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言い訳なんかしない、まずは謝ろう
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高く長く飛べるようになった2人の遊び場は、外庭一周に留まらず、2の城壁の外側にあるノシバの丘にまで及びました。
ここは1の城壁から続く斜面で、戦いの時、敵が簡単に登ってこられないように、ノシバ以外には何も植えられていません。外庭と丘を隔てる城壁には、沢山の縦長の隙間が空いています。アリ1匹入れてはならぬ大砦に、何故このような隙間があるのでしょうか。
これは狭間といって、昇ってくる敵を攻撃する時に使います。敵からの反撃から身を隠すために細くなっているのです。見上げると、屋上附近の凸凹した手すりの部分もせり出していて、裏側に穴が開いていました。普段は内側から蓋が閉じられていますが、城壁をよじ登る敵を、ここから攻撃するためにあるのです。
人間の世界でも、大きな岩を落としたり、熱い油を流したりして攻撃するのに使われていました。
そんな事は全く知らない2人は、光を追いかけたり、鬼ごっこしたり、滑って遊んだりしています。
しばらくして2人は、本城へと続く正面にやってきました。今日は休館日なので、見学者は1人もいません。スズとハルの貸切り広場です。
階段を登っては飛び立って、フワフワと降りていき、登っては飛び立って、フワフワと降りていく遊びをしていました。飛び立つ高さは段々と高くなってきき、遂には階段ではなく2階のベランダからになりました。
「なんだろう、あれぇ!」
スズが言いました。ハルが顔を上げると、3階のベランダに組まれた物干し竿に、光の花のような白色に輝く透けるほど薄い羽衣が干してあって、風にたなびいていました。
近づくと、良い香りがします。
「ハルちゃん、お姫様の香りかな?」
スズが言いました。仄かな香りを胸いっぱいに吸い込みます。
「そうだよ。お姫様の香りよ。
絶対に間違いないわ、だってここには2階のベランダと違って、兵士達のローブは干していないでしょう? お団子頭のお付きのお姉ちゃん達のような紺のお洋服もないわ。
全部、とても綺麗なドレスばかりよ」
人の里の神様や、お友達の天女からもらった物でしょうか。それとも人間界の仙女からもらった物でしょうか。どちらにしても大変珍しい代物で、2人共興味津々、ドキドキしながら傍に寄りました。
花の姫にはお会いした事はありませんが、とても可愛くて綺麗だと評判です。ドレスも沢山持っていて、どれも素晴らしいものでした。2人にとっては見たこともないとても美しい御着物に、美術館で鑑賞しているかのように思えます。
幼い頃の姫は、背中に大きなリボンが付いた膝が隠れるくらいの長さのドレスを好んできていました。今でもリボンの大好きな姫は、大きなリボンがチャームポイントの簡素なパステルカラーのドレスを着ています。胸元に宝石が付いているリボンがあって、腰の後ろにも大きなリボンが付いています。
幼い頃と違って、半そでを多用していました。首から肩、お腹の前へ続くレースは、おへそ当りでくっついて、足に向かってまた別れて続いています。
お年頃ですから、宮殿のダンスパーティ-に招かれることもありますし、睡蓮城でもダンスパーティーを開くこともあります。ですから、外套のローブと内側の衣とが分かれた、良いドレスもあり、陰干しされていました。
それらを「ほぇ~」と眺め歩いた2人は、もう一度羽衣の前にやってきました。クモの糸よりももっと細い糸が、とても細かく編まれています。あまりに薄すぎて、向こう側がはっきりと透けているほどでした。縦糸と横糸の間の目に見えないほどの小さな隙間は、淡く光り輝いているではありませんか
人間にはまねできない精巧さです。上等な絹織物なんて全く相手にならないほどの、神秘的な羽衣です。
あまりに軽すぎて、大地のお誘いにも気を持たぬ様に、優美に宙に浮いていました。
スズは言いました。
「昔、お母さんから聞いたことがあるわ。
天女の羽衣といって、これをつけると、誰でも空が飛べるらしいのよ。
神気が弱くても、羽が無くても飛べるのよ」
「なら、試しに2人で飛んでみましょうよ」
ハルのウキウキするような提案に乗ったスズは、さっそく羽衣取って、包まってみます。
するとどうでしょう。本当にふんわり浮いたではありませんか。揺り籠の中でうたた寝する昼下がりのような気持ちの良さです。体のどこにも重力を感じません。
ハルも羨ましがって、一生懸命に羽衣の中に這い上がります。手触りも大変柔らかく、触っているのに触っているという感触はありません。なのに、手触りが気持ち良いという感覚だけが伝わってきます。
神話に出てくる天女は大変美しく、2人にとっては憧れの的です。羽衣に包まっていると、自分達も美しい女神になったのではないかと錯覚してしまうほど、気分が良くなってきました。フワフワして美しいので、ずっと包まって遊んでいました。
ですがこういう時に限って、不幸は訪れるものです。気が付かぬうちに風に流されて、反対側のイバラの方に行ってしまいました。2人にとっては、頬を撫でる程度の些細なそよ風でしたが、羽衣が軽すぎて流れて行ってしまったのです。
2人が気付いた時には、ビリビリという音が響いた後でした。なんと、大きく突き出したトゲに引っ掛かって、羽衣が破けてしまったのです。びっくりしたスズとハルは、慌てて羽衣から降りて、一生懸命トゲから外しました。
しかし、焦れば焦るほどうまくとることが出来ず、更にビリビリビリリと裂けてしまいます。初めはちょっと破けた程度だったのが、取り外した時には、見るも無残な布きれになっていました。
姫の大事な羽衣を破いてしまうなんて、許されるはずがありません。とてつもない大罪です。しかも貴重な羽衣ですから、とんでもなく怒られてしまうでしょう。もしかしたら、罰として消されてしまうのではないかと思って、2人はそれぞれのお家に逃げ帰ってしまいました。
その時、2人が握りしめていた羽衣は2つに裂けてしまったので、スズもハルもお家のツルの隙間に隠しました。そのまま2人は布団にもぐりこんで、震えて泣いていました。
ですが、最初に羽衣が破れた時点で、バラは気が付いていました。自らのトゲで破けたのですから、気が付かないはずがないのです。それに、居城での出来事ですから、姫も見ていました。
更には、2人が住まうお家はバラのイバラでできているのですから、バラは、布団に包まって恐れ怯えながら泣き叫んでいるのも見ることが出来ます。2人を見やると、すごくつらく苦しい気持ちでいることが伝わって来るではありませんか。
イバラに残った羽衣を手にしたバラは少し考えて、姫の所に謁見を申し込みに行きました。自分の不始末で破いてしまったと報告する為です。それは、2人が可愛そうだったからです。
姫は、バラの様子も見ていました。2人との主従関係をとても微笑ましく感じたのかもしれません。バラの優しさに免じて許すことにしました。
お咎めが無いことを不思議に思う2人は、長い間何も罰がないのが逆に不安で耐えられず、手をつないで、バラへ謝りに行きました。
跪いてバラの降臨を願った2人の前に現れたバラは、土下座する頭を撫でてやりながら、言いました。
「大丈夫だよ、お優しい姫様は、2人を許してくれたから。
確かに姫の羽衣で勝手に遊んで破いてしまったのは大変な事だったし、黙って逃げてしまうのではなく、その場で届け出るべきだったけど、ちゃんと謝りに来たのは偉かったね」
素直に告白したことを褒めてあげたのです。2人は嬉しくて、バラに抱き付いて離れませんでした。
ここは1の城壁から続く斜面で、戦いの時、敵が簡単に登ってこられないように、ノシバ以外には何も植えられていません。外庭と丘を隔てる城壁には、沢山の縦長の隙間が空いています。アリ1匹入れてはならぬ大砦に、何故このような隙間があるのでしょうか。
これは狭間といって、昇ってくる敵を攻撃する時に使います。敵からの反撃から身を隠すために細くなっているのです。見上げると、屋上附近の凸凹した手すりの部分もせり出していて、裏側に穴が開いていました。普段は内側から蓋が閉じられていますが、城壁をよじ登る敵を、ここから攻撃するためにあるのです。
人間の世界でも、大きな岩を落としたり、熱い油を流したりして攻撃するのに使われていました。
そんな事は全く知らない2人は、光を追いかけたり、鬼ごっこしたり、滑って遊んだりしています。
しばらくして2人は、本城へと続く正面にやってきました。今日は休館日なので、見学者は1人もいません。スズとハルの貸切り広場です。
階段を登っては飛び立って、フワフワと降りていき、登っては飛び立って、フワフワと降りていく遊びをしていました。飛び立つ高さは段々と高くなってきき、遂には階段ではなく2階のベランダからになりました。
「なんだろう、あれぇ!」
スズが言いました。ハルが顔を上げると、3階のベランダに組まれた物干し竿に、光の花のような白色に輝く透けるほど薄い羽衣が干してあって、風にたなびいていました。
近づくと、良い香りがします。
「ハルちゃん、お姫様の香りかな?」
スズが言いました。仄かな香りを胸いっぱいに吸い込みます。
「そうだよ。お姫様の香りよ。
絶対に間違いないわ、だってここには2階のベランダと違って、兵士達のローブは干していないでしょう? お団子頭のお付きのお姉ちゃん達のような紺のお洋服もないわ。
全部、とても綺麗なドレスばかりよ」
人の里の神様や、お友達の天女からもらった物でしょうか。それとも人間界の仙女からもらった物でしょうか。どちらにしても大変珍しい代物で、2人共興味津々、ドキドキしながら傍に寄りました。
花の姫にはお会いした事はありませんが、とても可愛くて綺麗だと評判です。ドレスも沢山持っていて、どれも素晴らしいものでした。2人にとっては見たこともないとても美しい御着物に、美術館で鑑賞しているかのように思えます。
幼い頃の姫は、背中に大きなリボンが付いた膝が隠れるくらいの長さのドレスを好んできていました。今でもリボンの大好きな姫は、大きなリボンがチャームポイントの簡素なパステルカラーのドレスを着ています。胸元に宝石が付いているリボンがあって、腰の後ろにも大きなリボンが付いています。
幼い頃と違って、半そでを多用していました。首から肩、お腹の前へ続くレースは、おへそ当りでくっついて、足に向かってまた別れて続いています。
お年頃ですから、宮殿のダンスパーティ-に招かれることもありますし、睡蓮城でもダンスパーティーを開くこともあります。ですから、外套のローブと内側の衣とが分かれた、良いドレスもあり、陰干しされていました。
それらを「ほぇ~」と眺め歩いた2人は、もう一度羽衣の前にやってきました。クモの糸よりももっと細い糸が、とても細かく編まれています。あまりに薄すぎて、向こう側がはっきりと透けているほどでした。縦糸と横糸の間の目に見えないほどの小さな隙間は、淡く光り輝いているではありませんか
人間にはまねできない精巧さです。上等な絹織物なんて全く相手にならないほどの、神秘的な羽衣です。
あまりに軽すぎて、大地のお誘いにも気を持たぬ様に、優美に宙に浮いていました。
スズは言いました。
「昔、お母さんから聞いたことがあるわ。
天女の羽衣といって、これをつけると、誰でも空が飛べるらしいのよ。
神気が弱くても、羽が無くても飛べるのよ」
「なら、試しに2人で飛んでみましょうよ」
ハルのウキウキするような提案に乗ったスズは、さっそく羽衣取って、包まってみます。
するとどうでしょう。本当にふんわり浮いたではありませんか。揺り籠の中でうたた寝する昼下がりのような気持ちの良さです。体のどこにも重力を感じません。
ハルも羨ましがって、一生懸命に羽衣の中に這い上がります。手触りも大変柔らかく、触っているのに触っているという感触はありません。なのに、手触りが気持ち良いという感覚だけが伝わってきます。
神話に出てくる天女は大変美しく、2人にとっては憧れの的です。羽衣に包まっていると、自分達も美しい女神になったのではないかと錯覚してしまうほど、気分が良くなってきました。フワフワして美しいので、ずっと包まって遊んでいました。
ですがこういう時に限って、不幸は訪れるものです。気が付かぬうちに風に流されて、反対側のイバラの方に行ってしまいました。2人にとっては、頬を撫でる程度の些細なそよ風でしたが、羽衣が軽すぎて流れて行ってしまったのです。
2人が気付いた時には、ビリビリという音が響いた後でした。なんと、大きく突き出したトゲに引っ掛かって、羽衣が破けてしまったのです。びっくりしたスズとハルは、慌てて羽衣から降りて、一生懸命トゲから外しました。
しかし、焦れば焦るほどうまくとることが出来ず、更にビリビリビリリと裂けてしまいます。初めはちょっと破けた程度だったのが、取り外した時には、見るも無残な布きれになっていました。
姫の大事な羽衣を破いてしまうなんて、許されるはずがありません。とてつもない大罪です。しかも貴重な羽衣ですから、とんでもなく怒られてしまうでしょう。もしかしたら、罰として消されてしまうのではないかと思って、2人はそれぞれのお家に逃げ帰ってしまいました。
その時、2人が握りしめていた羽衣は2つに裂けてしまったので、スズもハルもお家のツルの隙間に隠しました。そのまま2人は布団にもぐりこんで、震えて泣いていました。
ですが、最初に羽衣が破れた時点で、バラは気が付いていました。自らのトゲで破けたのですから、気が付かないはずがないのです。それに、居城での出来事ですから、姫も見ていました。
更には、2人が住まうお家はバラのイバラでできているのですから、バラは、布団に包まって恐れ怯えながら泣き叫んでいるのも見ることが出来ます。2人を見やると、すごくつらく苦しい気持ちでいることが伝わって来るではありませんか。
イバラに残った羽衣を手にしたバラは少し考えて、姫の所に謁見を申し込みに行きました。自分の不始末で破いてしまったと報告する為です。それは、2人が可愛そうだったからです。
姫は、バラの様子も見ていました。2人との主従関係をとても微笑ましく感じたのかもしれません。バラの優しさに免じて許すことにしました。
お咎めが無いことを不思議に思う2人は、長い間何も罰がないのが逆に不安で耐えられず、手をつないで、バラへ謝りに行きました。
跪いてバラの降臨を願った2人の前に現れたバラは、土下座する頭を撫でてやりながら、言いました。
「大丈夫だよ、お優しい姫様は、2人を許してくれたから。
確かに姫の羽衣で勝手に遊んで破いてしまったのは大変な事だったし、黙って逃げてしまうのではなく、その場で届け出るべきだったけど、ちゃんと謝りに来たのは偉かったね」
素直に告白したことを褒めてあげたのです。2人は嬉しくて、バラに抱き付いて離れませんでした。
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