った居場所の前で、バラは呆然として佇んでいました。バラが植わっていた場所は、硬く踏み固められていたからです。ガキ大将達が、再びバラが住み着けないように、みんなで硬く硬く踏み固めてしまっていたのです。
幼いバラと草のガキ大将の力の差は大きかったので、バラがどんなに掘り耕そうとしても無理でした。それに、後ろの方で声が聞こえます。
「ふふふふふ、掘ろうとしてるよ、可笑しいの。
もう、どっか行っちゃえば良いのに」
そんな言葉が、幾度もバラの背中に刺さりました。バラを痛めつける言葉は、何度も行ったり来たりしています。遂に心が折れてしまったバラは、土を耕すのをあきらめてしまいました。あと少しで柔らかくなりそうだったのに。
バラは居た堪れなくなって、その場を立ち去りました。後ろから声だけがついてきます。
「どこに行く気なんだろう」
「どこにも行く当てなんてないんじゃない?」
クスクスと笑い声が聞こえてきます。行ったり来たりする言葉は、行く場所は岩地しかないんじゃないか、と言いました。あそこなら誰もいないから、いさせてもらえるかもしれない、とバラは思いました。
それとなく岩地に行くべきだと誘導されてしまったのです。それに気が付かずに、バラは自ら進んで岩地へと行きました。聞くように仕向けられたのです。
草原を半分くらい来た頃には、ついて回っていた言葉は聞こえなくなっていましたが、バラは疑うことなく岩地を目指しました。そこだけが自分の居場所だと思い込まされていたのです。
後になってバラは後悔しました。イジメられていても、みんなのいるところに帰りたい、と嘆きました。1人でいても良いんだと気が付くまで、大分時間がかかりました。
どうしてバラが岩地に追いやられたか、姫は知りません。あの時のことを覚えている精は、森には1人もいませんでした。ガキ大将ですら覚えていませんでした。
バラの話は続いていました。
「僕は、あの時、みんなに行くなと言われたけれど、赤ちゃんの泣き声が耳から離れませんでした。僕が助けなきゃ、この子が死んじゃうって。僕はとても怖かったけれど、何も考えないようにして、エイってしたんです。
赤ちゃんを助けられてホッとしたけど、戻ってきたら居場所が無くて・・・。それから忘れるまで長い間、助けなければ良かったのかな、って思っていたんです。ごめんなさい」
泣き出しそうに告白するバラに、姫は頭を撫でてあげて言いました。
「本当に正義があると思った事をしようした時に、邪魔をする者は多いのですね。
でも、本当に正義があると思ったのなら、誰が何と言おうと貫き通すのが、本当の勇気ですよ。
安心してバラちゃん、あなたは正しいことをしたのですから」
人の用意した道は進むべき道でないというわけではありませんが、間違っていることも多々あります。ガキ大将は何か理由があって行くな、と言っていたわけではありませんでした。ただ、バラの言動を遮って、自分の言う通りにしたかっただけでした。
ミントの精霊が言いました。
「バラの坊や、わたし達に謝る必要なんてありません。
沢山の精が色々なことを言う中で、自分を曲げてしまったりするのが普通です。
わたし達も、坊やが悪く言われているのを風のうわさで聞いていて、それが嘘だとみんなに言いませんでした。
わたし達はみんな強くありませんから」
ミントのおじさんが続けて言います。
「あの日、うちは大変だったんだよ。妻が泣いていてね、娘がいないって叫びながら、家中を探していたんだ。
私もビックリして、探し回ったんだよ。そしたらね、ポケットの中から泣き声がするのさ、おぎゃ~、おぎゃ~、てね」
おじさんが、慌ててポケットから種を取り出すと、元気な双葉が泣いているではありませんか。
「ああ、わたしの赤ちゃん、どうしてこんなところに!!」
妻は泣いて喜びました。2人は、娘を助けてくれた幼い精に感謝しました。
実は、朝おじさんが家を出るとき、三女はもう生まれていたのです。揺り籠のそばを通った時に羽織った上着の起こした風で舞い上がった種は、おじさんのズボンのポケットに入ったのでした。
ポケットの中は暖かくて、父親の神気も満ちていたので、娘は死ぬことはありませんでした。そればかりか心地よく眠っていたのです。
「すごく遠い道のりだっただろうに、本当に強い子だね」と、おじさんは最後に言いました。
バラは同世代の精と比べて、体も小さく神気も弱いものでした。不毛の大地にいたのですから、成長できていなくて当たり前です。でもバラも男の子です。強いと言われて嬉しくないはずがありません。
バラが三女を見やると、あの時の小さな小さな双葉の赤ちゃんが、こんなに大きくなれたのだと実感が湧いてきます。もしかしたら、死んでいたかもしれない女の子だと思うと、あの時感じた感情やとった行動が誇らしく思えてきました。姫の言った正義を成すことが出来たのです。
蜜蜂が歩み出てきて膝をつき、バラの肩に手をおいて言いました。
「坊や、君は勇者だよ。大衆に迎合することなく、たった1人で赤ちゃんに降りかかった厄災と戦ったんだから」
格好良い蜜蜂に褒められて、バラはとても嬉しく思いました。この蜜蜂は兵士ではないけれど、幼いバラから見れば、働き蜂はとても強い存在です。ずっと働いていますから、筋肉モリモリです。
同じ精でも、バラは下位の精で、この蜜蜂は上位の精です。下位の精の中でも成長していない方なので、下の下。バラにとっては憧れのヒーローの様に、強い存在でした。
「こんな立派なことをした幼児に会ったことはないよ」
蜜蜂の精はそう言いながら、蜂蜜を1瓶くれました。瓶の口まで蜜がなみなみ入っていて、コルクのふたで閉じてあります。1人ではなめ切れないプレゼントに、バラは満面の笑みを湛えて、大きな口を開けて喜びました。姫にも見せびらかせました。
もし、あの時、言われた通り見捨てていたら、後で見捨てたと非難されていたことでしょう。今でもバラは、イジメられて小さく縮こまって、1人寂しく生活していたかもしれません。
岩地で寂しく過ごした時期は長かったですが、こんなに喜ばしい日が来るのなら、耐えてきたかいがあるというものです。その時、良いことはないと諦めてしまうことは簡単です。今日の幸せがあるなんて、想像もできないでしょう。ですが、自分を貫き通した道の先には、とても大切なものが眠っているのです。
時には、わざと間違った道を勧めてくる者もいます。自分が進もうとする正義の道に偽りの道を重ねて、そこを歩んで行くように唆すものいます。
もし、自分の進むべき道がはっきりとしていないとしたら、どこにも辿りつけない迷路の中に迷ってしまうでしょう。もしかしたら、地獄行きかもしれません。
さらに、自分が正義の道を行くのを利用して、手に入れた物を後ろからくすねてしまう者もいます。そういう者は、後ろから応援しながら、足を引っ張っているのです。
ですが、それでも進んでいかねばならないときもあります。ガキ大将達に悪意はありませんでしたが、結果として、バラを出口のない迷宮に誘う言葉を吐き出していました。まさか、本当にバラが果ての岩地に行ってしまうなんて思わなかったし、帰ってこないとも思いませんでした。
頭の上に蜜を掲げて笑うバラに、姫が言いました。
「バラちゃんは、困っている人を見ると、助けずにはいられない性分なのですね。
なんせ、アケビに、竹に、菜の花に、ミントまで助けているんですもの。
そんなバラちゃんが、わたしは大好きですよ」
とても可愛い姫に好きですなんて言われて、まっかっかになるバラでした。ほっぺの赤さといったら、底の無い真紅の海に吸い込まれる様に感じさせるほどの赤さでした。バラは、いつまでも正義でいたい、と思いました。だって、姫が褒めてくれるから。
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