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22 密告の物の怪 ~言葉は話す者の魂が宿る~
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お城の敷地には、続々と大怪我を負った兵士達が運ばれてきます。救護班のハマナスとノイバラのお手伝いで、スズとハルは大忙しでした。
どこを見渡しても、外庭は横たわって唸る兵士で埋め尽くされていました。包帯も足りません。
昼夜を問わず、敵味方の入り乱れる声が2の城壁の内側まで聞こえてきます。ワニガメの悪魔率いるミドリガメの戦士達が、繰り返し攻めて来ていました。
周辺の町や村から退避してきた衛兵や自警団員の精霊を再編成した戦士達を率いて、防衛を指揮する青バラの騎士団が奮戦していました。分厚い甲羅の鎧を殴打するモーニングスターや、フレイルの音が鳴り響いています。
城内は、バラの高貴なダマスクモダンの香りが充満していましたから、下位の精霊や上位の妖精でも、何とか中上位の悪魔と対峙する事が出来ていました。
最後の防衛線を維持すべく、城壁の丘に敷かれた青バラの陣からは、ブルーの香りが薄らと湧きあがって、兵達の防御力を高めています。
そんな中、2の門の内側にピッチフォークで枯れ草を解して、一生懸命ベッドを整えているトカゲがいました。来る日も来るにも忙しそうに枯れ草を解していたので、大変そうだなぁと思ったスズは、ミントティーを入れて持って行ってあげました。
「やや、可愛いお嬢さん、高価で美味しいお茶をどうもありがとう」トカゲは大喜び。
「あら、可愛いだなんで、本当の事を言ってくれて嬉しいわ。
でも、お茶は普通のお茶よ、でも、ミントの精霊様の葉っぱだから、特別おいしいわ」
トカゲは、大きな目で舐めるようにスズを見やって言いました。
「とても綺麗なドレスですね、とても似合っていますよ。
戦場に咲く一輪の花のようですなぁ、傷ついた兵士達も癒されるってものです」
「そうでしょう? アリさんからもらったのよ」
「はぁ、やはりそうですか、アリらしいデザインです。
しかも、今はやりの肩が膨らんだやつですか」
「そうよ、ハフスリーフっていうのよ」
トカゲは、感心して言いました。
「流行のファッションを追えるなんて、スズちゃんはとてもセンスが良いですね。
可愛さでは、誰も貴女に敵いませんよ」
「あら、そうかしら、うふふ、当然そうよね」
隠しもせず喜ぶスズをジーと見ながら、トカゲは続けます。
「そう言えば、向こうにもアリのお洋服を着た白蛇の子がいましたが、あの子も可愛かったですねぇ」
「あら、そうね、あの子も可愛いわ」
スズは、少しムッとして答えます。
「でも、貴女の方が可愛いですよ、なんせハフスリーフがお似合いですからね。
あの子も可愛いですが、貴女ほどハフスリーフは似合わないでしょう」
「当然よ、わたしの方が可愛んだから。
こういう華やかなお洋服は、わたしが着た方が似合うのよ。
だから、あの子には、あのシンプルなドレスをあげたのよ」
自信満々にスズは答えました。話は続きそうでしたが、トカゲは遮って言います。
「確かに、そのお洋服と比べれば地味ですね。
スズちゃんより可愛くないから、地味な方がお似合いですね」
「そうよ、あの子は地味で良いの」
「スズちゃんは可愛いから、素敵なドレスを自分のにして、地味なドレスをハルちゃんにあげたのでしょ?」と問うトカゲに、何か引っかかりを感じたスズは答えず、頷きもしません。
それを見たトカゲは間を置いて、「スズちゃんは可愛いから」と繰り返します。それに頷くスズを見ると、満足そうにお茶を見ました。そして、ミントティーを飲み終わったトカゲはお礼を言って、どこかへ消えていきました。
スズのもとから去ってしばらく後にハルを見つけたトカゲは、隠れてハルを見ていました。ハルが自分を気にしそうな立ち位置を見定めようとしていたのです。そして、良い距離を見つけたトカゲは、ハルのもとで積もった枯葉を解し始めました。
「あら? トカゲさん、精が出るわね」ハルが話しかけました。
「おや? そのお洋服、アリさんの物みたいだなぁ」
「そうよ、素敵でしょ? お友達のスズちゃんからもらったのよ」
「ああ、なるほど、貴女の事でしたか。
いやね、先ほどスズちゃんから、お友達に可愛くないお洋服をあげたんだって自慢されたんですよ。
あの子には、流行りから外れたやつがお似合いだって」
「・・・・・、そうね、わたしよりスズちゃんが可愛いもの。
肩が膨らんだやつは、スズちゃんの方が似合うと思うわ」
なんと、トカゲはハルに告げ口に来たのです。しかも、わざと悪い言い回しに換えて。
ハルの心にモヤモヤが起こりました。スズの言い方は、ハルは可愛くない、と言っているように聞こえたからです。
トカゲは、ため息をつきました。
「でも、話しと大分違いますねぇ、ハルちゃんはとても可愛いですよ。
スズちゃんも確かに可愛いけど、自信過剰過ぎます。
世界は広いんですから、上には上がいますよねぇ?」
「そうね、もっと可愛い子はたくさんいるでしょうね」
「思い込みも甚だしいですなぁ」
「あはは、そうね、もう少し慎ましくても良いかもね」
それを聞いたトカゲは、「仕事に戻らなきゃ」と言って、どこかに消えていきました。
数日が経ったある日の事です。
「あら? トカゲさん、お久しぶりね」スズがトカゲに挨拶をしました。
久しぶりにスズのもとを訪れたトカゲは、開口一番言いました。
「そう言えば、この間ハルちゃんが言うんですよ、スズちゃんは思い込みが激しいって。
世界にはもっと可愛い子がたくさんいるんだから、スズちゃんの可愛さはそれほどでもないって。
もっと、謙虚にお淑やかにしないとダメだって」
「あら、あの子、そんなこと言っていたの?」
スズは、ぷんぷん怒って、そう言いました。
ここでもトカゲは告げ口をします。やはり悪い言い回しに換えて、スズの心にモヤモヤを起こさせました。
実は、このトカゲは精ではなく物の怪でした。結界の中に入ってきたコモドドラゴンの眷属でしたが、主が死んで1人ぼっちでした。
別にお友達が欲しいわけではありません。意地悪なコモドドラゴンが死んでせいせいしていたくらいです。
直接ではないにしても、八岐大蛇を倒し、ヒアリを倒し、ティラノサウルスまでをも倒した2人を倒せば、大手柄です。もしかしたら悪魔に昇華できるかもしれません。
スズとハル自体は精ですから強くありませんし、勝てる自信がありました。
トカゲは、2人の間を行き来して、密告を繰り返します。その内、だんだんと2人の距離は離れて行って、お手伝いも別々になってしまいました。
そんな2人を見て、トカゲの物の怪は大満足。
「わはははは、これであの2人もおしまいだ。
さあ、早いところ堕天してしまえ」
どこを見渡しても、外庭は横たわって唸る兵士で埋め尽くされていました。包帯も足りません。
昼夜を問わず、敵味方の入り乱れる声が2の城壁の内側まで聞こえてきます。ワニガメの悪魔率いるミドリガメの戦士達が、繰り返し攻めて来ていました。
周辺の町や村から退避してきた衛兵や自警団員の精霊を再編成した戦士達を率いて、防衛を指揮する青バラの騎士団が奮戦していました。分厚い甲羅の鎧を殴打するモーニングスターや、フレイルの音が鳴り響いています。
城内は、バラの高貴なダマスクモダンの香りが充満していましたから、下位の精霊や上位の妖精でも、何とか中上位の悪魔と対峙する事が出来ていました。
最後の防衛線を維持すべく、城壁の丘に敷かれた青バラの陣からは、ブルーの香りが薄らと湧きあがって、兵達の防御力を高めています。
そんな中、2の門の内側にピッチフォークで枯れ草を解して、一生懸命ベッドを整えているトカゲがいました。来る日も来るにも忙しそうに枯れ草を解していたので、大変そうだなぁと思ったスズは、ミントティーを入れて持って行ってあげました。
「やや、可愛いお嬢さん、高価で美味しいお茶をどうもありがとう」トカゲは大喜び。
「あら、可愛いだなんで、本当の事を言ってくれて嬉しいわ。
でも、お茶は普通のお茶よ、でも、ミントの精霊様の葉っぱだから、特別おいしいわ」
トカゲは、大きな目で舐めるようにスズを見やって言いました。
「とても綺麗なドレスですね、とても似合っていますよ。
戦場に咲く一輪の花のようですなぁ、傷ついた兵士達も癒されるってものです」
「そうでしょう? アリさんからもらったのよ」
「はぁ、やはりそうですか、アリらしいデザインです。
しかも、今はやりの肩が膨らんだやつですか」
「そうよ、ハフスリーフっていうのよ」
トカゲは、感心して言いました。
「流行のファッションを追えるなんて、スズちゃんはとてもセンスが良いですね。
可愛さでは、誰も貴女に敵いませんよ」
「あら、そうかしら、うふふ、当然そうよね」
隠しもせず喜ぶスズをジーと見ながら、トカゲは続けます。
「そう言えば、向こうにもアリのお洋服を着た白蛇の子がいましたが、あの子も可愛かったですねぇ」
「あら、そうね、あの子も可愛いわ」
スズは、少しムッとして答えます。
「でも、貴女の方が可愛いですよ、なんせハフスリーフがお似合いですからね。
あの子も可愛いですが、貴女ほどハフスリーフは似合わないでしょう」
「当然よ、わたしの方が可愛んだから。
こういう華やかなお洋服は、わたしが着た方が似合うのよ。
だから、あの子には、あのシンプルなドレスをあげたのよ」
自信満々にスズは答えました。話は続きそうでしたが、トカゲは遮って言います。
「確かに、そのお洋服と比べれば地味ですね。
スズちゃんより可愛くないから、地味な方がお似合いですね」
「そうよ、あの子は地味で良いの」
「スズちゃんは可愛いから、素敵なドレスを自分のにして、地味なドレスをハルちゃんにあげたのでしょ?」と問うトカゲに、何か引っかかりを感じたスズは答えず、頷きもしません。
それを見たトカゲは間を置いて、「スズちゃんは可愛いから」と繰り返します。それに頷くスズを見ると、満足そうにお茶を見ました。そして、ミントティーを飲み終わったトカゲはお礼を言って、どこかへ消えていきました。
スズのもとから去ってしばらく後にハルを見つけたトカゲは、隠れてハルを見ていました。ハルが自分を気にしそうな立ち位置を見定めようとしていたのです。そして、良い距離を見つけたトカゲは、ハルのもとで積もった枯葉を解し始めました。
「あら? トカゲさん、精が出るわね」ハルが話しかけました。
「おや? そのお洋服、アリさんの物みたいだなぁ」
「そうよ、素敵でしょ? お友達のスズちゃんからもらったのよ」
「ああ、なるほど、貴女の事でしたか。
いやね、先ほどスズちゃんから、お友達に可愛くないお洋服をあげたんだって自慢されたんですよ。
あの子には、流行りから外れたやつがお似合いだって」
「・・・・・、そうね、わたしよりスズちゃんが可愛いもの。
肩が膨らんだやつは、スズちゃんの方が似合うと思うわ」
なんと、トカゲはハルに告げ口に来たのです。しかも、わざと悪い言い回しに換えて。
ハルの心にモヤモヤが起こりました。スズの言い方は、ハルは可愛くない、と言っているように聞こえたからです。
トカゲは、ため息をつきました。
「でも、話しと大分違いますねぇ、ハルちゃんはとても可愛いですよ。
スズちゃんも確かに可愛いけど、自信過剰過ぎます。
世界は広いんですから、上には上がいますよねぇ?」
「そうね、もっと可愛い子はたくさんいるでしょうね」
「思い込みも甚だしいですなぁ」
「あはは、そうね、もう少し慎ましくても良いかもね」
それを聞いたトカゲは、「仕事に戻らなきゃ」と言って、どこかに消えていきました。
数日が経ったある日の事です。
「あら? トカゲさん、お久しぶりね」スズがトカゲに挨拶をしました。
久しぶりにスズのもとを訪れたトカゲは、開口一番言いました。
「そう言えば、この間ハルちゃんが言うんですよ、スズちゃんは思い込みが激しいって。
世界にはもっと可愛い子がたくさんいるんだから、スズちゃんの可愛さはそれほどでもないって。
もっと、謙虚にお淑やかにしないとダメだって」
「あら、あの子、そんなこと言っていたの?」
スズは、ぷんぷん怒って、そう言いました。
ここでもトカゲは告げ口をします。やはり悪い言い回しに換えて、スズの心にモヤモヤを起こさせました。
実は、このトカゲは精ではなく物の怪でした。結界の中に入ってきたコモドドラゴンの眷属でしたが、主が死んで1人ぼっちでした。
別にお友達が欲しいわけではありません。意地悪なコモドドラゴンが死んでせいせいしていたくらいです。
直接ではないにしても、八岐大蛇を倒し、ヒアリを倒し、ティラノサウルスまでをも倒した2人を倒せば、大手柄です。もしかしたら悪魔に昇華できるかもしれません。
スズとハル自体は精ですから強くありませんし、勝てる自信がありました。
トカゲは、2人の間を行き来して、密告を繰り返します。その内、だんだんと2人の距離は離れて行って、お手伝いも別々になってしまいました。
そんな2人を見て、トカゲの物の怪は大満足。
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