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30 悪魔を打ち砕く神 ~苦しいからって諦めないで、別の世界は無限にあるから
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耳を劈く稲妻の轟きがやまない中で、ついに鼓膜は音を感じる事が出来なくなりました。頭に響く耳鳴りも高音すぎて、ある意味無音の世界です。
姫を強く抱きしめるバラは、まだ温かい姫の頬に自らの頬を寄せました。姫と一緒ならば、どのような最期を遂げても構わない、と思えます。何もかもを諦めました。
するとどうでしょう。心を蝕んでいた全ての恐怖から解放されて、とてもゆったりとした温い湯船に沈んでいるかの様な心境です。感じるのは、姫の温もりだけでした。
もはや、バラは飛行してはいません。滑空しているとも言い難い状態です。ただただ自由落下しているだけでした。
全く無力な状態です。ですが、バラは黒竜にでもメガトロンにでも食べられて良いとは思いません。
何もかも諦めて、積乱雲の中に全ての感情を捨て去った後、姫の笑顔を見た時の感情だけが残っていました。
何もかもを諦めたはずなのに、心は静寂に包ませています。荒れ狂う音は、全く心に響きません。姫と2人なら、もう死んでも構わない、と思いましたが、深層心理の底に眠る自分は、それを認めていなかったのです。バラは、姫への愛慕を原動力にして、延々と意識を保ち続けました。
どれ程の年月が経ったのでしょう。四方八方から押し倒してくる様な風圧に揉みくしゃにされながら、枯葉の様に錐もみ状態で落ちていくバラは、いつからか痛みも感じていません。
そして遂に精も根も尽き果てたバラは、囁くように姫に言いました。
「もう、終わりにしましょう、花の姫。
最後にもう一度、美徳溢れるご尊顔を拝する事が出来たのなら、幾度となくお伝えして来た事ではありますが、愛しております、とお伝えしたかった。
もはや、再びまみゆることすら叶わぬかもしれませんが、僕は後悔いたしません。本当に満足に感じています。
不徳の、非道の、陰湿の、悪逆の、卑劣の、残虐の、どんな言葉を並べようとも並べ足りないほどの暴虐を振るう魔界の皇子に、僕達は屈することはありませんでした。
今ここに、命潰える運命があろうとも、神魔を超える超自然の摂理の中で、光となって溶け合うならば、生きているよりも、却ってときめきの中にまどろめるというものです。
何人なりとも抗うことの出来ない超越の彼方に消え去るのならば、本望です」
バラが、姫を強く抱きしめて髪の香りを嗅ぐと、とても心が安らいで、朝焼けを浴びながら微睡んでいるかの様な心持ちとなりました。
不意に体が軽くなります。弄ぶかのように体を打ちたてていた暴風も、暴雨も、雷撃も、何もありません。陽の光がまぶたを貫きます。目を瞑っているのに眩しく感じてもて、バラは目を開き、意識が朦朧とするのを押して、辺りを見渡しました。
何たることでしょう。目の前には、見たこともない世界が広がっているではありませんか。
青や緑、白色をした四角い建物が幾つも聳え、その光景は遠くの山々にまで、途切れることなく続いています。まるで、ジャングルの様でした。
遠くには、雲まで届く鉄塔があります。花の宮殿を骨組みだけで作ったかの様にも見えますが、あそこまで高い建物は、花の国にはありません。
雲一つない空には太陽が燦々と輝き、先ほどまでとはうって変わって清澄な空気に包まれ、神々とは違う喜びが満ち満ち溢れています。不思議な世界でした。土もあり、草木もあり、犬や猫、トカゲや虫がいます。遠くに見えるのは湖でしょうか、沢山の魚が泳いでいるようです。
普通、花の里には、草木しか住んでいません。虫の里には、虫しか住んでいませんし、海獣の里には、海洋ほ乳類しか住んでいません。
それが、ここはどうでしょう。いかなる種類の動物も分け隔てなく住んでいるようです。鳥まで飛んでいました。
バラは、微量に残っていた神気を使って、なんとか降下速度を減速していきます。地平線の彼方まで、水平線の彼方まで、どこを見渡しても悪しき魔気は感じません。
バラは、感情が高ぶって涙していました。もしかしたら、まだ希望があるかもしれないからです。一度は諦めた命でしたが、狂おしいほどに溢れる姫への愛情が、死んだ細胞の全てをムチ打ち、奮い立たせます。
バラは尽きた気力を振り絞って、神気のクッションを敷いて、ふんわりと地面に舞い降りました。
黒くて硬い道路の上に姫を横たえて、恐る恐る腕や肩、頬に触れて、姫の生命を探ります。その間にも、姫の体は光の粒子となって、霧ように飛散していきます。
神には、人間のような肉体がありません。ですから、死を前にすると、霞のごとく消えていってしまうのです。今まさに姫は、死に向かっていたのでした。
「ああ、なぜこの様な事に!! なぜ、僕なんかのためなんかに、死んでおしまいになられたのです!!
貴女は、死んだ石の粒ばかりに埋め尽くされた世界に独り埋もれていた僕を救い出してくれた唯一の方なのです!!
僕が貴女様の為に死ぬようなことがあっても、貴女様が僕のために死ぬようなことがあってならならないのです!!
僕は、貴女に死なれたくはないのです! この身が滅びようと、このような天命は認めない!!」
バラは、今までにないほど取り乱していました。生きるのか死ぬるのか、めまぐるしく変わる運命に翻弄されて、混乱して動揺した心を抑えきれません。何より、自分の命が健在であることに動転していました。
2人で光となって溶け合う事が最後の望みであったのに、自分だけが息絶える事を許されなかったのです。
もはや、姫には生命を感じる事が出来ません。精美で芳醇、星々の中心に君臨する太陽のごとく、常にバラの全てを支配していた花の姫は、黒く冷たいアスファルトの上で消えゆく運命なのでしょうか。
バラは、横たわる姫の胸の上に両手を置いて、全力で神気を注ぎ込みます。搾り尽くした神気の滴を与え、なお絞り出そうと、枯渇した体を振るい立たせます。
慟哭しながら天を仰いだバラも、姫と共に力尽きようとしていました。自らの意思で。
嘆き悲しみながら、自らの体も光の粒子となって、飛散し始めていました。姫のみを1人逝かせるわけにはいきません。この期に及んでは、自らも絶命する事を望みました。
姫を強く抱きしめるバラは、まだ温かい姫の頬に自らの頬を寄せました。姫と一緒ならば、どのような最期を遂げても構わない、と思えます。何もかもを諦めました。
するとどうでしょう。心を蝕んでいた全ての恐怖から解放されて、とてもゆったりとした温い湯船に沈んでいるかの様な心境です。感じるのは、姫の温もりだけでした。
もはや、バラは飛行してはいません。滑空しているとも言い難い状態です。ただただ自由落下しているだけでした。
全く無力な状態です。ですが、バラは黒竜にでもメガトロンにでも食べられて良いとは思いません。
何もかも諦めて、積乱雲の中に全ての感情を捨て去った後、姫の笑顔を見た時の感情だけが残っていました。
何もかもを諦めたはずなのに、心は静寂に包ませています。荒れ狂う音は、全く心に響きません。姫と2人なら、もう死んでも構わない、と思いましたが、深層心理の底に眠る自分は、それを認めていなかったのです。バラは、姫への愛慕を原動力にして、延々と意識を保ち続けました。
どれ程の年月が経ったのでしょう。四方八方から押し倒してくる様な風圧に揉みくしゃにされながら、枯葉の様に錐もみ状態で落ちていくバラは、いつからか痛みも感じていません。
そして遂に精も根も尽き果てたバラは、囁くように姫に言いました。
「もう、終わりにしましょう、花の姫。
最後にもう一度、美徳溢れるご尊顔を拝する事が出来たのなら、幾度となくお伝えして来た事ではありますが、愛しております、とお伝えしたかった。
もはや、再びまみゆることすら叶わぬかもしれませんが、僕は後悔いたしません。本当に満足に感じています。
不徳の、非道の、陰湿の、悪逆の、卑劣の、残虐の、どんな言葉を並べようとも並べ足りないほどの暴虐を振るう魔界の皇子に、僕達は屈することはありませんでした。
今ここに、命潰える運命があろうとも、神魔を超える超自然の摂理の中で、光となって溶け合うならば、生きているよりも、却ってときめきの中にまどろめるというものです。
何人なりとも抗うことの出来ない超越の彼方に消え去るのならば、本望です」
バラが、姫を強く抱きしめて髪の香りを嗅ぐと、とても心が安らいで、朝焼けを浴びながら微睡んでいるかの様な心持ちとなりました。
不意に体が軽くなります。弄ぶかのように体を打ちたてていた暴風も、暴雨も、雷撃も、何もありません。陽の光がまぶたを貫きます。目を瞑っているのに眩しく感じてもて、バラは目を開き、意識が朦朧とするのを押して、辺りを見渡しました。
何たることでしょう。目の前には、見たこともない世界が広がっているではありませんか。
青や緑、白色をした四角い建物が幾つも聳え、その光景は遠くの山々にまで、途切れることなく続いています。まるで、ジャングルの様でした。
遠くには、雲まで届く鉄塔があります。花の宮殿を骨組みだけで作ったかの様にも見えますが、あそこまで高い建物は、花の国にはありません。
雲一つない空には太陽が燦々と輝き、先ほどまでとはうって変わって清澄な空気に包まれ、神々とは違う喜びが満ち満ち溢れています。不思議な世界でした。土もあり、草木もあり、犬や猫、トカゲや虫がいます。遠くに見えるのは湖でしょうか、沢山の魚が泳いでいるようです。
普通、花の里には、草木しか住んでいません。虫の里には、虫しか住んでいませんし、海獣の里には、海洋ほ乳類しか住んでいません。
それが、ここはどうでしょう。いかなる種類の動物も分け隔てなく住んでいるようです。鳥まで飛んでいました。
バラは、微量に残っていた神気を使って、なんとか降下速度を減速していきます。地平線の彼方まで、水平線の彼方まで、どこを見渡しても悪しき魔気は感じません。
バラは、感情が高ぶって涙していました。もしかしたら、まだ希望があるかもしれないからです。一度は諦めた命でしたが、狂おしいほどに溢れる姫への愛情が、死んだ細胞の全てをムチ打ち、奮い立たせます。
バラは尽きた気力を振り絞って、神気のクッションを敷いて、ふんわりと地面に舞い降りました。
黒くて硬い道路の上に姫を横たえて、恐る恐る腕や肩、頬に触れて、姫の生命を探ります。その間にも、姫の体は光の粒子となって、霧ように飛散していきます。
神には、人間のような肉体がありません。ですから、死を前にすると、霞のごとく消えていってしまうのです。今まさに姫は、死に向かっていたのでした。
「ああ、なぜこの様な事に!! なぜ、僕なんかのためなんかに、死んでおしまいになられたのです!!
貴女は、死んだ石の粒ばかりに埋め尽くされた世界に独り埋もれていた僕を救い出してくれた唯一の方なのです!!
僕が貴女様の為に死ぬようなことがあっても、貴女様が僕のために死ぬようなことがあってならならないのです!!
僕は、貴女に死なれたくはないのです! この身が滅びようと、このような天命は認めない!!」
バラは、今までにないほど取り乱していました。生きるのか死ぬるのか、めまぐるしく変わる運命に翻弄されて、混乱して動揺した心を抑えきれません。何より、自分の命が健在であることに動転していました。
2人で光となって溶け合う事が最後の望みであったのに、自分だけが息絶える事を許されなかったのです。
もはや、姫には生命を感じる事が出来ません。精美で芳醇、星々の中心に君臨する太陽のごとく、常にバラの全てを支配していた花の姫は、黒く冷たいアスファルトの上で消えゆく運命なのでしょうか。
バラは、横たわる姫の胸の上に両手を置いて、全力で神気を注ぎ込みます。搾り尽くした神気の滴を与え、なお絞り出そうと、枯渇した体を振るい立たせます。
慟哭しながら天を仰いだバラも、姫と共に力尽きようとしていました。自らの意思で。
嘆き悲しみながら、自らの体も光の粒子となって、飛散し始めていました。姫のみを1人逝かせるわけにはいきません。この期に及んでは、自らも絶命する事を望みました。
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