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8 欺瞞の悪魔 ~奇知を隠して愚かに見せ操る~
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風雲急を告げる重々しい雰囲気の中、参謀がバラのもとにやって来て言いました。
「閣下、陣形がご指示通りに整いました」
上空から騎士団に激を飛ばしたバラは、敵が迫る草原に向き直り右手をあげます。しばらく目を閉じ、微動だにしません。
眼前の敵を見やり、ゆっくりと静かに、それでいて力強く腕を振りおろし、同時に言いました。
「突撃!!」
「おおー!!!」
地上を低空飛行する5個大隊、上空を飛翔する3個大隊をバラ自ら率いて、出撃しました。進軍太鼓を打ち鳴らして、勇ましく進んで行きます。
城を閉ざしてから1000年以上経ちますが、バラの本性が城を出るのは初めてです。幼いころに雲海で夜蛾と闘った時以来の戦闘でした。
ですが、負ける気はしませんでした。バラの神気は、花の里ではトップクラスでしたし、天界全体でも一目置かれる実力があったからです。
実戦経験は殆どありませんが、並大抵の悪魔であれば、その神気にあてられただけでやられてしまうでしょう。実際バラが進軍を開始した直後から、妖怪や妖魔は次々と魂が蒸発して倒れていきました。
魔軍のアブラムシは横陣、ムクドリは衝軛の陣、コウモリはただ乱れ飛んでいるだけです。
それに対して、地上を行く騎士団は鶴翼の陣、上空を行く騎士団は魚麟の陣です。バラは、魚麟の前衛にある大隊を自ら指揮していました。
地上の騎士団でアブラムシを包囲殲滅し、縦横無尽に飛ぶムクドリには、機動力と防御力を兼ね備えた魚麟で突撃をかける作戦でした。これなら、コウモリが後ろから追いついてきて、攻撃される心配もありません。
この時バラは気が付いていませんでした。バラが感じ取れない超音波を使って、コウモリは常に交信していたのです。無秩序に飛んでいる様であっても、とても統制が執れた飛行だったのです。
細かい分隊に別れたコウモリ達は、縦横無尽に飛び回って黒い幕状になり視界を遮って、その後方にあるものを隠していました。
会戦してから間もなく、お互いの剣が交わった瞬間、バラの騎士団の攻撃で瞬く間にアブラムシの戦士は斬り倒されていきます。
その攻撃力に恐れおののいたアブラムシ達は、一目散に逃げていきました。
「逃がすなー! 進めー! 進め―!!」
地上の各大隊を率いる大隊長が叫びます。両翼は進軍速度を速め、あたかも鶴が翼を広げたように逃走する敵を包み込もう、と坂を攻め下りました。
両翼が閉じる前に逃れた敵軍を目の前にして騎士団は勢いづき、追い打ちをかけます。
会戦早々、バラ騎士達は自分達の勝利を確信しました。地上の各大隊の騎士達は、多くの手柄を立てよう、と我先にと敵の背中を追いかけていきます。
その光景に、上空の騎士達も勢いづきました。誰一人として、陣形が崩れていると指摘する者はおりません。美しかった鶴翼の陣は、見る影もなく崩れて、雪崩を打ったように攻め駆けて行きます。
ムクドリの塊がゴワゴワと形を変えて飛行騎士団の追撃をかわしていましたが、バラ騎士の突撃を受ける度に多くの戦士達が打ち取られていきました。
ムクドリは力の弱い悪魔ではありません。ですが、しなるイバラのムチをよけきれずに、トゲに翼を切り裂かれて、ことごとく落とされていきました。
そもそもバラの戦闘力が圧倒的すぎて、バラ1人だけでも勝てるほどです。ですから、現時点に置いて、バラの騎士団には1人の戦死者も出ていません。それがまた、騎士団を慢心させました。
上空では、コウモリが囲った空間の中を、ムクドリの塊が右往左往しています。一糸乱れず歩調を合わせて、陣形そのままに舞い飛ぶバラの騎士団を前にして、繰り出す攻撃も弾かれて、なす術がありません。
「敵は瓦解したぞ! 進めー!!」バラが全軍に叫びました。
ムクドリを壊滅させたバラは号令を発し、飛行する3個大隊を分割して、それぞれコウモリを落とすように命じました。
しかし、何かがおかしいです。倒しても倒しても、コウモリの数が一向に減りません。実は、コウモリの暗幕の後ろから、隠れていたコウモリがどんどん加わっていたからです。
騎士達は気付かず必死に戦い、ついに地上の1個師団は坂を下り切りました。
バラは、飛行する3大隊を1つにまとめて、方陣を組みます。逃げまどう一方だったコウモリ達が逃げなくなって、逆に取り囲まれてしまいました。全方向から攻撃されながら、コウモリの塊に押し流されていきます。
地上の騎士達が目の前の緩やかな坂道を見上げると、逃げて行ったアブラムシの戦士たちが、1大隊に再編されていました。今にも突撃してきそうな勢いです。
騎士団の大隊長達は、急いで陣形を整えるように命じますが、騎士達は自分がどこにいるのか、どこに集まればいいのか、周りにいるのはどの大隊か分からず、再集結が進みません。
上空には、包囲された飛行騎士団が押し流されてきました。
これではラチが明かないと、大量の神気を発したバラが取り囲むコウモリを吹き飛ばしたその時、目の前に強大な魔気が出現しました。それは止めどなく溢れかえっています。
騎士達がアブラムシ大隊の後ろを見やると、噴出する黒い魔気の根元に、1人の男が立っていました。
バラは一瞬で察しました。あの男は自分より強い、と。眼下の騎士達も息ができなくなって、呆然と立ち尽くしています。
気が付くと、強い魔気がワサワサと現れました。見渡すと、マントヒヒの悪魔に取り囲まれています。
坂を下りきったバラの騎士団は、ちょっとした盆地にいます。兵法では、高い位置から低い位置の敵を攻めるのが上策でした。上り坂を攻め上がるのは大変ですが、攻め下るのは簡単です。そのため花の里の城の多くは、丘の上や山の上に築かれていました。
それが今はどうでしょう。目の前にいるアブラムシ大隊を見上げています。今下ってきた坂の上には、マントヒヒの悪魔がいます。立ち位置が完全に入れ替わっていました。
左右から駆けてきたマントヒヒに襲われた地上大隊は応戦しますが、騎士達は次々と花弁を食べられてしまいます。
陣形が崩れていたため組織的に応戦できなかったバラ騎士達は、各個に撃破されていきました。
「戻れー! 取り囲まれるぞ!戻れー!!」
慌てふためいたバラは全軍に撤退を指示し、城へ向けて一目散に坂を駆けあがっていきます。
バラは先頭に立って、マントヒヒの騎士をイバラのムチで叩き飛ばして道を作ります。何とか逃げ道を確保するとその場に留まって、追撃してくるマントヒヒの騎士を迎え撃ちました。
圧倒的な神気が壁となって、マントヒヒは坂を駆けあがれません。無理やりに神気の中に突っ込みますが、みんな体が重くなって、走る速度が遅くなり、次々と打ち取られていきます。
しかし、城側に立ち塞がるマントヒヒに、バラ騎士は大苦戦でした。マントヒヒが坂を下る時のスピードを乗せて繰り出す攻撃は、その威力を何倍にも増加させています。バラ騎士は、防御した剣やムチごと弾き飛ばされてしまいます。
中には、一回転する騎士もいました。小さな盾を兼ねたロウアーカノンは砕けて、バラバラのただのトゲになって落ちました。騎士達は、大将であるバラの神気で白バラの鎧を急きょフル装備しましたから死なずに済みましたが、怪我人続出です。
勝てると思って悠々出撃したはずなのに、圧倒的な戦力を見せつけられて、バラは絶望のどん底に突き落とされてしまいました。花の里でも有数の実力者と褒めそやされて、過剰なまでに信じた自分の力に疑問が生じ、自信喪失です。
バラの神気を遥かに上回る魔力を前にして、勝てない、という恐怖を植え付けられてしまいました。バラを慢心させておびき出し、失意させる事によって、簡単にバラを心理的に屈服させたのです。
魔界の皇子にとって、それはあまりにも簡単な事でした。
「閣下、陣形がご指示通りに整いました」
上空から騎士団に激を飛ばしたバラは、敵が迫る草原に向き直り右手をあげます。しばらく目を閉じ、微動だにしません。
眼前の敵を見やり、ゆっくりと静かに、それでいて力強く腕を振りおろし、同時に言いました。
「突撃!!」
「おおー!!!」
地上を低空飛行する5個大隊、上空を飛翔する3個大隊をバラ自ら率いて、出撃しました。進軍太鼓を打ち鳴らして、勇ましく進んで行きます。
城を閉ざしてから1000年以上経ちますが、バラの本性が城を出るのは初めてです。幼いころに雲海で夜蛾と闘った時以来の戦闘でした。
ですが、負ける気はしませんでした。バラの神気は、花の里ではトップクラスでしたし、天界全体でも一目置かれる実力があったからです。
実戦経験は殆どありませんが、並大抵の悪魔であれば、その神気にあてられただけでやられてしまうでしょう。実際バラが進軍を開始した直後から、妖怪や妖魔は次々と魂が蒸発して倒れていきました。
魔軍のアブラムシは横陣、ムクドリは衝軛の陣、コウモリはただ乱れ飛んでいるだけです。
それに対して、地上を行く騎士団は鶴翼の陣、上空を行く騎士団は魚麟の陣です。バラは、魚麟の前衛にある大隊を自ら指揮していました。
地上の騎士団でアブラムシを包囲殲滅し、縦横無尽に飛ぶムクドリには、機動力と防御力を兼ね備えた魚麟で突撃をかける作戦でした。これなら、コウモリが後ろから追いついてきて、攻撃される心配もありません。
この時バラは気が付いていませんでした。バラが感じ取れない超音波を使って、コウモリは常に交信していたのです。無秩序に飛んでいる様であっても、とても統制が執れた飛行だったのです。
細かい分隊に別れたコウモリ達は、縦横無尽に飛び回って黒い幕状になり視界を遮って、その後方にあるものを隠していました。
会戦してから間もなく、お互いの剣が交わった瞬間、バラの騎士団の攻撃で瞬く間にアブラムシの戦士は斬り倒されていきます。
その攻撃力に恐れおののいたアブラムシ達は、一目散に逃げていきました。
「逃がすなー! 進めー! 進め―!!」
地上の各大隊を率いる大隊長が叫びます。両翼は進軍速度を速め、あたかも鶴が翼を広げたように逃走する敵を包み込もう、と坂を攻め下りました。
両翼が閉じる前に逃れた敵軍を目の前にして騎士団は勢いづき、追い打ちをかけます。
会戦早々、バラ騎士達は自分達の勝利を確信しました。地上の各大隊の騎士達は、多くの手柄を立てよう、と我先にと敵の背中を追いかけていきます。
その光景に、上空の騎士達も勢いづきました。誰一人として、陣形が崩れていると指摘する者はおりません。美しかった鶴翼の陣は、見る影もなく崩れて、雪崩を打ったように攻め駆けて行きます。
ムクドリの塊がゴワゴワと形を変えて飛行騎士団の追撃をかわしていましたが、バラ騎士の突撃を受ける度に多くの戦士達が打ち取られていきました。
ムクドリは力の弱い悪魔ではありません。ですが、しなるイバラのムチをよけきれずに、トゲに翼を切り裂かれて、ことごとく落とされていきました。
そもそもバラの戦闘力が圧倒的すぎて、バラ1人だけでも勝てるほどです。ですから、現時点に置いて、バラの騎士団には1人の戦死者も出ていません。それがまた、騎士団を慢心させました。
上空では、コウモリが囲った空間の中を、ムクドリの塊が右往左往しています。一糸乱れず歩調を合わせて、陣形そのままに舞い飛ぶバラの騎士団を前にして、繰り出す攻撃も弾かれて、なす術がありません。
「敵は瓦解したぞ! 進めー!!」バラが全軍に叫びました。
ムクドリを壊滅させたバラは号令を発し、飛行する3個大隊を分割して、それぞれコウモリを落とすように命じました。
しかし、何かがおかしいです。倒しても倒しても、コウモリの数が一向に減りません。実は、コウモリの暗幕の後ろから、隠れていたコウモリがどんどん加わっていたからです。
騎士達は気付かず必死に戦い、ついに地上の1個師団は坂を下り切りました。
バラは、飛行する3大隊を1つにまとめて、方陣を組みます。逃げまどう一方だったコウモリ達が逃げなくなって、逆に取り囲まれてしまいました。全方向から攻撃されながら、コウモリの塊に押し流されていきます。
地上の騎士達が目の前の緩やかな坂道を見上げると、逃げて行ったアブラムシの戦士たちが、1大隊に再編されていました。今にも突撃してきそうな勢いです。
騎士団の大隊長達は、急いで陣形を整えるように命じますが、騎士達は自分がどこにいるのか、どこに集まればいいのか、周りにいるのはどの大隊か分からず、再集結が進みません。
上空には、包囲された飛行騎士団が押し流されてきました。
これではラチが明かないと、大量の神気を発したバラが取り囲むコウモリを吹き飛ばしたその時、目の前に強大な魔気が出現しました。それは止めどなく溢れかえっています。
騎士達がアブラムシ大隊の後ろを見やると、噴出する黒い魔気の根元に、1人の男が立っていました。
バラは一瞬で察しました。あの男は自分より強い、と。眼下の騎士達も息ができなくなって、呆然と立ち尽くしています。
気が付くと、強い魔気がワサワサと現れました。見渡すと、マントヒヒの悪魔に取り囲まれています。
坂を下りきったバラの騎士団は、ちょっとした盆地にいます。兵法では、高い位置から低い位置の敵を攻めるのが上策でした。上り坂を攻め上がるのは大変ですが、攻め下るのは簡単です。そのため花の里の城の多くは、丘の上や山の上に築かれていました。
それが今はどうでしょう。目の前にいるアブラムシ大隊を見上げています。今下ってきた坂の上には、マントヒヒの悪魔がいます。立ち位置が完全に入れ替わっていました。
左右から駆けてきたマントヒヒに襲われた地上大隊は応戦しますが、騎士達は次々と花弁を食べられてしまいます。
陣形が崩れていたため組織的に応戦できなかったバラ騎士達は、各個に撃破されていきました。
「戻れー! 取り囲まれるぞ!戻れー!!」
慌てふためいたバラは全軍に撤退を指示し、城へ向けて一目散に坂を駆けあがっていきます。
バラは先頭に立って、マントヒヒの騎士をイバラのムチで叩き飛ばして道を作ります。何とか逃げ道を確保するとその場に留まって、追撃してくるマントヒヒの騎士を迎え撃ちました。
圧倒的な神気が壁となって、マントヒヒは坂を駆けあがれません。無理やりに神気の中に突っ込みますが、みんな体が重くなって、走る速度が遅くなり、次々と打ち取られていきます。
しかし、城側に立ち塞がるマントヒヒに、バラ騎士は大苦戦でした。マントヒヒが坂を下る時のスピードを乗せて繰り出す攻撃は、その威力を何倍にも増加させています。バラ騎士は、防御した剣やムチごと弾き飛ばされてしまいます。
中には、一回転する騎士もいました。小さな盾を兼ねたロウアーカノンは砕けて、バラバラのただのトゲになって落ちました。騎士達は、大将であるバラの神気で白バラの鎧を急きょフル装備しましたから死なずに済みましたが、怪我人続出です。
勝てると思って悠々出撃したはずなのに、圧倒的な戦力を見せつけられて、バラは絶望のどん底に突き落とされてしまいました。花の里でも有数の実力者と褒めそやされて、過剰なまでに信じた自分の力に疑問が生じ、自信喪失です。
バラの神気を遥かに上回る魔力を前にして、勝てない、という恐怖を植え付けられてしまいました。バラを慢心させておびき出し、失意させる事によって、簡単にバラを心理的に屈服させたのです。
魔界の皇子にとって、それはあまりにも簡単な事でした。
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